フェロモン社員H

私の会社の席には、正面に後輩女性社員が座っている。
一見すると働き者で童顔のかわいいタイプなのだが、恐ろしい能力を持っている。

全身から涌き出るフェロモンで周りの者を魅了し、仕事を円滑に進めてしまうのだ。
以下に、数々のエピソードのうち、いくつかを紹介しよう。

エピソード1 客からのラブレター(?)
これは、後から聞いた話である。
営業部の新人であったHは、毎日あちこちの客先回りをしていた。
当時はまだフェロモン能力を活用していない、普通の「一生懸命な新人」であったという。
客のうち一人から、
「Hさんの一生懸命な姿に感動しました。また商品説明にきてください」
というメールが来たらしい。
商品説明に行くと、
「本当に一生懸命ですね。Hさんの説明してくれた商品を上司に推しておきました」
というメールがきて、さらに
「例の商品を弊社で導入することになりました。よろしくお願いします」
となったらしい。
どうもその客が必死で自分の上司に売りこんだらしいのだ。
この後、Hは自分の「一生懸命さ」が武器になることを確信し、後に活用するようになったようだ。
ちなみにその後の「長いお付き合いになりそうですね、今度(二人で)飲みに行きましょう」というメールは
適当にかわして、絶対にサシで飲みに行くのは避けているようだ。当然だが。

エピソード2 カレンダー
去年の年末だったと思う。
客先にカレンダーを持っていったり、時には客からカレンダーをもらったりする時期だ。
そのとき、Hに同行して、私は客先の打ち合わせに参加していた。
このとき、打ち合わせに参加していたある客が何かを思い出したように真剣な面持ちで立ちあがり、
席をはずした。何事かと思ったら、丸く巻いたカレンダーを手に持って戻ってきた。
カレンダーは、会議テーブルの下で手に持っている。
何事もなかったように会議は進行していた。
1時間ほど経ったころだったか、見るとその客はテーブルの下でカレンダーをぶんまわしていた。
いらいらしているようだ。「早く終われよ!」とでも言いたげである。
「…ええ、ではそういう方向で進めさせていただきます」と、打ち合わせが終わった。
待ちかねたように例の客がこう言った。
「Hさん!ま、前に差し上げたカレンダー気に入ったって言ってましたよね!も、もう一つ差し上げます!」
さんざんテーブル下でぶんまわしていたため、カレンダーのふちはぼろぼろになっていた。
Hは、「ありがとうございます〜。気を使っていただいてすみません〜」
と丁重に受け取っていた。
帰社後。
Hは、机の上にカレンダーをぽい、と置いた。
H「これ、じゃまだなー。kabukiさん要りませんか?」
私「いらないけど…気に入ってたんじゃ?」
H「いーえ、別に。あっ、Uさん! これこれ、カレンダー要りませんかー?」
結局4番目くらいに声をかけたSさんにカレンダーを渡し、「ふう」とため息をついていたのだった。

エピソード3 やさしくない男
正面に座っていると良くわかるのだが、彼女は何かあるたびにに「うーん、こまったなー」と独り言を言う。
私も最初はいちいち反応していたのだが、私にとって実にどうでもいい・・カード使いすぎて支払いが大変とか、
友達と遊ぶ予定だったが、別の友達にも遊ぼうと言われたとか、そんなことばかりだったので、次第にシカトするようになった。
だが、名前を呼ばれては反応しない訳にいくまい。

H「kabukiさぁーん」 (フェロモン度 70%)
私「ん、何?」
H「あのぅ〜。xxの構成図と設定作業〜」(フェロモン全開!おそらく自分でも気に入っているらしい顔つきで、にこ!)
私はそういう言い方が大嫌いなので、冷たく言い放った。
私「その設定作業がなに?」
H「そのぉー、時間があったらお願いしたいなぁ〜」(フェロモンオーバードライブ!さらに顔の角度を変えて、にこ!)

私はスケジュールを確認して、x月x日だったらいいよ、と伝え、
「必要なことだったら、そんな顔しなくてもやるから。」と言ったら気に障ったらしく、
(私ふくれてるのー、かわいい?)という表情でにらまれた。

何日か後の会話である。
H「会社の女のコはぁ〜、kabukiさんのことやさしそうだって言ってました〜」
私「別にやさしくないけどね。」
H「そうですよね〜、別にやさしくないですよ!って言っておきましたから!」
かくして、「別にやさしくない男」の噂を広められた私は、今日も仕事に励んでいるのだった。

色々書いてしまったが、彼女は本当に働き者である。その点に関しては尊敬する。
たとえ上司から「客に女の武器を使うのはやめろ!」といわれてもめげなかったり、
「あの客!むかつく!」と言って自分の机をバンバン叩いていて、
私が「うるさいよ、Hさん」と言ったら、ギロッと睨まれたとしても尊敬している。
これからもがんばって下さい。
という訳で、最後にちょっとだけ誉めて・・誉めたのか?・・今回の日記を終わる。


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