
猫の尿路疾患の中でも、シュウ酸カルシウム結石は近年増加傾向にある厄介な病気です。かつては猫の尿路結石といえばストルバイト結石が主流でしたが、徐々に逆転し、現在ではシュウ酸カルシウム結石の方が多くなっているというデータも報告されています。
この結石は腎臓、尿管、膀胱、尿道などの尿路系に形成され、様々な症状を引き起こします。特に尿道が細いオス猫では、結石による尿道閉塞が起こると命に関わる危険な状態になることもあります。
シュウ酸カルシウム結石の厄介な点は、ストルバイト結石と違って食事療法だけでは溶けないことです。そのため、結石が大きくなると外科的な摘出が必要になります。早期発見と適切な予防策が非常に重要になってくるのです。
シュウ酸カルシウム結石を抱える猫には、いくつかの特徴的な症状が現れます。飼い主さんが日常生活の中で気づきやすい変化としては、以下のようなものがあります。
特に注意すべきは、尿道閉塞の症状です。尿道閉塞が起こると、猫はトイレで踏ん張っても尿が出ず、苦痛のあまり鳴き声をあげることもあります。24時間以上尿が出ない状態が続くと尿毒症になり、命の危険にさらされることになります。
また、猫砂やトイレシートの表面がキラキラと光って見えることがあります。これは、おしっこと一緒に砂状の結晶や結石が排出されているサインかもしれません。
些細な変化に気づくことが早期発見につながります。普段から愛猫の排尿の様子や頻度を観察しておくことが大切です。
近年、猫のシュウ酸カルシウム結石が増加している背景には、猫の食事内容の変化が大きく影響していると考えられています。
かつての猫は「ねこまんま」と呼ばれる白米に鰹節をふりかけたような食事を与えられることが多かったのですが、現在では肉食獣である猫の本来の食性に合わせた高タンパク・高脂質の食事が主流になっています。
実は、猫のシュウ酸カルシウム結石は、比較的タンパク質と脂質が多い食事で起こりやすい傾向があるのです。「猫らしい食事」を食べる機会が増えたことが、皮肉にもシュウ酸カルシウム結石の増加につながっていると考えられています。
また、ストルバイト結石を予防するために開発された酸性化食も、シュウ酸カルシウム結石の増加に関係しているとされています。ストルバイト結石はアルカリ性の尿で形成されやすいため、尿を酸性に傾けるフードが処方されてきましたが、酸性の尿環境はシュウ酸カルシウム結石の形成を促進してしまうのです。
さらに、生活環境の変化も一因と考えられています。
これらの要因が複合的に作用し、シュウ酸カルシウム結石の増加につながっていると考えられています。
シュウ酸カルシウム結石の診断は、主に以下の検査によって行われます。
診断がついた後の治療法は、結石の大きさや位置によって異なります。
小さな結石や結晶の場合
大きな結石や尿道閉塞を起こしている場合
重要なのは、シュウ酸カルシウム結石はストルバイト結石と違って、食事療法だけでは溶けないという点です。そのため、ある程度の大きさになると外科的摘出が必要になります。
手術後も再発防止のための管理が重要で、適切な食事療法や水分摂取の促進、定期的な検査による経過観察が必要になります。
シュウ酸カルシウム結石は一度形成されると食事だけでは溶けないため、予防が非常に重要です。効果的な予防法として、以下のポイントを押さえましょう。
1. 水分摂取量の増加
水分摂取量を増やすことは、最も重要な予防策です。尿が希釈されることで、結石の原因となる物質の濃度が下がり、結石形成のリスクが減少します。
2. 適切な食事選び
意外なことに、カルシウムを制限しすぎるとシュウ酸カルシウム結石のリスクが高まることがあります。カルシウムはシュウ酸と腸内で結合し、体外に排出されるため、適切なカルシウム摂取は重要です。
3. 尿のpH管理
4. 定期的な健康チェック
予防のための食事管理は、獣医師と相談しながら進めることが大切です。猫の年齢や体質、既往歴によって最適な食事は異なります。
猫の尿路疾患を考える上で見落とされがちなのが、ストレスとの関連性です。特に「猫特発性膀胱炎」と呼ばれる状態は、ストレスが大きな要因となっていることが知られています。
猫特発性膀胱炎は、明らかな細菌感染や結石がなくても膀胱に炎症が起こる状態で、これがシュウ酸カルシウム結石の形成リスクを高める可能性があります。ストレスによって膀胱の粘膜が傷つき、そこに結晶が付着して結石が形成されやすくなるのです。
猫のストレス要因となりうるもの:
ストレス軽減のための環境整備:
ストレスを軽減することで、膀胱炎のリスクを下げ、間接的にシュウ酸カルシウム結石の予防にもつながります。また、ストレスが少ない環境では水分摂取量も増える傾向があり、これも結石予防に有効です。
環境整備と並行して、フェロモン製剤の使用や、重度のストレスがある場合は獣医師と相談の上で抗不安薬の使用を検討することも選択肢となります。
シュウ酸カルシウム結石は、すべての猫に同じ確率で発生するわけではありません。特定の猫種や年齢、性別によってリスクが高まることが知られています。
リスクが高い猫種:
長毛種の猫がシュウ酸カルシウム結石になりやすい傾向があります。特に以下の猫種はリスクが高いとされています。
これらの猫種は遺伝的な要因や体質的な特徴から、シュウ酸カルシウム結石が形成されやすい傾向があります。
年齢と性別の特徴:
その他のリスク因子:
リスクの高い猫種や条件に当てはまる場合は、より注意深く予防策を講じることが重要です。定期的な健康診断や尿検査を行い、早期発見・早期対応を心がけましょう。
また、リスクの高い猫種を飼っている場合は、子猫の頃から水分摂取を促す習慣づけを行うことが効果的です。ウェットフードを中心とした食事や、猫が好む形式の給水器の設置など、工夫をこらすことで予防につながります。
シュウ酸カルシウム結石と猫の腎臓病(慢性腎臓病:CKD)には密接な関連があります。この関連性を理解し、適切な長期管理を行うことが、猫の健康寿命を延ばすために重要です。
シュウ酸カルシウム結石と腎臓病の関係:
シュウ酸カルシウム結石は膀胱だけでなく、腎臓内にも形成されることがあります。腎臓内に結石ができると、腎組織を圧迫・損傷し、腎機能の低下を引き起こす可能性があります。
尿道や尿管が結石で閉塞すると、尿が排出されず腎臓に逆流圧がかかります。これにより急性腎障害が発生し、適切な処置が遅れると永続的な腎機能低下につながることがあります。
慢性腎臓病があると、尿の濃縮能力が低下し、カルシウムやシュウ酸などのミネラルバランスが崩れやすくなります。これがさらに結石形成のリスクを高めるという悪循環を生み出すことがあります。
長期管理のポイント:
腎臓病と結石症の食事管理は時に相反する部分があります。
シュウ酸カルシウム結石と腎臓病を併発している猫の管理は複雑で、獣医師との密な連携が必要です。定期的な検査と状態の変化に応じた管理計画の調整が、猫の生活の質を維持するために重要です。
また、腎臓病の早期発見のために、多飲多尿、食欲不振、体重減少などの初期症状に注意を払い、変化があれば速やかに獣医師に相談することをお勧めします。