慢性腎臓病 猫 ステージ別症状と治療法の解説

慢性腎臓病 猫 ステージ別症状と治療法の解説

慢性腎臓病 猫 症状と治療

猫の慢性腎臓病の基本情報
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発症率の高さ

猫の死因の約25%(4匹に1匹)が腎不全によるものと言われています

進行性の病気

完治は難しく、進行を遅らせる治療が基本となります

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早期発見の重要性

症状が現れる頃には病気がかなり進行していることが多いため、定期検査が重要です

慢性腎臓病 猫 多飲多尿の初期症状とは

猫の慢性腎臓病の初期症状として最も特徴的なのが「多飲多尿」です。これは腎機能が低下することで尿を濃縮する能力が失われ、薄い尿を大量に排出するようになる症状です。その結果、体内の水分が失われるため、喉の渇きを感じて水をたくさん飲むようになります。

 

具体的には、以下のような変化に気づいたら注意が必要です。

  • 水を飲む量や頻度が明らかに増えた
  • トイレの砂が普段より早く濡れる
  • 尿の色が薄くなった(通常の濃い黄色から薄い黄色に)
  • トイレの回数が増えた

多くの飼い主さんは、この「多飲多尿」の症状に気づいた時点で動物病院を受診されますが、実はこの時点ですでに腎機能は正常の4分の1程度にまで低下していることが多いのです。これは慢性腎臓病のステージ2に相当し、腎臓の機能はかなり損なわれています。

 

注目すべきは、この段階では猫は元気で食欲も普通にあることが多く、「何か病気があるのか?」と疑問に思うほど普段と変わらない様子を見せることです。そのため、多飲多尿の症状を「年齢のせい」と見過ごしてしまうケースも少なくありません。

 

慢性腎臓病 猫 ステージ分類と進行度の見極め方

猫の慢性腎臓病は、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)によって提唱されているステージ分類に基づいて評価されます。このステージ分類は、血液検査でのクレアチニン値やSDMA値、尿検査、血圧測定などの結果から総合的に判断されます。

 

【IRISによるステージ分類】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージ クレアチニン値 主な症状 腎機能
ステージ1 1.6mg/dl未満 ほとんど症状なし(尿比重の低下や蛋白尿などが見られることも) 軽度の腎機能低下
ステージ2 1.6〜2.8mg/dl 多飲多尿が始まる。元気・食欲は普通にある 正常の4分の1程度に低下
ステージ3 2.9〜5.0mg/dl 食欲低下、嘔吐、体重減少などが見られ始める 生命維持に必要な最低限の機能は残存
ステージ4 5.0mg/dl以上 重篤な臨床症状、尿毒症の進行 積極的治療なしでは生命維持が困難

ステージ1では、血液検査の数値はほぼ正常範囲内で、尿検査で尿比重の低下や蛋白尿が見られることがあります。また、腎臓の形状に異常が認められることもあります。この段階では臨床症状はほとんど見られないため、定期健診で偶然発見されることが多いです。

 

ステージ2になると、多飲多尿の症状が現れ始めます。腎機能は正常の4分の1程度にまで低下していますが、猫は元気で食欲も普通にあることが多いため、飼い主が異常に気づきにくいことが問題です。

 

ステージ3では、腎機能の低下がさらに進み、老廃物が体内に蓄積することで尿毒症の症状が現れ始めます。食欲低下、嘔吐、体重減少などが見られるようになります。また、貧血が起こることもあります。

 

ステージ4は最も重篤な段階で、尿毒症がさらに進行し、積極的な治療なしでは生命維持が困難になります。

 

慢性腎臓病 猫 食事療法と特別療法食の選び方

慢性腎臓病の猫にとって、適切な食事療法は治療の重要な柱の一つです。腎臓に負担をかける成分を制限しながら、必要な栄養素をバランスよく摂取することが目標となります。

 

【腎臓病の猫の食事で制限すべき主な栄養素】

  • タンパク質:質の高いタンパク質を適量摂取することが重要
  • リン:過剰なリンは腎臓に負担をかけるため制限が必要
  • ナトリウム:高血圧を防ぐために制限が必要

市販されている腎臓病用の特別療法食は、これらの栄養素のバランスを考慮して作られています。ドライフードとウェットフードがありますが、水分摂取の観点からウェットフードが推奨されることが多いです。

 

特別療法食を選ぶ際のポイント。

  1. 獣医師の指導のもとで選ぶこと
  2. 猫の好みに合ったものを選ぶこと(食べなければ意味がない)
  3. ステージに合わせた栄養バランスのものを選ぶこと
  4. 徐々に切り替えて猫のストレスを減らすこと

特に注意したいのは、市販の一般的なキャットフードには高タンパク・高リンのものが多く、腎臓病の猫には適さないということです。また、手作り食を与える場合は、栄養バランスの管理が難しいため、獣医師や動物栄養士の指導を受けることをお勧めします。

 

慢性腎臓病 猫 再生医療と最新治療法の可能性

近年、猫の慢性腎臓病に対する新たな治療アプローチとして「再生医療」が注目されています。特にステージ2〜3の慢性腎臓病に対して、従来の治療法に加えて幹細胞治療を行うことで、腎機能の低下をさらに緩和させる効果が期待されています。

 

幹細胞治療は、細胞が持つ炎症を抑える働きや組織の線維化を抑制する働きを利用して、腎臓の炎症を抑え、腎機能の維持・回復を目指す最先端の治療法です。実施方法としては、点滴による方法と注射による方法があります。

 

【幹細胞治療の特徴】

  • 点滴による方法:半日ほど入院して幹細胞をゆっくり投与。安全性や有効性が一定程度確認されている
  • 注射による方法:筋肉に直接注射するため入院不要。研究段階の部分もある
  • 費用:点滴による方法は約20万円、注射による方法は約3万円(税別、2025年現在)

幹細胞治療以外にも、腹膜透析や血液透析などの方法もありますが、設備のある病院が限られていることや、猫への負担が大きいことから、一般的ではありません。

 

また、2025年現在の最新研究では、「AIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)」と呼ばれるタンパク質が猫の腎臓病の治療に有効である可能性が示唆されています。AIMは腎臓内に蓄積した死細胞を除去する働きがあり、腎機能の回復に寄与する可能性があるとされています。

 

日本獣医学会誌に掲載されたAIMに関する研究論文

慢性腎臓病 猫 早期発見のための定期検査の重要性

猫の慢性腎臓病は、症状が現れる頃にはすでに病気がかなり進行していることが多いため、早期発見が非常に重要です。特に7歳以上の猫や、腎臓病のリスクが高い猫種(ペルシャ、アビシニアン、シャム、ロシアンブルー、メインクーンなど)では、定期的な健康診断を受けることをお勧めします。

 

【腎臓病の早期発見に有効な検査】

  1. 血液検査:BUN(尿素窒素)、クレアチニン、SDMA(対称性ジメチルアルギニン)などの値をチェック
  2. 尿検査:尿比重、尿蛋白、尿沈渣などをチェック
  3. 超音波検査:腎臓の大きさや形状、内部構造の変化をチェック
  4. 血圧測定:高血圧は腎臓病の原因にも結果にもなり得る

特に注目すべきは、比較的新しい検査項目である「SDMA」です。SDMAは従来のクレアチニンよりも早期に腎機能の低下を検出できることが分かっており、腎機能が40%程度低下した段階で異常値を示すとされています。一方、クレアチニンが異常値を示すのは腎機能が75%程度低下してからです。

 

健康な成猫であれば年に1回、7歳以上のシニア猫であれば半年に1回、10歳以上の高齢猫であれば3〜4ヶ月に1回の健康診断を受けることが理想的です。定期的な検査によって腎臓病の早期発見につなげることで、適切な治療を早期に開始し、猫の生活の質を長く維持することができます。

 

日本小動物獣医師会による猫の腎臓病に関する飼い主向け情報

慢性腎臓病 猫 在宅ケアと水分摂取の工夫

慢性腎臓病の猫の在宅ケアで最も重要なのが「水分摂取の確保」です。腎臓病の猫は尿を濃縮する能力が低下しているため、十分な水分を摂取することで腎臓の負担を軽減し、老廃物の排出を促すことができます。

 

【水分摂取を増やすための工夫】

  1. 複数の給水器を設置する
    • 猫は新鮮な水を好むため、こまめに水を交換する
    • 流れる水(ペット用噴水など)を用意すると飲む量が増えることも
  2. ウェットフードを活用する
    • ドライフードの水分含有量は約10%、ウェットフードは約70〜80%
    • 完全にウェットフードに切り替えられない場合は、ドライフードを水やぬるま湯で戻して与える方法も
  3. スープやゼリー状の栄養補助食品を活用する
    • 市販の猫用スープやゼリーは水分補給に役立つ
    • 手作りの場合は、無塩の煮汁などを活用(調味料は使わない)
  4. 皮下輸液の実施
    • 獣医師の指導のもと、自宅で皮下輸液を行うケースも
    • 正しい方法を獣医師から学び、猫にストレスをかけないよう注意する

また、慢性腎臓病の猫の在宅ケアでは、ストレスを最小限に抑えることも重要です。ストレスは食欲低下や水分摂取量の減少につながり、病状を悪化させる可能性があります。静かで落ち着ける環境を整え、無理に食べさせようとせず、猫のペースを尊重することが大切です。

 

薬の投与が必要な場合は、獣医師の指示に従い、正しいタイミングと方法で行いましょう。錠剤を飲むのが苦手な猫には、錠剤粉砕器を使用したり、猫用のトリーツに隠したりする方法も有効です。

 

慢性腎臓病 猫 長期管理と予後に影響する因子

慢性腎臓病は完治が難しい病気ですが、適切な管理によって進行を遅らせ、猫の生活の質(QOL)を維持することが可能です。長期管理において重要なのは、定期的な通院と検査、そして日々の細やかな観察です。

 

【予後に影響する主な因子】

  1. 診断時のステージ
    • 早期発見・早期治療ほど予後が良好
    • ステージ2で発見された場合、適切な管理で1〜3年の生存が期待できることが多い
    • ステージ3〜4では、個体差が大きいものの、数ヶ月〜1年程度の生存期間となることが多い
  2. 合併症の有無と管理
    • 高血圧:腎臓病の進行を早める要因となるため、定期的な血圧測定と管理が重要
    • 貧血:エリスロポエチンの産生低下により起こり、全身状態に影響
    • 低カリウム血症:食欲低下や筋力低下の原因となる
    • 代謝性アシドーシス:全身状態の悪化につながる
  3. 飼い主のコンプライアンス(治療への協力度)
    • 定期的な通院と検査の実施
    • 食事療法の継続
    • 投薬の確実な実施
    • 水分摂取の確保
  4. 個体差
    • 同じステージでも、猫の年齢や体質、併発疾患などにより予後は異なる
    • 若い猫ほど代償機能が働きやすく、予後が良好なことが多い

慢性腎臓病の猫の長期管理では、「数値だけを見るのではなく、猫の状態を総合的に評価する」という視点が重要です。血液検査の数値が悪化していても、元気で食欲があり、体重が維持されているなら、急激な治療変更は必要ないこともあります。

 

また、終末期のケアについても考えておくことが大切です。猫が苦痛を感じている場合、緩和ケアの選択肢について獣医師と相談することも、飼い主の重要な役割です。猫の生活の質を最優先に考え、最期まで寄り添うことが、慢性腎臓病の猫との向き合い方として大切です。

 

日本小動物獣医学会による慢性腎臓病の長期管理に関するガイドライン