そのとき、私の体はアウトプット指示を出していた。

素直に指示に従い、会社のトイレの個室に入る。
個室は3つ並んでおり、うち2つに先客が。
私が入ると満室というわけだ。

発射体制に入って、どうも変なことに気がついた。
静かすぎるのだ。

息を潜めて、ちょっと情けないポーズで個室に潜む人たち。
お前ら、俺の音を聞く気だろう。そうはいかん。お前が先に出せ、という感じ。

小学校の頃、個室に入ったことがばれた時点で敗者になる厳しい掟を思い出した。
「あいつ、うんこしてた!」
「ええっ、まじ?」
次の日からうんこがらみのニックネーム。なんとも残酷な子供社会よ。

さて、個室では互いに相手の様子を伺う膠着状態が続いている。
ここは私が現状を打破してやろう。
ぷううう、と長めに音を出す。

一瞬、空気が緊張した。記号で書くと「!?」という感じ。
その直後、ぶすっ、ぼふー、といういずれも空気が抜ける音が聞こえた。
反応している。未知との遭遇みたいだ。

自宅でするのと変わらないくらい、さまざまな音を遠慮なく出す。

そう、私はそんなことが堂々とできる男に成長していたのだ。

ウォシュレットを最大出力にして、洗浄。効くぜ!

人類の傑作発明の一つウォシュレット。体調により汚れが取れにくい場合でも安心だ。

若き頃には、ピンポイントで敏感な部分を狙う攻撃に「うあっ」と声を上げ、便器横に逃げたあげく、個室を水浸しにした経験もある私だが、もはや慣れたものだ。

一番最後に入室して、一番最初に出て行く。

ほのかな匂いを残し、私は満足げに戦場を去った。


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