鼻毛のオッサン

電車に乗っていると、時々異常とも思える行動を取る人がいる。さすが東京だ。

会社からの帰り、電車に乗り込むとラッキーにもドアのすぐ横の端っこの席が空いていた。
他はそれなりに混んでいるのに。
人間は電車内では端っこに座るという習性があるため、このような席が空いていることは
珍しい。だが、そのときの私はこの事実を不審に思う余裕が無かった。
空いてるラッキー座ろう、だった。

満員電車で妙に空いている空間があれば、そこには汚物があると思え!というのは、
私の経験則であるが、特にそのようなものは無かった。

目を閉じ、うつらうつらしていると一定規則に従った「揺れ」が隣のオッサンの方から
感じられる。
オッサンは鼻毛を抜いていた。
しかも一度や二度ではない。
取り憑かれたように、鼻の穴に指を差し込んではブチッ、差し込んではブチッを
繰り返している。鼻毛が急速に伸びる幻覚でも見ているのだろうか。
さらに、数回繰り返したあと、自らの親指、人差し指をじーっと見て、目の前の床に
パラパラと「毛」を落とし始めた。

やれやれ、終わったか。と思ったのもつかの間、さらに鼻毛のオッサンは
例の動作を繰り返し始める。そしてパラパラ。
おそらく床には視認できるほどの鼻毛の山が出来ているに違いない。

おっさんは目の前のつり革に女性が掴まっても、その動作をやめなかった。
差し込んでブチッ、差し込んでブチッ。
そして「パラパラ」をやった瞬間、女性は逃げ出した。

実に丸の内線「銀座」〜「新宿」まで、オッサンはずっと鼻毛を抜きっぱなしであった。
この間、約20分である。

このオッサンには「鼻毛を人前で抜くのは恥ずかしいこと」という認識がなかったのであろう。
自分の認識外の行動を取る人間を目の当たりにした私は、寝たふりをしながら恐怖を感じていた。

今後、さらに上のレベルの人間が出現しないように祈るばかりである…。


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