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その日、私は仕事を終えて晩飯を食おうとしていた。 会社からの帰り道にあるラーメン屋に入店する。時間は7時半。けっこう混んでるな。 今日は色々あって疲れたなぁ。ビールでも飲むか。私はすでに一人でラーメン屋入ってビール飲むことに特に違和感を感じないおっさんに成長していた。 焼きそばとビールを注文する。おー、ビールうめえ。焼きそばうめえ。 ビールを飲み終え、焼きそばも2/3ほど食い終わった。 頭の中に、あるイメージが浮き上がる。汗が出てきた。 浮かんだイメージは、私の財布の中身だった。 大変だ。私の財布の中には今、700円くらいしかない。ビールと焼きそばでおよそ1200円くらいはする。500円足りない。 焼きそばの残りを恐ろしくスローペースで食べた。どうする。カードは使えないだろうか。いや、焼きそばとビールにカードってのはちょっと。 正直に言ってみるか。 食い逃げだーっと叫んで追いかけてくるおっさんを想像した。ちくしょう、食い逃げにだってそれなりの理由はあるんだ。 そうだ、財布の中を確かめてみよう。誤って500円玉が数個入っているかも知れない。 確かめた。誤りはなかった。 上着のポケットに小銭とか・・・。10円玉が一枚入っていた。足しにならん。 しょうがない、やはり正直に言おう。 伝票をつかんでレジに行く。 「今持ち合わせが無いんで…」 おっさんの目がギラッと光った気がした。 「ちょっと銀行行ってきていいですか」 少し間があり、「いいですよ」という返事が返ってきた。別に何も言われていないのだが、人質としてカバンを店に置いていくことにした。店側もそんなもん置いていかれても邪魔なだけだよなあ。 外に出た私は銀行を探した。そりゃあもう7時半をまわっているわけだから銀行なんぞ開いてない。駅の方に行けば開いてるとこもあるかも知れないが、かなり遠い。 急がないと、かばんを使った空蝉の術だと思われてしまう。 結局コンビニにＡＴＭがあることを思い出し、汗だくになって店に戻った。「あー、支払いだけまだなのですが」とかいいつつお金を払う。 料理人や料理を運ぶ女の人が一斉に「ありがとうございましたーっ」というのに、私はどこか責められているような気がして、急いで店を出たのだった。 またひとつ、特にしなくてもいい経験をしたところで今回の日記を終わる。 |
