ととっこは自分の前足が色んなことに役立つことに気づく。
まず、顔を洗う。
誰に教えられたの?というぐらい、てきぱきした手順で、まずは前足のはしっこをべろりと舐めて湿らせ、顔の周りをしゃかしゃかとこするのだ。
本能というにはあまりにも複雑な手順である。私は誰かに教わらない限り、こんなふうに顔を洗う自信はない。たいしたととっこであった。
ととっこが来た日から、ダンボール素材の爪とぎは完備してあった。またたびの粉が振りかけてあるため、いいにおいに誘われてばりぼりと爪を研ぐ。研ぐという言葉にふさわしく、どんなに爪を切ってもあっという間に鋭い爪になっている。さすがととっこである。
鋭くなった自分の爪に何かがひっかかるということを知ったととっこは、色々試してみる。
まずはティッシュである。一枚爪にひっかけ、引く。しゅるりとティッシュが出てくる。なんと不思議なことに、今出たはずのティッシュが、また箱からにょっきり出ている。逆の前足をティッシュに引っ掛け、引く。ティッシュはしゅるり、けど、箱には元通りティッシュが出ている。
見どころのある奴に出会えたととっこは、高速で左右のパンチを繰り出す。舞い上がるティッシュ。そのうち、残り少なくなったティッシュがごそっと箱から全部出て、ティッシュは息絶える。ととっこは勝ったのだった。
会社から帰り、部屋の中にティッシュが散乱しているのを発見した私は、新しく設置したティッシュにととっこが挑むのを見て、留守中に起こったことを理解して、感心するのだった。
それ以降、ティッシュの口を逆さにして設置するという技で対抗していた私である。だが、数年後、ととっこはティッシュをひっぱり出したりしない落ち着いた大人になっていて、私は少しだけ寂しい気がした。
▲何かをみつめるととっこ団長
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