痴漢事件

電車に出没する痴漢には2つのタイプがあるそうだ。
1つは、満員電車で動けないのをいいことにさわりまくるタイプ、
もう1つは電車の降り際にわしづかみにするタイプということだ。

私は男なので痴漢には会ったことがないが、いきなりわしづかみにされたら、さぞかし驚くことだろう。
どこを? …まあいい。

さて、私が大学生の頃、電車で痴漢に間違われそうになったことがあった。
痴漢に襲われそうになったのではない。ぱっと見似ているが間違えないで欲しい。

当時、私は黒い皮のリュックサックを愛用しており、ノートを取るときに重宝する、
30cmのモノサシをリュックに入れていた。
縦に入れるとぎりぎりリュックのフタを閉めることが出来るが、見た感じ
長い拳銃が入っているようにも見える。
まあ、これを見て「あの人、ピストル持ってる!」と騒ぐ人は居ないだろうが。

私は大学から家に帰る電車の中、睡魔に襲われていた。
運良く座席のど真ん中に座れた私は愛用リュックを足元に置き、しばしの居眠りを楽しんでいた。
もちろん、駅に着くたびにハッと気がつき、「ああ、まだここか」と、
自分の現在地の確認も怠らない。

目的地に近づくにつれ、だんだん人も増えてきた。
が、座席はまだまだ空いている。混んでいるということはない。
ふと、5,6人の高校生くらいの女の子が乗り込んできた。
私の正面にどかどかっと座った。が、一人だけ座れなかったらしく、
私にシリを向けて、立っていた。
うるさいくらいの賑やかなお喋りが始まったようだが、
私の睡眠欲はこんなことではビクともしなかった。
こっくりこっくり、ハッ。こっくりこっくり、ハッ。を繰り返す。

目的の駅に着き、やや大きな動作で席を立った。
それがいけなかったか。
「うーっこらしょい」
足元のリュックを引き上げ、勢いよく立ちあがる。
同じタイミングで、私の方にシリを向けていた女の子が「ぅひゃっ」という悲鳴と共に
数センチ跳ね上がっていた。
私のモノが、いや、モノサシで強化されたリュックが、彼女の秘密ゾーンを直撃していたのだ。
着地した彼女がゆっくりこちらを向く。
とりあえず、謝っとこうと思い「ああ、すみません」と謝った。
が、彼女は後ろ手でシリのあたりを押さえたままこう言った。
「やっ・・・やっらしいーー!」
彼女の連れたちも反応する。
「えっ、なになに、何されたの?」
「痴漢? 痴漢?」
「さいってぇー」
何やら危険な雰囲気を感じた私は、真実を弁明するより逃げたほうが良いと判断した。
先ほどの眠気はどこへやら、鍛えられた軍人のような足取りでスタスタと出口へ向かう。
「あっ!逃げる!」
「ちかーん」
「まてー!」
待ってたまるか。痴漢にされる。
幸い、この駅での停車時間は短かった。
電車の外に出ると、すぐにドアがしまる。私は九死に一生を得たのだった。

あのとき、ちょっと間が悪ければ
「もてない大学生、電車の中でいきなりカンチョー?!」
と、スポーツ新聞あたりを賑わしていたかも知れないのだ。
そんな愉快な前科者になるのはごめんである。
全く恐ろしい体験であった。

とりあえず、通勤カバンにもモノサシは入れないほうがいいだろうな・・
と思いつつ、今回の日記を終わる。


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