3連休。
連休になるとどこかに出かけたくなる。思うに、現在から逃げ出したいがために、私は旅立つのだと思う。
という訳で、今回は千葉館山方面に逃げた。館山は千葉の南の方、海の近くだ。
土曜日、目が覚めると10時で、うだうだしていたら12時になって、飯でも食おうと思ったら、2時になっていた。
明日から行こう。そうしよう。
その夜、ごくせんの最終回を見て、サワタリ教頭の意外なかっこよさに涙した。
日曜日。6時に目が覚めた。
よし、いい感じだ。ところで、出発の準備を全くしていない。
さくさくっと、準備をしよう。
だが、準備を終えると、なぜか10時になっていて、朝飯食ってからでかけようとか言っていると、電車に乗り込んだのはすでに12時だった。
今回の予定は、千葉館山付近まで行って、近所の海を見て周り、海だー、と思いながら自転車をこぐこと。館山付近はわりと拓けてるのでビジネスホテルぐらいあるだろうから、その辺で泊まるという計画、というのもおこがましいが、計画だ。
込んでる急行とかは避けて、各駅停車で現地に向かう。
がたごとがたごと、と振動が心地いい。
中野から総武線に乗り、千葉で乗り換え、内房線に乗る。あとは乗ってれば館山につくのだ。
あっけなく館山に到着した。時刻は2時。最近、出発のタイミングが遅くて、目的地に着いたらもう夕方だった、というパターンが多すぎる。出かければ楽しいのは間違いないのだが、同時に面倒くさいという気持ちが湧き上がり、出かけようという私を押さえつけるのだ。
館山の駅を出ると、輪行集団に遭遇した。
輪行というのは、自転車を電車に乗せて移動し、長距離を自転車で移動する方法
である。自転車そのまんま乗せると文句を言われるので、車輪を取り外して袋の
中に入れたりして持ち運ぶ。私は折りたたみ自転車を袋に入れて移動している。
なんとなく、その集団の一員と思われたら恥ずかしいので、隅っこの目立たない
ところで自転車を展開する。わかりやすくいうと、折りたたんだ状態を拡げて、
乗れる状態にしたということだ。
館山は結構都会で、駅前なんかは車通りは少ないものの、きちんと舗装されてい
た。なんだかつまらない。
駅前にくじら弁当が売っていたので、買ってみる。名物・くじら弁当と書いてあ
れば、まあ買いたくなってしまうのが人情ってものだ。館山の名物はくじらか。
近所をくじらがびゅんびゅん泳ぎ回っているんだろうか。
近くに海があるはずなので、移動する。今日の宿を確保しようと思い、電話ボッ
クスでビジネスホテルを探す。「ビジネスホテル」で探せば、出てくる。そのま
んまだ。
電話をかけてみると、満室だという。別のホテルにかけても満室。さらに別のホ
テルにかけても満室。
さっきの輪行集団が関係しているのだろうか。謎の輪行集団、館山で大量宿泊。
いや、別に悪いことじゃない。
しょうがない、このへんで少し遊んだら、また電車で移動して宿がとれそうなと
ころにいこう。観光地っぽいところは当日に予約ナシで行ってもなかなか泊まれ
ないものなのだ。まあ、当たり前だ。
とりあえず弁当を食べる場所を求めて移動する。せっかくだから海の見えるとこ
ろで食べたい。
ここまで全く写真を撮ってなかった。今回初めての写真がこれだ。
砂浜まで来た。かなり風が強い。まだ寒いのに、サーフィンしている集団がいた。集団なのか、個人が集まっているだけなのかは判別不能である。判別したところで、別にいいことがあるわけではないのだが。
砂浜に自転車で侵入すると、どうなるか知っているだろうか。砂にタイヤを取られて、進むのが困難になる。そんでもって、チェーンに砂がいっぱいついて、チェーン周りが痛む。
私にしては珍しく、砂にタイヤを取られた時点でその後のことを予想し、自転車を降りてゆっくり進んだ。
自転車をとめ、下地が砂なのでスタンドがなかなか立たなかったが、なんとか立て、メシの用意をした。
といっても、おりたたみイスをぱっと拡げただけだ。
イスに座り、くじら弁当のフタをあけた。冷えた飯の上に敷き詰められたくじら肉の佃煮。ひとくち食べて、うむ、まずい!と思った。
たいていのものはおいしく食べられる私の舌ではあったが、この弁当はまずかった。
そんな感想が弁当にも伝わったのか、弁当を入れる袋が風で飛ばされ、弁当を片手に袋を追いかける羽目になった。
佃煮弁当を5分ほどで食べ終え、その場を去った。もうちょっとゆっくりしたい気がしたが。
冷えたので、館山駅近くのスーパーに戻って、トイレを借りる。すっきりして、ついでに自販機で缶コーヒーなんか飲んでみる。
スーパーにもものすごくたくさんの人が居た。この周辺では、一番でかいと思われるスーパーだ。人も集まるだろう。
さて、そろそろ館山の探検はもういいかと思い始めていた。別に探検らしきことは全くしていないが、もういいかと思っていた。
館山駅に戻って素直に電車に乗ればいいのに、一駅だけ自転車で移動しようと中途半端なことを考えた。
鳥居だー!
鳥居なんかそこいら中にあるのだが、旅に出ているときというのは色んなものを珍しがって楽しむものなのだ。うん、鳥居だ、鳥居だ。
鶴谷八幡宮だ!全然知らないけど。
こんな色気のない石碑なんかより、キリッとした顔の鶴が崩れ落ちる岩を支えているような、そういうドラマチックな石像の方が絶対いいし、ああ、だから鶴谷なのかと納得もすると思うのだがどうだろう。きっとそんなことすると関係者が怒っちゃうんだろうな。
そして、田んぼだー!田んぼを見て心に絡まった鎖がじわりじわりと解けていく私。前世はやっぱじゃがいもか何かで、土の中ですくすく育っていたのかも知れない。
わりとあっけなく、となりの「ここのえ」駅に到着。電車を待った。15分ほどで電車がきた。乗る。
さて、こっからビジネスホテルに泊まれそうなところまで移動しよう。
つまり、そこそこ都会で、これといって観光名所もないような場所に移動するのだ。東京方面に向かうとそのまま家に帰りたくなるので、九十九里の方向を目指した。
自転車を折りたたみ、大きな荷物を運ぶ人モードになる。電車はがらがら、難なく端っこのポジションをゲットする。
がたたん、がたたん。電車は絶妙なゆれを私に与えつつ、各駅に止まりながら進んでいく。私の目の前が暗くなり、時間が飛んだ。
寝起きの時の、軽い頭痛を感じながら私は目を覚ました。日は沈んで、電車に乗ってる人も少なめ。寝ていたのは30分ほどらしい。
特に、目的地も決めず、日の暮れた時間帯に電車にゆれる私。聞いたこともない駅に止まりながら、電車は徐々に進む。この感じ、悪くない。出来れば、そう簡単に帰れないような場所でこんな感覚を味わいたい。
そんな雰囲気をなんとなく感じて、居眠りしていた私だが、ついに目的地が近づいてきた。いや、単に周りの景色が都会っぽくなって、そろそろビジネスホテルが出てきそうだという場所に来ただけだ。
駅の名前は茂原。もばら。勢い良く発音すれば、北斗神拳にやられた人の叫びのようにも聞こえる、もばら。とにかく、ビジネスホテルくらいはありそうなところだ。
改札手前の電話。ここで電話帳を調べ、近そうなビジネスホテルを探す。一軒目でいきなり空きがあるという。
駅から50mほどの、近いとこだ。
私はそれぐらいだったらと、折りたたんだ自転車を肩からベルトでぶら下げ、ホテルに向かった。
ビジネスホテルの探し方はいくつかある。
一番確実なのは旅行代理店で紹介してもらうことだ。だが、引っ込み思案気味の私は、公衆電話に備え付けの電話帳で「ビジネスホテル」のページを開き、探す。
だいたい5,000円くらいであれば、どこでもいい。携帯電話で、電話する。
「予約はしていないんですが、本日、部屋は空いてますか?ええ、シングルで」
もはや決まり文句である。私はこういう、心のこもっていない丁寧言葉が得意だ。仕事モードである。空いてたら、料金はいくらかを聞き、ちょっと高いなと思ったら、またあとで電話しますと言って電話を切る。よければ、「ではお願いします」と伝える。
ほとんどの場合、「お車で来られますか?」と聞かれる。車ならば、駐車場の場所を教えてくれるわけだ。私は「いいえ」とだけ答える。もし自転車をとめる場所がなくたって、私の自転車は折りたたみ式。折りたたんで部屋に持ち込めばいいのである。
今回も、そんな感じで、ホテルを確定した。
チェックインして入ってみると、部屋はよくある作りの洋室だ。私は荷物を置いて、ベッドに横になる。
あまり長く横になると寝てしまうので、起きてメシを買いに行く。近所をうろつき、駅前のスーパーで買い物だ。閉店間際のタイムサービス品を狙い、色々買い込む。
腹が減っているときに食い物を買うと、必要以上に買ってしまうという法則に乗っ取り、食いきれないだろうというぐらいの量を持って宿に戻る。
ビジネスホテルの一室で、特にこれといって特徴のない食べ物をもそもそと食べる。そんなことをするぐらいなら自宅でゆっくりしてりゃいいじゃないかという気もするが、これは、一人で色々考えるための儀式なのである。いや、考えたって、別に名案が浮かんで何かが画期的に変わるわけじゃない。
普段とちょっと違うことをするってことが、大事なのだ。
メシを食い終わり、シャワーを浴びて、ベッドに横になる。目の前がだんだん暗くなってきて、私は眠る。夜中、寒くなってあわてて布団にもぐり、朝まで寝る。
目を覚まして、チェックアウト。これからどうするかと言えば、電車に乗って家に帰るわけだ。ほどよく、「家に帰りたい」という気分になっている。
キャバクラ戦隊キャバレンジャーの看板が目に飛び込んでくる。
キャバレンジャーは何人戦隊なのだろう。指名ボンバーとか同伴クラッシュとか色々技があるんだろうか。
駅前のガストで朝飯を食い、私は電車に乗って帰った。
どうも今回は、日常から抜け出せなかったような気がする。そもそも、館山に行ってから、これを書くまでえらい時間がかかってしまって、なにやらテンションが低い。まあ、たまにはそんなこともあるさと自分をだましつつ、今回の冒険を終わる。