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 30歳研修 その日、私は30歳研修を翌日に控えていた。 30歳研修というのはその名の通り、会社で30歳になった人が受ける研修のことだ。が、正式名称は「中堅社員研修」というらしい。
 帰り際、ノームさんが「研修」と明日の予定をホワイトボードに書きこんで帰ろうとしていた。私はそこに通りかかり、ちょっと声をかけてみた。
 私「ノームさん、研修ですか。」ノ「研修なのよー」 (いつものオーム返し)
 私「実は、私も研修です」
 ノ「ええー、そうなのー、なんでー」
 私「なんでって、30歳研修でしょ? 研修のお知らせに書いてありましたよ」
 ノ「わたし、まだ29歳だよー!!」(いきなりボリュームアップ)
 私「いや、今年度30歳になる人が受ける研修でしょ?」
 ノ「わたし、30じゃないー!!3月までは29だもん!!」(ボリュームMAX)
 どうも、踏んではいけないところを踏んでしまったようなので、逃げるように自分の席に戻った。ノームさんはついてきた。まだ納得できないようだ。
 仕方ないので、再度取り繕いの言い訳をしておいた。
 「研修のお知らせに、来年の3月31日までに30歳になる人が対象と書いてあったんですよー」
 が、正面にフェロモン社員Hが座っており、
 「なんでそういうこと言うんですか!!」
 と援護射撃を始めている。
 いかん、相手が二人に増えた。私は押され気味だ。
 私「だから、研修のお知らせに」
 H「なんでそういうこというんですか!!」
 ノ「まだ29だもんー!!」
 どうもこの議論の結論は出そうにない。私は、トイレに一時身を隠し、その場を逃れたのだった。
 研修当日。研修の内容は、自己啓発セミナーっぽいもの(多分)だった。
 ここでは、やたら「原則です。原則だからです。」というのを連発していた。定説の次は原則が来るのか?
 昼休みの時間になったが、私は当日までに書いて来なければならないアンケートを全く書いて居なかったため、
 皆が昼飯食いに行く中、適当にアンケートを埋めていた。
 ノームさんは別の班だったが「アンケート集める係」だったため、私と同様アンケート書いてこなかったやつが
 書き終わるのを待っていた。
 余計なことに、いや、偶然なのだが、そいつも私が書き終わると同時ぐらいに書き終わりやがって、いや、
 書き終わったようで、何故かノームさんとサシで飯を食いに行く羽目になってしまった。
 とりあえず、昨日のフォローをしとこうと思い、天ぷらうどん定食オーダー後、軽く話し掛けていた。私「よく考えてみれば、30まであと3ヶ月もあるんですもんねー」
 ノ「・・あるねー」
 私「29と30じゃ大違いですもんねー」
 ノ「・・違うねー」
 私「でも、30になっちゃえば楽になれますって!ははは」
 ノ「・・そうなのー」
 どうも、ノームさんのオーム返しに切れがないことに気がつき、
 この件については、もう触れないでおくれ、というシグナルだと受け取った。
 やや気まずい沈黙。とりあえず何か喋ろう、と思い私「真っ赤な服ですねー。クリスマスバージョンですかー」
 ノ「ク、クリスマスバージョンなのー」
 私「おや、ノームさんの箸に乾いた米粒がへばりついてますね。サービスですかねー」
 ノ「サッ、サービス?! ・・なのかなー」
 さすがに鈍い私も、これ以上言うとほんとに怒り出しそうだと思い、黙々と天ぷらうどんを食った。
 あのまま何か言いつづけてたら、天ぷらをなげつけられていたかも知れない。
 だが、米粒つきの箸については私が店員に言って替えてもらったので、少なくとも
 洒落にはなっているかと思う。
 いつも思うことだが、人と話をするときには口の聞き方に気をつけよう・・と思った。「ノームさんの2000年対応」に触れなくて良かったと思いつつ、今回の日記を終わる。
 
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