あれはもう、季節が秋に差し掛かったところだっただろうか。
私とMえだ氏は「温泉つかって飲んで、ぷはーっとやりたいねぇ」ということで、
温泉計画を立てた。
ちょっと豪勢に行こうということで、少々値段の張る温泉ホテルに宿を取った。
その温泉ホテルは伊東にあり、さすが高級なだけあって、露天風呂や温水プールまで
ついている。現地までは、Mえだ氏の愛車に乗せてもらった。
少々早く出発したため、チェックイン時間よりもだいぶ早めについてしまったようだ。
通常の観光客ならば、もっと早い時間に出発し、あちこち観光してから
宿に向かうのだろうが、今回の目的は冒頭にあるとおり、温泉に入って酒を飲むという
いわば、オッサン的計画であるため、あまりに早くつきすぎると時間を持て余してしまうのだ。
とりあえず、一息つきたかったため、ホテルのロビーで休もうということになった。
時間は正午すぎ。チェックインは午後3時だから、まだ2時間以上もある。
ロビーには誰もいなかった。
ちょっとトイレを借りようと思ったとき、不意に声をかけられた。
「お泊りのお客様ですか・・?」
振り向くと、いつのまにかおばさんがフロントに立っていた。
私は少々慌てて「えっ、ええ。今日宿泊予定なんですが。」と答えた。
おばさんの表情が急にぱっと明るくなり、「ようこそいらっしゃいました!」といわれた。
到着が早すぎたので、不審がられたのだろうか。
話してみると、チェックインは3時だが、1時ごろになれば部屋に入れてくれるとのことだ。
ありがたい。
とりあえず、その間、ジュースを飲んだり、喫煙したり、近所の酒屋の場所を確かめたり、
ついでに近所の洋食系の店で昼飯食ったりした。
私は海老カレーを食ったのだが、その中に短い髪の毛が数本混入しており、ちょっとムッとした。
調理員は帽子をかぶらずに料理しているようだ。
なんで、これで店としてやっていけるのか疑問に思ったが、観光客相手の店であり、
常連客などつかなくても、なんとかやっていけるのであろう。
食い終わって伝票持ってレジまでいったが、人がなかなか出てこないので食い逃げしてやろうかと思った。
が、思いとどまった。全く、こういう店は保健所から厳しいチェックを入れて欲しい。
調理員には、髪の毛を大量にぶち込んだカレーを食わせてやりたい。
話が横道にそれてしまった。
ホテルに戻ると、1時過ぎで、約束どおり部屋に案内してもらった。
風呂も温水プールも使っていいとのことだ。良心的なホテルだ。
3時ごろに仲居さんが部屋に挨拶に来るという。部屋でしばらくうだうだしていたが、
温水プールに行こうということになった。私は水着を持っていなかったため、近所で買い、
温水プールに向かう。誰もいない。
プールに入った。ちょうどいい温度だ。
端から端まで泳ぐと、すぐに息が切れた。
それでも何往復かした。
潜水で何m行けるか試そうと思ったが、途中で頭がくらくらしたのでやめた。
適当に泳いだ後、さらに風呂に入り、部屋に戻ると丁度仲居さんがきた。
私もMえだ氏もだらだらと大量の汗をかいている。
「そんなに汗かいてどうしたんですか?」
と聞かれた。
仲居さんが来る前に部屋に入った上、プール入って風呂入ったのが、ちょっと後ろめたいような気がしたため
「いえ、あの、温水プールで泳いでたんで・・」と弱々しく答えた。
仲居さんはしばらく黙っていたが、もうその話題には触れようとせず、
ここに代表者の住所と名前を書いてください、といい、一枚の紙を出した。
さらに書いている最中に、宿泊時の注意事項を説明しはじめた。
ちょっと待ってくれ。今書くのに集中してるんだから、同時に言われてもわからんわからん。
が、仲居さんは容赦なくしゃべりつづけた。仕方なく、ちょっと手を止めて聞いていると、
どうも宿泊のてびきという小冊子を音読しているだけのようなので、適当に返事をすることにした。
気のせいか、早くこの部屋から去りたそうだ。
他の客がぼちぼち来る時間なので、忙しいのだろうか。
仲居さんは去った。
その後、酒飲んだりゲームコーナーで遊んだり、ボーリングしたりしていると夕飯の時間になった。
なんかよくわからないが高級そうな料理が並んでいる。並べてくれるのは、例の仲居さんだ。
料理はうまかった。満足。
ここで、こっそり近所の酒屋で買ってきたビールを飲んだことはいうまでもない。
部屋の冷蔵庫のバカ高いビールなんぞ飲んでられるか。ふふん。
食い終わって、また風呂に行こうとしたら廊下に仲居さんがいて、風呂から戻るまでに布団を敷いてくれるという。
お願いします、と言いつつ風呂へ。酒飲んだあとの風呂は効きますなぁ、Mえださん。そうですなぁ、などといいつつ
風呂を堪能して部屋に戻ってくると、恐ろしい光景が広がっていた。
恐ろしいのだが、違和感はない。そこがさらに恐ろしかった。
見た瞬間、私はたたみに膝をつき、Mえだ氏は顔面蒼白になっていた。
部屋に敷かれた布団2つ。この2つがぴったりくっつけられていたのだ。
一瞬硬直した後、Mえだ氏はダッシュで布団の側に行き、荒々しく2つを引き離した。
その後、しばらく嫌な沈黙が訪れた。
そして、テンション下がりっぱなしのままで就寝、翌朝帰路についたのである。
布団を並べるだけで、全てを台無しにする恐ろしい技。今回は、その恐ろしさの真髄を胸に刻んだのであった。
そんな恐ろしさもHPのネタにする自分に疑問を抱きつつ、今回の日記を終わる。
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