私は今年の頭あたりになんとなく禁煙を始めた。

何かに挑戦するような真似がしたかった気がする。
あとは知り合いのいいなと思っている女性が、タバコくさいのはいやだと言っていたというのもある。

禁煙にあたって、以前なんとなくどんな味がするか気になったので買った禁煙ガムを使うことにした。最近CMを見かけないが、タバコのお化けが禁煙してても吸いたいよー吸いたいよーと踊るニコレットという禁煙補助ガムだ。1個だけ食べて放置してある。

前日、思い残しのないように吸いまくろうと思っていたが、寝てしまったため、朝起きてから一本だけ吸った。吸い終わり、灰皿、残りのタバコ、あたりのライター等をごみ箱に投げ捨てた。さらに、ゴミ袋の口を結んで、ゴミ捨て場に。
さらば、タバコたち。

電車に乗り、会社へ。
会社に着く頃にはすでに吸いたくなっている。
不安になった。

足の立たないところで泳いでいるような感覚。大丈夫なのだろうか。吸いたくなったらどうすればいいんだ。

ここで禁煙ガムを使用。

このガムにはニコチンが含まれているため、噛むとタバコを吸ったような気分になれるのだ。

味はバナナっぽい。舌が痺れる。

ガムをかんで、ふはー、と息を吐く。タバコ時代の吸い方だ。ふはー、にはあまり意味がない気がするが、メンタルな面の満足を狙っているのだ。

昼飯を終え、無意識にタバコを探す。ああ、やめたんだったな。
周りの人にも禁煙を始めたことを伝える。これで少しばかり自分を追い込むことができる。

ガムをかみ、ニコチンを体に取り入れる。食事後の喫煙のあの爽快感はない。

家に帰って晩飯を食ったあともやはりガム。一日にそんな何個も食っていいのか。普段はあまり飲まないコーヒーを飲む。なんかやけにそわそわする。

インターネットで検索すると、ガムをカッターナイフで半分に切って食うのが良いということだ。また、ついでに見つけた禁煙カウンターというフリーウェアもインストールした。節約したタバコ何本、禁煙した時間何時間とか色々出るやつだ。

ああ、吸いたい吸いたい。汚い話だが、自分の歯の裏になんとなくタバコの味が残っているような気がしてなめてみたりした。味は残ってなかった。ちょっと悲しい気分になり、寝た。

朝、タバコのニコチン刺激とともに起きる私は、目覚めるのになんか物足りない感じだった。カッターで1/2に切ったガムを噛む。びりびりーときた。

会社行って、帰ってきてを繰り返す。禁煙三日目。

タバコを吸いたいという感覚が禁煙ガムをかみたいという感覚に変わってきた。ガム中毒。

考えようによっては、喫煙所以外でもニコチンの取入れができるわけで、いいことかも知れない。
まわりからも、へえ、良く続いてるねえ、という声が聞こえだす。

根性のなさでは自信のある私は、多分もうそろそろ挫折するんじゃないかな、と思いながら禁煙を続けていた。

まあ、このガムがなくなるまでくらいはやってもいいかな、と思いながら続ける。

一週間後、周りの喫煙者から、たばこおいっしーなーぷはー!などの誘惑が始まる。
もう、目の前で誰かがタバコ吸っててもあまり気にならない。
なぜか、近くのカレー屋のカレーがいつもより辛く感じられた。味覚も少々よくなっているのだろうか。

けど、やっぱりガムは必要だ。まだまだだな。

三週間後、ガムがなくなる。
禁煙ガムは結構高いので、そのへんの100円のガムを買う。
これからは毎朝ガムを買うことになるのかと思い、少々めんどくさくなる。

ある日、買うのがめんどくさくてガムなしで過ごしていたが、特に問題ないことに気づく。

禁煙成功?いや、世間で難しいと言われ、本まで出ている禁煙が私ごときに簡単にできるわけがない、と思った。

タバコを吸った。あーあ、ついにやってしまった。そんなことだと思った。ごめん、やっぱり無理だったよ。と誰かに謝っていたら夢だった。

このあたりから、タバコを吸う人の匂いがかぎ分けられるようになる。
私も今までこんな強い匂いを発していたのか。

そして今、何ヶ月もたったが、時々タバコを吸う夢を見る。
きっと、私は禁煙などという偉大な行為を成し遂げられる人間ではない、ほうら、このとおり、と変な言い訳を自分の中でしているような気がする。

24歳から32歳まで8年間吸ったタバコ。百害あるけど一利あったような気がするよ。いままでありがとう、さようならタバコ。

現在、禁煙カウンターによると、禁煙継続時間6ヶ月8日、すわなかったタバコ3789本、浮いたタバコ代49257円、延びた寿命14日11時間。

一つわかったのは、タバコ代が浮いたとしても別にまとめて手元に残っている訳ではない、ということだった。


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