br> 下校中の中学生集団とすれ違った私は、交通標語らしきものが書いてある看板を発見した。 発見したというか、道のわきのとこに立ってた。 「親からもらったこの命地球より重いっちや」「この道、佐渡道、佐和田道 あせっちゃダチカン事故のもと」 これがここの方言なのか。 ダチカンは私の持ってる「全国方言一覧辞典」には載ってなかった。何の用があってそんな辞典を持ってるんだ。 で、検索してみたら「だめだ」という意味らしい。うむ、それは文脈からなんとなくわかる。それにしても、ここまで方言らしき言葉をしゃべる人に全く会っていない。特に誰とも会話をしていないのが一番の原因だ。 もう完全に市街地だ。めちゃめちゃ狭い道に車が殺到している。車道がこれ一本しかないからしょうがないのかも知れないが、走っていてぜんぜん楽しくない道だ。 橋のらんかんに太鼓をもった子鬼が居たので写真を撮った。ああ、川の向こうっかわはめちゃめちゃいい景色だ。でも私の走る道は狭くて車の多い、いやな道だ。 そして、そろそろ私の尻が悲鳴をあげていた。尻だけでなく、私自身も「尻がっ、しりがああ」と悲鳴をあげていた。 これは、とりあえず声に出しておくとなんとなく気が楽になるという効果を狙ったものだ。尻の痛みは変わらない。 やっぱ、どっかキャンプ場でもう一泊しようか、とか気の弱いことを考え始めていた。道は相変わらず歩道も整備されていない狭い道。車は大渋滞だ。 片側一車線づつの狭い道に面して、木造の味わい深いというか、古臭いというか、そういう建物がずらりと並んでいる。ときどき隙間があって、その先行くと田中の家みたいな手書きの案内板とかがあった。 もう夕方だ。相変わらず尻が尻がとつぶやきながら、私は自転車をこぎつづけた。 港に到着!まだ新潟行きの船はあるだろうか。 最終便があった。 およそ二時間後、7時すぎに出発らしい。 私は佐渡汽船の建物の前にあるベンチに座った。目の前は警察署だった。 さて、道中で買った2リットルのペットボトルが非常に邪魔だった。水はおよそ2/3くらいは残っている。 それ以外にもフルーツたまごの残りとか食パンの残りとか、色々かさばるものが多い。 水はまあ、飲んでしまえばいいだろう。2リットルのペットボトルをラッパ飲み。道行く人が、かわいそうな人を見るような目で通り過ぎて行ったような気がするがきっと気のせいだ。 ご飯でも食おうかな。新潟についてからにしようかな。水をごくごく飲みながら考えた。まだ1/3くらいはある。 うん、腹いっぱいだ。水で。すぐ近くに公衆トイレがあったのでそこでおしっこをして、また水を飲み続けた。 よし、飲み終えたぞ。腹がちゃぽちゃぽだ。およそ出航1時間前、なんだか寒くなってきた。 自転車を折りたたんで、待合室に入る。結構人がいた。船の改札んとこには、荷物の行列が出来ていた。荷物を置くことにより、俺ここに並んでるから、ということを示すという技だ。私も特にその流れに逆らわず、荷物を置いてみた。 トイレに3回ほど行き、さっき飲んだ水はだいたい出たかなぁ、という頃、腹が減ってきた。 佐渡汽船の建物にはレストランやら居酒屋っぽいとこもあるのだが、既に根こそぎ閉店している。せめて最終便が出るまで営業していたらどうなんだ。 仕方なく、待合室でソバを食べた。特に言うようなこともないソバだった。うっすらと、私はこのまま名物の一つも食べずに帰ることになるんじゃないかと思い始めた。ははは、まさか。 そうこうしているうちに船が到着し、私は切符と、名前と住所を記入したものを改札の人に渡した。不法滞在みたいなものを防止するとかそんな目的だろう。 さようなら、佐渡。 私は大荷物をかかえ、船に乗り込んだ。 <つづく> <つづき> なぜかこっから先はしばらく写真を撮ってなかった。 かなりの人だった。2等客室の場所取りのためにものすごい勢いで人が殺到する。すばやく動けない私が船に入った頃には、もう場所がなかった。 しょうがない。 船内を放浪していると軽食コーナーみたいなとこがあって、そこが座れそうだったので荷物を持ち込んで座った。コーナー出てすぐの自販機でビールを買って飲む。 退屈だったので待合室で買った雑誌を読んでいると、店員が「お客さん、何か注文してもらえるんでしょうか。」と言ってきた。すごく嫌な言い方だった。 お前、もっと言い方があるだろう。しぶしぶまずそうな焼き鳥を買った。自販機とはいえ、ビール買ってるんだからちっちぇぇこと言うなコノ。 その店員は長島一茂を踏んだような風貌の人だったので、私はこれから長島一茂を嫌いになることに決めた。それは逆恨みじゃないか。 私はビールを飲みながら真っ暗な窓の外を眺めた。揺れたときに危険だからなのか、イスが床に固定されていて少々きゅうくつだった。 船に乗るときは床とか壁とかに接地面を多くするようにして座ったり寝転んだりすると船酔いしないと何かで読んだ事がある。多分、むずかしい本とかじゃなくどっかのマンガだ。 行きと違って帰りはその接地面が少ないせいか私は軽く船酔いしていた。ビールで酔って船で酔う。胃があがってくる感じ。 また、アルコール摂取時におなかがゆるくなるという現象も同時に発生していた。 私の中で緊急警報が鳴っていた。避難してください、あと1分で爆破装置が作動します。逃げ惑う人々。 まあ、そんなイメージはどうでもいいのだがトイレに行って色々出した。 私がトイレの個室に潜んでいると、外で二人組の話し声がした。 後輩らしき男の方は、「今度、姉から車を借りてきます」と言っていて、先輩らしき男は「なんだと、もう一度言ってみろ」と、同じことを5回くらい言わせていた。 訳のわからないからみ方だ。風習かなにかか。 軽食コーナーに戻る。まわりを見ると、外人二人組が女の子をナンパしていたり、サラリーマンらしき二人組が仕事のあり方について語っていたり、男の方は気がありそうだけど女の方はそうでもなさそうな男女が温度差の激しい会話をしていたりした。 そうこうするうちに新潟港に着いた。夜9時をまわっている。 港の公衆電話に備え付けの電話帳でビジネスホテルを探す。予約をしようとすると「ああ、大丈夫ですよ。泊まれますから直接来てくださいな!」と言われた。 外に出て、自転車を変形させてホテルの方向に向かう。新潟駅のすぐ近くらしい。途中のコンビニでパンとコーヒーを買った。駅周辺は繁華街っぽい雰囲気で、呼び込みが「おっぱいいっぱいあるよー」などと叫んでいた。そんなもん二つで充分だ。 ホテルにチェックインする。コンビニで買ったパンとコーヒー、そして佐渡で食い残したフルーツ卵を取り出す。さすがのフルーツたまごも一つが割れていて、入れていた袋がねちょねちょになっていた。 部屋の中で小型バーナーを使って湯をわかす。で、無事だったフルーツ卵を全部ゆで卵にした。その他の残りの食料も適当に貪り食った。貪り食ってばかりだ。 シャワーを浴びると腕と顔がひりひりした。日焼けのせいだ。尻も痛かったが、思ったほどでもない。 シャワーを出て、うつぶせになり、尻を天に突き出すいつもの体勢でしばらく居た。ああ落ち着く。誰かに発見されたら大変な体勢のような気がするが落ち着く。 寒くて目が覚めた。落ち着きすぎて眠ってしまったらしい。とりあえず備え付けの浴衣を適当に着て、今度はちゃんと布団をかぶって寝た。 <つづく> <つづき> 朝だ。昨日風呂に入ったのでさっぱりしている。天気もいい。 窓から外を眺めると、なんだかごちゃっとした都会の風景だ。新潟駅付近は、完全な都会なのだ。近くに住んでいる人にとっては便利でいいかも知れないが、私にとってはめちゃめちゃつまらない。 チェックアウトして外に出る。時刻は10時ごろだ。今日は近くの健康ランドに行く。また健康ランドかと言われようが行く。 自転車を変形させ、荷物を積み込んで出発だ。駅付近の繁華街っぽいとこを抜け、私は健康ランドの方向に向かう。 テレビ局かなにかの塔だろうか。塔があると私のテンションはあがる。きっと、他の建物より背が高いので、なんか珍しいもんでも見たような気になるからだろう。 そういえば、新潟に来たらこれを見ておけ!みたいな名所を調べるのを忘れた。いつものことだが、なんかいい場所っぽいから写真とっとこう、よし満足、みたいな感じだ。適当だ。それは、あんまり有名な場所だと人がいっぱい居て混んでそうだからいやだ、という理由もあるかも知れない。 というわけで、私の選んだ名所、かもしか。 昔、携帯電話にカメラが付属しはじめたときに、かも歯科ってのを撮って大喜びで友達にメールするっていうCMがあった。なんということだ、かも歯科は実在したのだ。 電話すると「はい、かもしかです」って言ってくれるんだろうか。歯医者ぎらいの子どもに「かもしか行く?」と言えばだまされてついつい行っちゃうんじゃないだろうかとか、色んな思いが頭をよぎった。 かなり嬉しかったが、よその家の洗濯物を写してインターネット上に公開しちゃって、ちょっと悪かったかなあ、という気持ちもあった。 新潟県庁だ。この不景気に、こんな金かけてビルを建てるのはどこの阿呆かと思ったら、新潟県庁だった。 なんだか、ここだけ雰囲気が違う。 とりあえず写真だけ撮って、私は先を急いだ。 あっけなく、健康ランドに着いた。ホンマ健康ランド。駐車場が広い。広いが、自転車で来るような客はあまり想定していないらしく、駐輪場はなかった。 しょうがないので、建物の影に遠慮がちに駐輪した。テント他のかさばる荷物は自転車に積みっぱなしにした。こんなもん盗むやつもいないだろう。 チェックインする。まずは靴というかサンダルだが、これを靴箱に入れて鍵をかける。鍵をフロントにもってくと、入場料の支払いをして、更衣室の鍵が渡される。 で、あとは更衣室のロッカーに荷物をぶち込んで風呂なりメシなり寝るなり好き放題できるわけだ。 とりあえず風呂に行った。バイブラ、ジェット、寝湯、露天風呂、うたせ湯、サウナ、ミストサウナなど、一通りの種類がそろっている。しかもめちゃめちゃ空いている。 幸せだ。これは間違いなく、世にある幸せのうちの一つだ。開放している感じ。バリアーを解いて弱点をさらけ出している感じ。ちんちんまるだし。 一通り堪能して、風呂を出る。そして、飯を食いに行った。 メニューには、どうも「これが新潟だ!」という食い物が載ってなかった。そういえば新潟は何が有名なんだろう。米と酒か。海が近いからきっと海の幸も有名なんじゃないかなあ。 で、焼き魚定食を注文した。焼き魚は鮭だった。海の幸というには微妙な位置づけの魚だったが、おいしかった。生ビールも飲む。風呂上りの生ビールはうまい。そんなセリフがするっと出てくるほど、私はもう完全におっさんと化していた。だが、おっさんで結構。 私がうっとりした表情でビールを飲んでいると後ろの方で声が聞こえた。 「さあ、もう帰りましょう」 「うっせ!」 「いいから、もう、ね。帰りましょう。ね。」 「うっせぇ!」 パリーンとコップの割れる音。 見ると、良くない酔い方をしたおっさんが、店員につまみ出されていた。 おつまみを出された訳ではなく、二人の店員に両腕をつかまれて、あぁぁぁ、とうめきながら外に連れて行かれたということだ。いちいち書かなくてもわかりますか。そうですか。 まあ、酔っ払っていい気分だし、どうでもいいか。最近は、ビールをジョッキ一杯飲むと完全に酔う。経済的だ。 腹が膨れたので休憩ルームに横になりに行った。風呂、メシ、寝る。黄金パターンの完成だ。 横になっていると、おっさん二人組みが仕事のあり方について語り始めた。なんでみんな、そんなに仕事が好きなんだ。そんなに好きなら、さっさとこんな場所を出て仕事をしてきたらどうなんだ。 トイレに行った。個室に入った。これがまた無駄に広く、なぜかでっかい窓がどーんとついていた。社長専用のトイレだと言われれば納得してしまいそうな豪華なトイレ。ウォシュレットも完備だ。社長気分で色々出した。 他になんかないかとランド内を色々探検してみる。スポーツジムコーナーがあった。色んな器具があってタダで使えるらしい。 誰も居なかった。客が少ないせいもあるが、誰も居ないってどういうことなんだ。私は健康のためにトレーニングしたりする趣味はないが、これで汗をかくと風呂やら飲み物がさらに楽しめそうだと思い、やってみることにした。ロッカーに戻り、Tシャツとしゃかしゃか音のする長ズボンを装着。 ジムコーナーに戻る。やっぱり誰もいない。ルームランナーみたいのに乗っかって、走る。ふと、張り紙に気がついた。トレーニングは靴を履いて行ってください。しまった、私は裸足だ。 たしかに、ルームランナーの隙間のとこに足を挟まれたらえらいことになりそうだ。靴は借りれるらしいのでフロントに借りに行った。250円。 よし、これで心置きなくやれる。健康ランドでこんな健康的なことをやるなんて初めてだ。それは健康ランドなのに不健康なことしかしてないってことなのか。不思議な話だ。 余分な水分を蓄えている私の体から、すぐに汗が出てきた。15分経過し、飽きたので、というか疲れたので少し休憩してから別のマシンを試した。山登り気分が味わえるマシンだ。左右のペダルがあって、それに両足を乗せる。両足を交互に上げ下げすると登っているような感じになるのだ。わかりにくいな。 がっしゃん、がっしゃん、とマシンの音が響く。新潟まで来て何してんのかなあ、私は。けど、そういう感覚は嫌いじゃない。 ふと、おっさんが一人入ってきた。挑戦者の登場だ。いや、別に挑戦者じゃないな。 おっさんは大きな咳払いをした。これはきっとあれだ、いくつか並んだトイレの個室に入るとき、先客に今新しく自分が入ったぞということをアピールするようなものなのだ。アピールしとかないと、好き放題に音を出されて大変なことになってしまい、自分はそれをこっそり盗み聞いていたという最悪の立場に追い込まれてしまうのだ。考えすぎか。 おっさんはキビキビした動きでタオルを振り回したり、準備運動をしたりした。それは人に見られることを意識した動きのように思えた。 「うぇへほっ! うへほぁっ!」 再びおっさんが大きな咳払いをする。トレーニングの開始の合図だろうか。 「小僧、今から本物のトレーニングを見せてやるぜ。」 そんなセリフを割り当ててみたいぐらいの、おっさんの迫力だった。 私はもう疲れたし、汗もそれなりにかいたのでトレーニングを終了した。30分も経っていない。ジムの出口のとこに、無料で飲める水がおいてあったので飲んだ。うめえ。 ジムを出るとき、またおっさんが大きな咳払いをしていた。次のギャラリーが来るまでがまんしてくれ。 その後も風呂入ったり寝たりを繰り返し、日が暮れた。 今日の夜行で、私は東京に帰るのだ。 チェックアウトをし、健康ランドを後にした。 さらば健康ランド。また、会おう。 私は自転車をとめた場所に戻った。特になにごともない。荷物も無事だ。 私は自転車をこぎ始めた。 <つづく> <つづき> もうあたりはすっかり暗い。 時刻は夜7時ごろだ。腹が減った。ここまで、当初の予定通りというか、名物らしきものを全く食っていない。最後の夜くらいはそれらしいものを食いたいなあ。 けど、新潟駅までの帰り道には特にそういった店も見当たらなかった。 なんだかさびしい感じの道だ。 なんにも無くて悔しかったので、新潟テレビ?の建物を撮っておいた。ライトアップされているなあ。えー、ほかには、うーん、特に言うようなこともないので先を急いだ。 結局、駅に戻るまで特にこれと言った店もなかった。どうなってるんだ。 仕方なく、観光客がだまされて入るような、いや、観光客が入りがちな、えー、入りやすそうな駅前の居酒屋に入った。 刺身とか、ほっけだとか、海の幸っぽいのを注文する。ビールも。こんなことを言ってはなんだが、なんだか普通だった。私の舌が肥えているのだろうか。 なんでもおいしく感じられる幸せ仕様のはずの私の舌はどこにいったんだ。決してまずくはない。けど、感激するほどおいしくもないのだ。なんということ。 メニューをすみずみまで眺め、「のっぺい汁」というのを見っけた。店員に「これなんですか」と聞いてみた。若い女性の店員が通りかかったのをわざわざ見計らって聞いてみた。 そうすると「野菜が色々入ってて、それを煮たような感じの…」という答えが返ってきた。野菜の煮物か。注文してみると、あっさり風味の野菜の煮物が出てきた。なんで写真を撮ってないんだ私は。 えー、たしかサトイモとかニンジンとかしいたけとかたけのことか、そのへんのやつらが入っていて、てっぺんにいくらが数粒のっかってた。詳しくは「のっぺい汁」とでも検索すればきっとわかるだろう。野菜がおいしいなあ。 その後、ご飯とみそしるも注文して腹いっぱいになった。結局一番うまいと思ったのは野菜だ。うん、野菜は東京で食うようなのと全く違ってた気がする。 店の名前を記録しようとしてフロア案内を撮った。そんなもんを撮ってるひまがあったら、もっと名所っぽいのを撮ったらどうなんだ。 で、日本海庄や。たしか、庄やという居酒屋はあちこちにある。それが日本海に来ると日本海庄やなのか。よく見るとつぼ八もあるな。 腹いっぱいになって、新潟駅へ。新潟駅周辺は「万代シティ」というらしい。読み方はバンダイシティ。おもちゃメーカーのバンダイと何か関係はあるんだろか。 時刻は9時ごろ。電車の出発は11時半だ。まだまだ時間はある。 駅の改札抜けても退屈だろうと思い、あちこち探検してみた。自転車は折りたたんだ状態にしてあるので、重い。そんな大荷物を持ってうろうろしても楽しくないってことがわかった。 忠犬タマ公発見。犬なのにタマ。渋谷のハチ公のパクリじゃねーか、みたいに言われそうな危うい名前を持つ犬であった。 忠犬タマ公は猫のような風貌の犬だった。それを見た人々が「タマやー、タマタマ」と声をかけ、そしてそのうち主人の帰りを待って、なんか感動的な最後を遂げた。とか、きっとそんな感じの逸話があるんだろう。 と書いた後に検索してみると、忠犬タマ公は、特にこれといった理由もなくタマ呼ばわりされていた。ひどいことを…。 で、タマ公を撮りたくてしょうがなかったのだが、すぐ近くに怖そうなオッサンが座ってて、おい俺の写真勝手に撮るな、いやタマ公です、口答えするのか、いやあの、みたいな状況を勝手にシミュレーションした私は、撮るタイミングをうかがいつつ周囲をうろうろしてしまった。 1時間半前。もうやることもないし、荷物も重いし、と思って改札を通って駅構内に入ってみた。ホームがいくつかに分かれている大きな駅だ。そりゃあ新潟駅だからな。 私は改札入ってすぐのとこにある小窓からホームを見下ろした。私の入った改札は2F、ホームは1Fの位置にある。電車を見ても電車だなあ、としか思わない。 キハの何々式だ!とおもしろがれる人をうらやましく思った。けど、そんなに面白くないものを眺めている時間ってのは嫌いじゃあない。 あ、お土産買おうと思ったら、駅構内に土産が売っていない。いや、土産物屋はあるのだが、どれもこれも閉まっているのだ。開いているのは改札の外の店ただ一軒のみ。 改札の人に土産買いたいんで外に出ていいですか、と聞いてみた。冬眠から覚めたての熊のような駅員は、ああいいですよと言ってくれた。 で、あまりよく選ばずにこれを買った。朱鷺の子。ときのこと読む。 うん、行った先のイメージがしやすい土産ってのはいいな。 ちなみに、おみやげを「おみあげ」というふうに覚えている人は結構いる。検索すると結構ヒットしたりもする。でも変換できないだろう。私にもそういう類の言葉がないかと考えてみると、「うごつり」ってのがあった。 これは「うおつり」つまり魚釣りを間違って覚えたものだ。うごつり行くの?行く行くー! うごつりは検索しても一件もヒットしなかった。ちくしょう。 改札を通って、もうそろそろ電車が到着する30分前なので、ホームに降りる。 イスにすわっていると、よそのおばちゃんが「ムーンライトえちご乗るの?あー、あれ便利よねえ」と話しかけてきた。 あー、そっすねー、と適当に相槌を打つ。 見ていると近くの若い衆に次々と声をかけたり、独り言を言ったりしていた。うむ、めんどくさそうなので関わるのはよそう。 そしてついにムーンライトえちごが来る。 乗り込んで、デッキんとこに自転車をくくりつける。夜行列車の趣を楽しむといったようなことも特になく、変な体勢で寝たりしている間に朝になり、新宿に到着していた。 さようならムーンライトえちご。 私は新宿駅を出て、自転車に乗ると、なぜか早朝呼び込みをしているマクドに入店して、ソーセージエッグマフィンを食い、家に帰った。 <おわり> ■新潟県 佐渡周辺の宿情報 |