本能
決算も近づいてきたため、私も他に漏れず、あわただしく仕事をしなければならない。
この日は、午前中から向かいの席の後輩社員H(女性)と客先訪問のためにあれこれ話していた。
比較的暖かい日だったのだが、会社のオフィスは暖房がガンガン効いており、大層暑かった。
そのせいもあり、Hは上着を脱いでいた。
Tシャツといおうか、ババシャツといおうか、とにかく薄手のシャツで色は…どどめ色。いや、黄土色か。
私は、祖父が良く着ていたモモヒキの色を思い出していた。
「それでですね!客はこういうのを求めていると思うんですよ!」
Hが自分の作った資料を指さして熱く説明する。
なるほどなるほど、と聞いていると、Hがさらに身を乗り出して説明を続ける。
「で、これをやるためには、こうすればいいと思うんですよ!」
しっかりした意見だ。これなら大丈夫だろう、と思いながら凄く気になることがあった。
私の視線の中心は、Hの示す資料にあるのだが、視界の隅にある気になる部分。
身を乗り出したHの胸元からは、思い切り谷間が見えているようだ。
視線は資料から谷間へ徐々にずれてきている。
渦巻きに巻き込まれる小舟、ブラックホールに飲み込まれる小惑星。
私の視線は、強烈な力に引き寄せられるように、じわじわと移動していた。
だが、私には理性がある。後輩社員がこんなにも一生懸命な時に何を考えているのか。
Hの説明は続いている。しっかり聞こうじゃないか。だが、身が入らない。どうすればいいのか。
そうだ、一言言えばいいではないか。軽くひとこと。
ひょい、と視線を引力の源にうつし、
「Hさん、目のやり場に困るんだけどー」
と言う予定であった。
視線を移した瞬間、体が硬直した。
視線が動かせない。
本能には逆らえないのか!
私が勝手に葛藤していると、Hはひょい、と胸元を押さえて、
何もなかったように説明を続けた。
バレている。明らかにバレている。
やばい。
ここは…しらばっくれるしかあるまい。
「いい考えだと思うよ。それでいってみよう。」
と、話はこれで終わり、その後私のよくない噂が社内に広がったかどうかは定かでない。
ひとつわかったことは、Hの意見も立派だったが、谷間も立派だったということだ。
ああああ、何を書いてるんだ私は。
という訳で、反省しつつ今回の日記を終わる。
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