鷹の目を持つ女

その日、私とフェロモン社員Hは、自社で行われる会議に備えて自席に居た。
10時に本社からデータベース関連部署の社員がやってくる予定だ。
もうそろそろ約束の時間である。

その前日、私はHに質問していた。
「明日くる人って、どんな人だっけ?名前は聞いた気がするんだけど」
「えーとですね。ほら!コレ!コレ!」
差し出されたそれは、新入社員を顔写真つきで紹介している社内報だった。
去年の春の。
彼女はマメに集めているらしい。
それにしても、「コレ」はないのではないだろうか。人だし。
そう思いながら彼女の指差す先を見ると、鷹の目のごとき鋭い目をもつ女が居た。
ミクロの世界を肉眼で見ようとしているような、エッチビデオのモザイクを集中力でかき消そうとしているような、
とにかく鋭い目だ。

「どうですかぁ?」
「いや、やっぱり会ったことないな。こんなインパクトのある人なら覚えているはずだし。」

「うわっ、ひっどーい」
というと、彼女は自らもゲラゲラ笑いながら、周囲の女性に社内報を閲覧させ、
「kabukiさんが…」
と私のよくない噂をふりまいていた。

話は元に戻る。
10時になっても、鷹の目の女は現れなかった。
15分過ぎても現れなかった。
30分を過ぎたあたりで現れた。
が、現れたその人は、間違いなく本人であることはわかるが、社内報で発していた
目の鋭さは微塵も感じられなかった。

とにかく、会議が始まった。
Hは、貴重な朝の30分が無駄になって、少々機嫌が悪いらしい。
さらに鷹の目のしゃべりが場を熱くする。
「うぅーん。でぇ、この場合だとぉ。データベース接続に必要なのはぁ。」
「そうするとぉ。このソフトは必要なくなるのね。うぅん。」
Hの表情から徐々に笑みが消えていくのがわかった。
Hの方が一年先輩なのにタメ口だったからか、説明が訳わからないからか、遅れてきたのを根に持っているのか。
そのうち目から光線を出して、辺り一面を火の海にしてしまいそうだった。

私はさっさとこの場を終わらせることにした。
鷹の目に向かって、要点を伝える。
「じゃあ、これとこれとあの部分の確認をしていただいて、担当部署としての見解を後日書面でいただけますか。」
「うぅん。わかりましたぁ。」
「Hさん、他には何かない?」
「いえ。その書面、な・る・べ・く・は・や・めに、下さい。」
ちょっと一部力が入って居た様だが気のせいであろう。

とりあえず窮地を切り抜けた私は、今日も無事ホームページを更新しているのだった。


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