夜の7時。

会社から帰宅した私は、なんかうまいもんでも食おうと家の近所をうろついていた。

近所には、ステーキ屋が1軒、ラーメン屋が5軒、安い焼き肉屋が1軒、そば屋が1軒。ほんとはもっとあるのだが、私が実際に行ったのはそのくらいだ。

カテゴリ的にはかなりラーメン屋方面に偏っている。そんな毎度毎度ラーメンばっか食ってられるか。

実は、前から気になる店があった。その店はカテゴリ分けするならば洋食屋という、私の大好きなジャンルの店だ。

だが、入るには勇気が必要だった。

店の前にはショーケースがあり、そこに定食とかのサンプルが並んでいる。通常はこれを見て、ああうまそうだ入ろう、という気になるものだ。

だが、なんと言えばいいのだろう。食欲を誘発する気などさらさらないようなサンプルがそこには並んでいた。

真っ黒によごれたラーメン、ハンバーグ、エビフライ、かつ丼などのサンプル。こんなもの食わされた日には、間違いなく腹を壊す。ふざけんな。金返せ。

客を追い返す効果まんまんのショーケースであった。ショーケースだけではない。店自体も何十年前からあるのか計り知れないような、一度も改装とかしてないような、ここだけ時間の進み方が遅いような、そんな感じだった。

だが、今日の私には覚悟があった。いいだろう。例えサンプルどおりのとんでもない料理が出てきたとしても、食事一回分、悲しい思いをするだけだ。それぐらいのリスクは背負ってやろうじゃないか。

木枠のガラス張りのドアの前に立つ。ドアの向こうにはカーテンがかかっていて、中は見えないようになっている。実はこの洋食屋はつぶれてしまっていて、中に入ると家族団欒の真っ最中で、「何か用かね」とか言われたらどうしよう。いや、大丈夫だ。自信を持て。いくぞ。

入店した。おばちゃんが二人、テーブルに座ってテレビを見ていた。

「いらっしゃい」と声がかかる。よかった。

店内は安そうなテーブルと真っ赤なビニールイスで構成されている。大衆食堂という言葉からイメージされる空間そのものだ。私は「ハンバーグライス」というのを注文した。

水が出された。飲んだ。普通の水のようだ。

おばちゃんの一人は、近所の人が暇だから遊びにきてるだけらしく、そのままテレビを見つづけて、あー、とかわー、とか反応していた。もう一人のおばちゃんは厨房の方にいき、ハンバーグライスの材料となる何かをごそごそと探し始めた。

日付が昭和の肉とかを使われたりしないだろうか。

ごそごそざくざく、じゅじゅう、チーン。料理をしている音が聞こえてくる。次第にいい匂いもしてくる。

果たして出てきたハンバーグライスは、こんな豪勢でいいですか?というハンバーグ定食。ごはん、みそしる、ハンバーグ+目玉焼き+ブロッコリー+野菜、たけのこの煮たやつ、漬け物。

ハンバーグに添えられたブロッコリーには、大量のマヨネーズがかかっている。

み、見た目はすごくいいぞ。だが、重要なのは味だ。

ハンバーグを食ってみた。ファミレスで出てくるようなきめの細かいのじゃなく、みじん切りのたまねぎとかひき肉とかのつぶが大きい。

うまい。

なんだろう、冷凍食品をあっためましたよー、じゃなく、手作りしましたよー、という感じ。これはいい。楽しみながら私は夕食を終えることが出来た。ありがとう。ほんとうにありがとう。

しばらくして、若い若者が、というか、単に若者でいいのだが、一人入店してきて、ビールとつまみを注文してうまそうに食っていた。

そういう訳で、いきつけになりそうな店を一つゲット。大収穫であった。

店への入りにくさが原因で、この洋食屋がつぶれたりしないことを祈りつつ、今回の日記を終わる。


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