先々週も、先週も天気予報が雨だったので見送りにしていた秩父。
秩父に特に何かすげえものがあるというわけでもないのだが、
二週間待ったことにより秩父に対する期待が私の中で大いに高まっていた。いいことだ。
今回の目的は秩父でキャンプして温泉いく、ということにした。
早朝出かける予定だったのだが、寝過ごしてしまって朝9時ごろの出発だ。
今回は自転車で西武新宿線の野方駅から電車に乗る。野方駅まで自転車で行き、自転車を乗車モードに変形させていると間の悪いことに野球少年の団体が来た。
駅前で自転車を折りたたんでいるいい年をした男、つまり私のことが話題にのぼると思ったが、特にそういうこともなく、それはそれでかえってさびしかった。
西武新宿線、西武池袋線と普段乗らない電車に乗った。乗り換えは3回。
二時間かけて西部秩父駅に到着した。
途中、飯能駅というところを通り、「いいのう駅か。いい名前だなあ」と思っていたら、
はんのう駅と読むらしくてちょっとがっかりした。
西武秩父駅でとりあえず夜飲む為の酒を買った。ワンカップ系の日本酒だ。季節外れのキャンプ場はさびしいだろうから、気分を盛り上げたい。てっとりばやいのはアルコールなのだ。
その後、すぐにスーパーも見つかったので、食材を買い込む。スーパー内では特に「ちちぶ!」という感じの特産品は見当たらなかった。
さすが秩父。山がきれいだ。だが近寄ってみると山にかすかに見える模様は、岩を切り出すために山を削った跡だったりしたのだ。ちょっと物悲しい。
私の知り合いに写真が趣味の人がいるので、その人に撮ってもらいたいと思った。私の写真では、その場の雰囲気をなんとなく伝えるだけで精一杯だ。
写真でわかるだろうか、真ん中らへんに煙がただよっているのを。
ぽ〜。しゅっ、ぽっ、しゅっ、ぽっ、だだしゃかだだしゃかだだしゃか。という音が聞こえると思ったら機関車が走っていたのだ。
機関車を取ろうと、デジカメを取り出し、かまえ、シャッターを切ったときには機関車は去り、煙だけが残ったということだ。まあ、ちゃんとした機関車は他のマニアな人がきれいに撮ってるだろうからいいか。
機関車の音を聞いて思い浮かんだのは銀河鉄道999で、
「汽車はぁ〜闇をぬぅ〜けて〜」と思わず歌ってしまった。
目指しているのは橋立川キャンプ場だったが、見つからずうろうろしていると、別のキャンプ場が見つかった。ここでもいいかと思って進んでいくと「今は休業中」の札が。トラップか、くそ。再び橋立側キャンプ場を探す。
キャンプ場の電話番号に電話してもつながらない。だめもとで星の力GPSの検索機能を使ったら見事に見つかった。最初から使えばよかった。
ここは川べりにあるキャンプ場で、静かないいとこだ。
気のよさそうな管理人のおばちゃんに1200円払う。テントを組み立ててると、さっきのおばちゃんが来た。
宿帳と領収書を書くらしい。この川は魚がいっぱいいて釣りには良い、というミニ情報を聞く。ああ、そうなんですかあ、でも竿持ってきてないんですよわははー。と愛想よく答える。
キャンプ場にはバーベキューに来ている人たちが何人かいるものの、比較的静かだ。ときどきバイクのエンジン音が遠くから響いてくる。
買ってきておいたラーメンと肉を煮込んで食った。なんとなく日本酒も飲んだ。日本酒が効いて暗くなるまでテントの中で寝てしまった。寝に来たのか。
あたりはすっかり暗くなっており、なんとキャンプ場には誰も居なくなっていた。腹が減ったので食うものを作る。昼のラーメンの残り汁にレトルトの赤飯をぶち込み、肉の残りを入れて煮たものだ。うむ、残飯にしか見えない。だが、味はまあまあだった。
誰も居ないはずなのに、女性の声が遠くから聞こえた。幻聴だろうか、と思っていると暗闇の中に管理人のおばちゃんがいて、「おばちゃん、もう帰るから。あめ食べる?」と言って飴をくれた。私もいい年のおっさんなのだが、飴をもらってうれしかったので愛想よくお別れの挨拶をした。
これがそのときの飴だ。もらったときは暗闇でわからなかったのだが、飴二つにくわえ、なんとチョコレートが二つだ。おばちゃんありがとう。ちなみにおばちゃんとはいいつつ、もうおばあちゃんと呼んでもおかしくないくらいの人だったと思う。
さて、さびしくなったので、両親とか知り合いの女性に携帯でメールを書いた。知り合いの女性からは、「後ろになんかいるんじゃないの?」というメッセージをもらい、こわくなってきたので早々に寝ることにした。時刻は7時過ぎ。早過ぎないか。
ちょっとラジオを聞いていたのだが、
こんなときに限ってニュースでどこそこの男性が首を吊りましたみたいなのをやっていた。
やめてくれ。漫才か何かをやってくれ。
結局いいのがやってなくて、英会話教室を聞いた。
ドントハフトゥーはなになにする必要がない、ということです。
みたいな特に面白くもない内容だが、気はまぎれる。知らないうちに寝てしまっていた。
夜中の12時に目が覚めた。寒い。そしておしっこがしたい。
寒いのは防寒具の雨具にもなる上着を着てOKだ。おしっこは、トイレまで行って何故か使用中の個室が一個だけある、なんてことがあるとこわいので、キャンプ場の人には悪いが近くの草むらにした。
この寒さ、相当なものだ。そして寂しさも。上着だけでは足りない。そこで、電車に乗るときに自転車を入れる輪行袋を下半身にかけた。あとは、半そでの上着もついでにかけた。
朝だ。風邪を引いたり、森の精霊にとりつかれることもなく、無事に朝だ。
さっそく朝飯を作る。昨日の残飯の食い残し+野菜炒めセットだ。野菜炒めセットというのは袋の中にいろんな野菜が入っている、独身野郎の味方なのだ。
野菜は半分を残飯に混ぜ、半分を醤油で煮た。醤油で煮た方はまずくて、結局全部残飯に混ぜて食った。
そのあと、コンビニで買った紙コップ+インスタントコーヒーにお湯を入れ、コーヒーを飲んだ。
朝の景色を見ながら飲むコーヒーはうまい気がする。特別コーヒーが好きなわけではないのだが。
テントを片付け始めていると、高校生らしきカップルがやってきて、キャンプ場の離れたところに陣取った。時間は7時。なんでこんな早くに。
カップルが人気のないところに来る理由はひとつだ。なんとなく悔しいのでテントの片付けを思いっきりゆっくりやった。
テントもたたみ、すべてを自転車に搭載してキャンプ場を後にした。振り返ると、さっきのカップルは激しいチューの真っ最中だった。
せめて私が完全に去ってからにせんかい。
えっちらおっちら自転車をこぐ。目指すはクアパレスおがの。やあ、秩父は景色がいいなあ。とか思いながらのんびり進む。
結局、キャンプ場からクアパレスおがのまでは、山をひとつ越えることになった。当然のように自転車を降りて押す。途中、アウトドア雑誌から抜けてきたような自転車野郎が居た。
道中、中学の運動会などがやっていた。高校生の運動会の女子の部なら、なんとなく見たい気もするのだが。
流石に坂ばかりで疲れたので、キャンプ場のおばちゃんにもらったチョコレートを食う。まったく甘くない。
甘いものが甘く感じられないときってのは、すごく疲れてるときだ。インターネットでいろいろ調べたとき、たしかそう書いてあった。やばいのか。
続いて飴をなめた。これは甘い。確かに甘い。
よく見るとチョコレートは白く変色している。ああ、これは多分チョコレートが古いだけだな、きっと。
それはそれでよかったのだが、甘さがなくなるくらい古くなったチョコレートを食べても大丈夫なのか。
道中、なんだっけな、景色の達人がここを選んだとかいう景色が見れる休憩所があったので写真をとった。
うん、まあきれいだ。
到着!だが開店まではあと30分もある。早すぎだ。
なんと従業員よりも早かったようだ。若くない従業員は皆、おはようございますぅ〜と挨拶をしていく。若い従業員は営業時間外だからか、視線も合わせずに通り過ぎていく。
風呂は空いていた。中途半端に空いていた。風呂には私と、一昔前に流行ったようなリーゼントにーちゃん一人だ。
1時間も入って満足したので出てきた。ロッカーが出し入れ自由方式じゃなく、あけるたびに100円必要なので使いにくかった。他はレンタル品も充実しててまあまあ。風呂を出て早い昼飯を食うことにした。朝飯食ったのは7時前だし。
レストランは11時からだという。まだ少し時間があるようだ。
レストランにも誰も居ない。入り口のメニューを見ると変わったカツどんがあるようだ。そういえばこの近くには「わらじかつどん」というのが売りの店があったはずだな。
何はともあれビールだ。私はもう完全に、なんの躊躇もなく一人でビールの飲める男になっていた。まあ、これはその辺のおっさんは皆そうだろうと思う。
秩父の地ビールらしいのだが、何を飲み食いしてもだいたいうまいと感じる私の舌は、普段そこいらで飲むビールとの違いを見出せずにいた。確かなのはおいしいということだけだ。
そしてかつどんだ。しっかりどんぶりにふたがしめられた状態で運ばれてきた。おかしい。メニューで見たときはどんぶりからはみ出さんばかりだったのに。ふたがきっちりしまるわけがない。
わかってる。私も大人だ。メニューが理想とすれば実際に運ばれてきたものは現実だ。
このかつどん、通常の卵でとじられたかつどんとはまったく違う。二枚のカラッとしたカツがご飯の上に乗せられ、そこになんだろう、かばやきのタレっぽいのがかかっている。カツはパリパリしている。
全国に出回っているカツどんをここの方式のカツどんと入れ替えても良い、というくらいうまかった。ほんと、カツどん!という感じがする。
非常にさっぱりして、腹いっぱいで、ちょっと酔ってて、いい感じの気分でクアパレスおがのを後にする。
こっから、来るときに超えてきた山をまた超えるのだ。せっかくのさっぱり感が。でもまあ仕方ない。
牧場発見!牧場というか、牛舎というか、小屋の中で牛がもごもごやっていた。だが、牛は奥の方に居たのでこの写真には写っていない。すまない。
なんでこんなものを写真に撮ったのだろう。私は自転車をこいでる間に、「ぼーっとしてる時間」というのがあり、車とかに注意を払ったり、道の確認をしたりしているのだが、やけにリラックスしている時間がときどきある。
これはきっと、「秩父おなめ」というフレーズに心を奪われてしまったんだと思う。
あと、歩道にやけに栗のイガが落ちていた。自転車に対する試練なのか。
しかも何故かイガだけが落ちていて、中身は落ちていない。何者かが食っちゃうのだろうか。
これは!と私の心を奪う地名だ。だが、読み方はアボマチ。惜しすぎる。
何が惜しいかは、ここに住んでる人に怒られそうなのであいまいなままにしておこう。
秩父鉄道の秩父駅だ。来るときは西武秩父駅だった。少し離れているのだ。
このころ、すでに雨はぱらりぱらりと降っていたが、すぐにやむだろうと思っていた私はも少し秩父に居たいと思い、電話帳から適当なビジネスホテルを選んで予約を入れた。
予約を入れ、電話ボックスを出ると、雨はどしゃぶりになっていた。
私の最初の自転車冒険も途中で雨が降り1時間足止めを食らった。だが、この雨は、家に帰って寝たくなるほどの雨だった。
先ほどの予約をキャンセルして、自転車を折りたたむ。どうも西武線に接続するには、一駅乗って「御花畑駅」からいけるらしい。
なんというメルヘンな駅名だ。
秩父鉄道の切符は固かった。それにはさみでぱちんと穴をあけてもらう。良き時代という感じがしていいなあ。
で、おはなばたけ駅に着いたのだが、周りに花が咲き乱れていたり、少女が花を摘んでいたり、妖精が飛び交ったりはしていなかった。どうも元の名前は「大野原」だったらしい。大野原と言われれば、ああそうかもね、くらいの景色はあった。
そんでもって、西武線に無事たどりつき、練馬で降りた。秩父はどしゃぶりだったのだが、こちらは雨が降っていない。つまり練馬からさくさくっと自転車に乗れば自宅まで帰れるわけだ。
だが、なんだろう。秩父の雨が追いついてきたのか、私の運が悪いのか。
自転車をこぎ始めたとたんに降りだす雨。
別に雨宿りしようとかいう考えはなかったが、腹が減ったのでラーメン屋に入ってラーメンとギョーザを食った。出てくると雨はやんでた。
今回は淡々とした冒険だった。走った距離はたいしたことないのに、自宅に帰ってくると尻が痛くなっていた。尻がなまってるのか。
走行距離トータル30kmくらい。