仙台に行くことになった。主な目的は知人と会うことと、仙台の健康ランドに潜入することだ。
今回は、我が愛しの相棒である折りたたみ自転車は留守番だ。徒歩で行く。
明け方、まだ暗い時間に家を出て、東京から新幹線に乗る。東京駅で新幹線を待っている間、寒いので待合室に身を滑り込ませた。普通に言うと、自動ドアをくぐって入ったということだ。
しばらくして新幹線が来る。
乗り込む。まだ外は暗い。朝の6時は過ぎているはずだが、まだ太陽が出ていないのだ。
新幹線の中でしばらくうたた寝しているとあっという間に仙台に到着した。約2時間だ。
やはり、仙台というとコレだ。しばらく前に話題になっていた新球団、「東北楽天ゴールデンイーグルス」。別に仙台駅内をゴールデンイーグルスの人たちがうろうろしている訳ではないのだが、至るところにこの張り紙がしてあった。
駅で売っている牛タンや笹かまぼこをふうむふむ、と何かに納得しているような顔をしながら見て回る。これは、その土地の名物をきちんと見ることで、自分の居る場所を心の底から認識するための儀式なのだ。
儀式だ、などとちゃんと考えたことは無いのだが、まあそういうことにしておこう。仙台と言えば牛タン、笹かまと言えば仙台。よし。
地下鉄に乗って、待ち合わせ場所の「長町南」に到着した。知人との待ち合わせなのだ。待ち合わせ時間は10時なのだが、まだ8時半だ。早すぎた。
駅のすぐ上にあるデパートらしきもので時間をつぶそうと思ったら、まだ開いていなかった。
そういった事態は想定していませんでしたー、と思いながら外に出てみる。寒い。
あまりに寒いので肉まんを買ってむさぼり食った。一瞬暖かくなったが、すぐに冷める。だ、だめだ、こりゃ。地下鉄の入り口に戻る。
やがて9時になり、デパートの一部が開いたので中に入った。開いていたのは食料品売り場だ。野菜や肉などを見て時間をつぶす。野菜だなあ。そして肉だなあ。あちこちで野菜が高いと大騒ぎしているが、東京で売ってるのと比べると若干安いような気がする。
食料品売り場に隣接して、「萩の月」などのみやげ物コーナーもあった。うむ、飽きた。
店は開いてないが、エスカレータで3Fに上り、イスに座る。
しばらくして、座るのにも飽きてうろうろし始める。そろそろ10時だ。
「10時ごろ」ということで待ち合わせをしていたので、まあ10時半ごろには合流できるんじゃないだろうか。本屋などが回転、いや、開店し始めたようだ。アウトドア用品店も開店したので中に入ってみる。
実はしばらく前にキャンプ用の小型のバーナーがダメになり、新しいのが欲しかったのだ。だが、冬はスキーだとかスノボだとかの季節らしく、キャンプ用品は置いてなかった。ちくしょう。
そうこうしているうちに、知人から電話が入り、無事合流だ。そして「動物園に行って動物を見る会」が実施された。どういうことかというと、動物を見て、どうぶつだー、とかそんなようなことをつぶやきながら楽しむという、別に説明しなくてもいいような気がするが、そういう会合だ。
動物園に入る。なぜかベーブルースの銅像があった。
ベーブルースの打った球がどっかめちゃめちゃ遠くから飛んできて大騒ぎになって気がついたら銅像が出来てた、とかそんな感じの伝説があるらしい。ベーブルースには、というか、野球自体にあまり興味がない私は先に進んだ。
最初のどうぶつー。それは、フラミンゴだった。赤みがかった足の長い鳥で、いつも体がびっしょりぬれてる感じだ。真ん中に妙に赤い奴が写っているが、恐らくこれはスーパーサイヤミンゴか何かだろう。
ぱおーん!象はそんなふうに鳴くという気がしているのだが、象が鳴いてるところなんて聞いたことがない。
とにかくでかい。こんだけでかいと大概のことは許してしまう。牙はあぶないからだろうか、切られていた。
チンパンジーが居た。もの凄く寒がっている。そりゃあこの寒空に裸で放り出されている訳だから当たり前だ。風邪には気をつけてほしいと思う。
そしてみんなのアイドル、ペンギンさんだ。ペンギンさんはこの動物園の中でもかなりテンションが高かった。俺の季節がやってきやがったぜ、と言わんばかりだ。その調子でがんばって欲しい。
地上ではぺたぺた歩くペンギンも水中ではミサイルのごとく速い。魚雷のようだ。シャッタータイミングの遅れるデジカメでは真ん中にペンギンを捕らえることは難しい。侮れない。
水鳥のコーナーでは鴨も白鳥もその他の色んな鳥も一緒くたにされていて、どうも扱いが低かった。
そんな扱いの中、鴨は編隊を組んで泳いでおり、数に任せた抗議活動を行っていた。
それを見ていた地味な色の水鳥が「おいおい、そんなことしたらまずいんじゃねーのか」と怪訝そうな顔で見ていた。ような気がした。
水辺つながりでアシカが近くに居た。ぱたぱた走っては浅いところをついーっと滑って遊んでいた。それはもう楽しそうに何度も何度も滑っていた。
水辺ゾーンを離れると、ラマが居た。ラマは上あごと下あごを交互に左右に動かし、何かをもごもごと食っていた。地面にぺたりと座り、顔だけこっちを向けてもごもごだ。
ラマも寒いらしい。
その横ではラクダもどへーっと寝ている。フタこぶラクダなのだが、溶けたナマコのようだ。ポーズも不可解でどうなっているのかさっぱりわからない。
一応解説すると、体はこぶのある背中をこちらに向けて横向きに寝ていて、頭をのけぞるようなカタチにしてこちらを見ているというわけだ。どうでもいいと思うが。
愛らしい姿でちびっこの人気を独り占めのレッサーパンダ。他の動物達が寒くてあまり動かなかったのに比べ、彼はちょこまかと良く動いていた。
そして近くにある、レッサーパンダのお尻ぐらいの大きさの切り株にお尻をこすりつけていた。かゆかったんだろう。
やがて、クセになってしまったのか、お尻こすりつけがとまらなくなり、いたたまれなくなった私達は移動した。
サル山にやってきた。
サルは動きのバリエーションが多く、見ていて飽きない。寒がっているちっこいサルがかわいいなと思った。
くまだ。黒いくまだ。
でっかい猛獣だけど、なんだかユーモラスな感じ。特殊ガラスの向こうでくま二匹がのんびり歩いていた。
やぎ。
やぎはいつも何かしら食っているイメージがある。イメージだけでなく、このやぎももぐもぐと口を動かして何か食っていた。
これは多分、ロバか何かだと思う。このあたりはちょっと中だるみしたというか、適当でいいやみたいな気分になってちゃんとした写真をとっていない。
寒がって寝ている何か。草食動物じゃないかなあ。
プレーリードッグだ。どうせ穴のなかに引っ込んで寝てるんだろ、みたいな予想に反して、比較的よく動いていた。
ドッグのくせにねずみっぽい。プレーリーマウスと名づけたほうがしっくりきたんじゃないだろうか。
しばらくすると、プレーリー夫妻の愛のささやきあいが始まった。
「君の毛並みはとってもきれいだよ」「まあ…」
見ていられなくなったので、舌打ちをしながら次に進んだ。
きつね。
きつねの鳴き声といえば、「コーン!コーン!」というイメージがあるが、実際にはどう鳴くのだろうか。
きつねも寒がって丸くなっていたので、鳴くところはおろか、動くところも見ることは出来なかった。
サル山の頂上。さっきもサル山を通りがかったのだが、これはその裏側。
頂上でボス猿らしきやつがノミとりをされていた。直後、勢いよく別の猿が登ってきて喧嘩でも始まるのかと思ったら、ボス猿のノミとりに加わって、せっせとノミを取っていた。
モテモテだ。ちくしょう。
白熊。寒そうなとこに住んでる動物は、冬でも活発だ。
でも、この写真に写ってる白熊はニタニタ笑いを浮かべている間抜け面だ。がんばれ白熊。
次はどんな動物かな、ふうむふむ、と思いながら進んで行くと突如現れる「消毒中」の小屋。
なんだかよくわからない物悲しさを感じてしまう。
ああ。
消毒されている。
百獣の王、ライオン。メスの方はだらしなく大また開きでグデーッとしている。オスもずっと寝っぱなし。
百獣の王だなんて、本当なんだろうか。百獣って、ほんとうに百種類の獣の王なんだろうか。誰か数えたんだろうか。八獣の王くらいにしといた方がリアルなんじゃないか。王なんて言うと大げさだから、部長くらいにしてはどうか。いや、課長くらいにしとくか。そうすると八獣の課長だ。
この写真のライオンに称号をつけるなら、それくらいで丁度いいような気がした。
トラもグデー。
ライオンが課長だから、トラは係長あたりで納得してもらおう。係長も仕事をさぼって寝ているようだ。
カンガルーも寒がって固まっている。
カンガルーはそうだな、受付嬢あたりにしとこう。
いらっしゃいませ、お約束ですか?ぴょーん!ぴょーん!
落ち着かない。
社長!
やはり社長にするなら象だろう。大物感漂う感じがする。
象は最初の方で見た気がするが、インド象とアフリカ象の違いというか、どっちがどっちなのかわからないが、別の象なのだ。
動物園で取った写真はこんな感じだ。ほんとはカバとかサイとかも見たのだが、なんかの手違いで写真がとれてなかった。
特にカバに関しては、その風貌に私がうっとりして結構な時間をかけたり、水中でウンコしたカバが大きく動き回ってかき混ぜるのを目撃した友人が悲鳴をあげたりと、なかなか面白かった。
生臭い匂い漂う爬虫類館などもなかなか良かった。友人が吐き気を催して、ハンカチを口に当てていたのが印象的だった。
イヌワシもためになった。英語名が「ゴールデンイーグル」だとわかって、楽天ゴールデンイーグルスはイヌワシという意味なのだ。金のワシという意味じゃなくて、イヌワシなのだ。そうかー、などと感心した。感心したのは私だけかと思っていたら、友人も感心していて、少しだけ心の底の譲れない部分を分かり合えたような気がした。
動物園を出ると、結構な時間が経過していた。滅多に会わない友人との時間を、動物園ではしゃいで過ごす自分はばかじゃないだろうかと本気で思った。
その後、ファミレスで肉中心の飯を食い、しばらくして友人と別れた。
既に時刻は夜。仙台駅まで電車で戻ってきた。
正面のビルになんだかよくわからない模様がついていて、珍しいので写真をとる。この時期の仙台は「光のページェント」という道や木をライトアップしてわーきれい、と楽しむイベントがあるのだが、どこでやってるのかいまいちわからないのでパスした。
まだ宿を取ってなかったので、電話帳をめくって適当なとこを探す。電話すると部屋があるとのことだったのでそこに決めた。
歩いて15分ほど、宿泊先のホテルに到着する。
ふむふむ。特になんということのないビジネスホテルだ。チェックインして、ベッドの上で少し横になる。
横になっていると、私の肉体が時間を越えるという怪現象が発生していた。わかるように言うと、いつの間にか寝てしまって時間が経ったということだ。
腹が減っている。
なんか変わったものが食いたいような気がしたが、近くによさそうな店がなかったのでコンビニに行った。「いくら丼」というのがあって、さすが仙台だと感心したが、後日関東に帰ってきたときに同じいくら丼が売られているのを発見してしまった。
そんな訳で、インパクトにかける食事を取る。ビールのちっこいのも買ってきた。
祝杯だ。
何の祝杯かはわからないが、とにかく乾杯。おめでとう。いやいやいやいや。ささ、ぐーっと。
祝杯をあげていると、またしても知らないうちに私の肉体が時間を越えていて、外は明るくなっていた。
さて、今日の予定は、と。「なんか仙台っぽいもんを食う」とその場で決まった。予定を立てなさすぎじゃないだろうか。いやいや、少なくとも一人旅の場合は、あまり綿密な予定を立てないほうが楽しいのだ。今までだってそうだったではないか。
ただ、今まで綿密な予定を立てた一人旅をしたことは一度もないので、もしかしたらそれはそれで楽しいかも知れないという考えが頭をよぎったが、気づかないフリをしておいた。
ホテルをチェックアウトして、とりあえず駅の方に向かう。通りがかった店は「彩人 花京院店」。「彩人」で合ってるのかどうかはよくわからないが、ここいらの地名が花京院だってことが少し嬉しかった。「ジョジョの奇妙な冒険」という漫画に花京院というキャラクターが出てくるのだ。
そんなたわいもないことを考えながら駅に向かう。風が冷たくて、そのまま新幹線に乗ってひょいと帰りたくなったが、とりあえず近くにあった「ロッテリア」に入って、朝食セットを食う。
二階席のガラス窓付近に座り、道行く人をじーっと見てみる。
不思議なことに、かなりの高確率で目が合う。私から微弱なテレパシーでも出ているのだろうか。それとも、人間誰でも視線を感じる能力というのがあるということなのか。
私はコーヒーをすすりながら、道行く人をじーっと見続けた。怖そうな人はなるべくパスして見続けた。
「もう我慢できないわっ。実家に帰らせていただきます!」「借りた金は返せコラァ」などと心の中でセリフを割り当てたりもしてみた。
テレパシーごっこに飽きた私は、店を出た。時間は朝10時、そろそろ色んな店が開く時間だ。
仙台二日目が、いよいよ本格的に始まろうとしていたのである。
冒険しようぜ(仙台編)2へ続く