ただし、熱海という言葉から想像できるような「いい旅館に泊まって温泉入ってうまいもん食ってプハー」というものではない。
そんな切りつめていることもないが、貧乏っぽい旅行だ。旅行は疲れるからいいんじゃないかなあ、と最近思う。
これは出発前夜に書いた物。
行く前の期待なんかを記録しておこうと思った。
明日、朝早く熱海の方に行く。
主な目的は「名所巡り」「どっかで風呂に入る」「海の幸っぽいのを食う」「夜の砂浜で寂しがる」だ。相変わらず目的がテキトーだが、まあそのときの気分で決めた方が気楽でいいだろう。
今回の装備は地図、ハンディGPS、雨具兼防寒具の上着、デジカメ、水着、ちっこいタオル。150円のレジャーシート、ロウソクランタン。あともちろん、折り畳み自転車だ。
ちなみにこれは、準備の際に忘れ物がないようにチェックリストにもなっている。さすが私、無駄がない。
以上。簡単だ。
さて出発。
朝5時新宿発小田原行き小田急線に乗るはずがいきなり寝過ごした。出発したのは朝5時20分。
地下鉄丸の内線で新宿まで行き、小田急線で小田原まで。地下鉄に自転車持ち込んだのも初めてだ。
小田原まで、特にこれといったこともなく到着。
小田原駅でJR東海道線に乗り換えだ。
時間は7時半ごろだったが、東海道線は結構な人だった。あっけなく熱海駅に到着。写真は駅前。
自転車を変形させる。
電車の中ではただのデカイ荷物だったのが、旅においてもっとも重要な役割を果たす頼もしいやつに変わる瞬間だ。こっから国道135を南に下る。海だ!
海沿いのちっこい公園で朝飯。コンビニで買っておいたパンとお茶だ。
なかなか美しい噴水だ。
貫一お宮の像。おー、あの有名な。と思ったが実は詳細はよく知らない。
そしてその横の「お宮の松」。普通の松だな…という程度の感じしかない。
おばちゃんが松の手入れをしていた。
噴水その2だ。ちょうど水が止まったときにシャッターを切ってしまったらしい。
ウミネコなのかカモメなのか。とにかく海の鳥がいっぱいいた。
そして熱海港に到着。
こっから初島に渡るのだ。
近くにはロープウェーで登る秘宝館があった。局部の像とかがあったりするアレだな、ということで今回は無視。
また「ふしぎな一丁目」とかいうねらい所のはっきりしない施設があった。ちょっと気になったのだが、帰りに覚えていたら行こうかなと思いつつ、結局忘れた。
船の往復切符を買い、船を待つ。フネ〜
乗船だ。自転車は再度折り畳んで袋に入れてある。
それを看板の手すりにヒモで固定した。
写真は、その手すりから海をのぞき込んだところ。
20分ほどかかるらしいので、イスに座りに行く。
前の席には女性5人組が居て、合コンのときの誰それはキモかったとか、誰それはムッツリっぽいだとかそんな話をしていた。
後ろの席ではテンションのあがったこどもが例によって「あひゃああああ!」と叫んでいた。
まあこどもは騒がしいくらいが丁度いいんだろな。聞き分けよくおとなしくしているこどもというのは結構不気味だ。
ちなみに私は昔、そんな不気味なこどもだったらしい。
結構な人だ。
初島は4キロ四方の小さい島だそうだが、満員になっちゃうんじゃないのか。
熱海があんな遠くに見えるなあ。
道中、赤潮が発生していたり、トビウオらしきやつが飛んだりしていた。
初島へようこそ!
島の人が誰も言ってくれないので、心の中で自分で言っておいた。
船を降り、自転車を変形させる。
おばちゃんが近づいてきて、「その自転車免許なくても乗れるんですか?」などと話しかけてきた。
ええ乗れますよ普通の自転車と同じですから。あははは。などと感じよく対応。
おばさんも去り、さあ行こうと思ったらチェーンが外れている。
くそ。
こんなときの為に自転車の隙間につめこんでおいた軍手(片手のみ)が役に立った。
暑い中チェーンをがちゃがちゃやって5分くらいで復帰。
軍手は油で真っ黒だ。ああ、軍手よありがとう。
完全なレジャーの島かと思ったが、普通にすんでいる人たちも結構いた。
通販番組で「送料無料!ただし一部離島を除く」などと言うが、こういうところを離島というのだろうか。
非常に坂が多いところなので自転車はあまり役にたたないらしく、全く見かけなかった。子供用の自転車が民家にあったのをみた程度。
この島で唯一自転車に乗る者、それは私だ。
美しい海。岩だらけなので泳ぐのは危険そうだが、とにかく美しい。
テトラポットに海の鳥たちが。鳥たちのフンでテトラポットはもう真っ白であった。
竜神宮。
なんか扉が開いてるのが気になる。
竜神様出てきてるんじゃないだろな。
朝11時だが、昼飯を食う。
やまさ食堂とかいうところ。磯定食を頼むとさざえの刺身がサービスでついているらしい。サービスと言われるとなぜか得した気分になる。やるな。
店に入るとかき氷を食べていた先客(家族連れ5人)に注目を浴びる。
もうその視線は、怪しいやつが万引きしないように見張っているような感じだ。
ああ、これはもしかしてあの「ヨソモンが!」という感情だろうか。いや、そもそもこの島の人たちかどうかわからないし。ま、いいか。
磯定食2000円を注文。ついでにビール。何故かところてんがついてきた。
まあ、普通にうまかった。
休憩所の近くにねこねこにゃー発見。
めちゃくちゃ近づいて写真を撮ったが、猫動ぜず。
ここらは猫をいじめるようなやつもいないんだろうな。
ちょっと怖い人魚の像。
小学校中学校がログハウス風の建物だ。
休みの日の学校…というか夏休みだったので誰も居なかった。
涼しかったのか、猫が休憩中だった。
写真はわかりにくかったのでちと拡大してみた。
海洋資料館というところにきた。
せっかく来たのに、係の人が食事中で入れなかった。
そんなことでいいのか。
島のでっかいホテルの池。高そうなホテルだなあ。
ホテルのプールから、おばさんの馬鹿笑いが聞こえてきた。
島のなんとかランドというアトラクションにて。
これはゴーカート場。人は少なかった。こんな島まできてなんでゴーカートなのか、と思うがこどもの心はグッと掴むんだろうな。
植物園。ここにも人はあまり居ない。まあなんというか地味だし。
それにしても船であんだけ居た人たちはいったいどこ行ったんだ。
非常に美しい芝生地帯が。ヤシの木の陰に入ると涼しい。
いいなあ、ここにずっといたいなあ。
木陰でゆっくりする私の黄金の左足。
七部丈のズボンにサンダルばきという格好はもう、夏の定番だ。
プールだ。
海が目の前にあるのに、わざわざプールに行く阿呆がいるのかと思ったが結構いた。私もそんな阿呆の中の一人だ。
塩水のプールで浮力が強い。
プールの中で老夫婦が見てられないくらいいちゃついており、プールの中で抱き合いながら、
「いひひひひへへへ!」
「おほほほほふふふ!」
と奇声を発していた。
ほとんどが家族連れだったが、若いお母さんたちを目の保養の対象にしたりして適当に楽しんだ。
温室があったので入ってみる。
巨大サボテンだ。
サボテンなんて気が向いたときに水やっとけば勝手に育つんじゃないのか?
バナナの木だ。残念ながらバナナはなっていない。誰かが食ったのだろうか。
この暑さを表現しようと撮った写真。なんというか、単に逆光の写真だ。
灯台だ。少なくとも形は灯台だ。
この近くにはヘリポートがあったりして、ここは島なんだと再認識することが出来た。
フェンス越しだが、テレビ電波の中継局らしい。中継局…初めてみた。
人の居ない海岸で、一人寝ている人が居た。島の人だろうか。すごく狭い砂浜の先はもう岩だらけ。
結構大きな波が来ていてド迫力であった。
写真を撮って戻りしな、海岸の木の根元に揃えて置かれた女性用のサンダルを発見。上を見るとに何かがぶら下がっているということは…なくてほっとした。
セミの抜け殻発見!ああ、こんなのここ10年以上見てないなあ。
私を休ませる為に設置されたベンチ。とにかく日陰に入ると涼しいので、クーラーが恋しくなることはなかった。
水槽に入ったイカたち。
何故かイカが泳いでるのを見るとうれしくなるなあ。前世はイカだったのだろうか。
イカの店の近くにダイバー軍団が。それはもう、50人くらいは居る。
近くに圧縮酸素小屋がある。もしかして、この島はダイビングの穴場スポットなのか。
腹のつきでたおっちゃんが多いのをみて、ダイビングってあまり運動にならないのかなあ、と思う。
スタイルのいいお姉ちゃんが居たので、少し目の保養をした。
さすがに飽きてきたので帰る。これは初島の港。
初島から熱海までの船の中、疲れていたのか私は座りながら船を漕いでいた。船に乗りながら船を漕ぐ。
船を漕ぐという表現にピンとこない人は何かで調べよう。
熱海港に戻った私は、マリンスパ熱海という健康ランドっぽいところに入った。
受付のお姉さんがかわいかったことは覚えているが、どうかわいかったかは忘れた。
プールやジャグジーというか、水着で入る風呂が充実している。
ジャグジーコーナーにトータル3時間くらいは居た。
ボディシャワーという、四方八方から圧縮水流が襲いかかるコーナーがあるのだが、ここだけはあまりのくすぐったさに逃げた。
屋上にも水着で入れる露天風呂もどきがあった。
ここでは女性の幅が男性の1.5倍程あるカップルがいちゃついており、さらにテンションのあがったこどもが乱入、奇声を発しはじめた。
今日はここに泊まる予定だったのだが、営業時間の読み違いをしていた。朝9時までやっていると思ったら、午後9時までだったのだ。えらい違い。
とりあえず出て、ファミレス(デニーズ)で晩飯を食う。
入店した私に「いらっしゃいませ!デニーズにようこそ!」の声が飛び交うが、店員の誰もこちらを見ていない。不気味な店だ。
メニューを持ってきた女店員も、「私は働いてるのにメシ食ってんじゃねえよ!」という感じの人だった。この店も長くないな。
注文した、なんとかステーキワサビつきセットはまあまあうまかった。
店を出ると、砂浜からすごい煙が上がっている。ああ、しまった熱海サンビーチで花火大会があったのだ。見逃した。
そこらに充満する煙は花火大会の余韻だったのだ。
さて、今日はどこで寝るかを考えなければならない。熱海周辺のホテルは泊まるだけで2万近くする。
野宿。
その言葉が徐々に現実のものになってきた。
だが、無駄な抵抗をしてみることにした。
幸い私には自転車がある。これでビジネスホテルが存在するところまで行くのだ。国道135を北を目指して走るのだ。
小田原まで戻れば絶対ビジネスホテルはある。
とりあえず昼見た噴水がライトアップされていたので写真を撮った。
それにしても暗い。夜だから当たり前なのだが。
せっかく健康ランドで綺麗になった体が、ものすごい量の汗で汚染されていく。それはもう、濡れたスポンジをしぼるような勢いで汗が出た。
夜景が綺麗で、それを楽しんでいる余裕が私にあったのが救いだ。
月が出ているが、妖怪でも出そうなおぼろ月夜だ。怖い。ぬらりひょんとかが出てきたらどうしようと思いながら走った。
伊豆山というところをなんとか通過し、湯河原周辺にたどりつく。
私の自転車に装備してあるライトは暗い。家の近所であれば夜中でも明るいので、あまり強力なのは必要ないだろうと思って、安いのをつけていたのだ。
これ以上進むのは危険だ。
湯河原は駅で言うと熱海から東京方向へ一つもどったところだ。一応調べてみたが、泊まれるところはなかった。
野宿という言葉が現実になった。とりあえず駅の場所を確認しにいく。
途中で越前屋があった。代官と一緒に悪巧みするのは越後屋だったが、越前屋は…まあどうでもいいか。
星の力GPSの威力。こんなに暗いのに駅に迷わずたどり着けた。
駅にはガラの悪そうな人たちがたむろしていたので、ここで夜を過ごすのはイヤだ。
よし、ここからあまり離れないところで夜を過ごそう。怖さを紛らわすために知り合いに携帯メールを打つ。
写真は駅の裏手の階段。
海浜公園というところに向かう。GPSによると1km以内だ。公園ってくらいだから街灯の一つもあってもいいのに、真っ暗だ。
今、誰かに脅かされたら心臓が止まるな…と思いつつ向かう。
24時間すかいらーくだ。公園もすぐ近く。
これで逃げ道も確保出来た。
いざとなったらコーヒー一杯で一泊作戦だ。
海浜公園にて。
暗い中光る、ロウソクランタン。夜の0時。
原付で一人で来て海を眺めている兄ちゃんや、自転車で野宿している人が居た。最初、自転車野宿の近くに陣取っていたのだが、彼が電話で話を始めてどうにもうるさいので移動した。
しずかなところではちょっとした話し声が気になるのだなあ。
人の通る側に自転車を置き、その影にレジャーシートを引いてインスタント寝床作り。防寒の上着を着てもうばっちり。
ここに来るまでに辺りを一周して、たちの悪そうな集団からは距離を置いてある。そのたちの悪そうな集団が花火を始めた。
星がちゃんと見える。
私は星座と言えばオリオン座くらいしか知らない。しかもあれは確か冬の星座だ。もっとちゃんと勉強しとけばよかった。
ラジオを聴く。
今のオールナイトニッポンは福山雅治がやってるのか。
別れたお父さんが養育費を払ってくれない、などといった割とディープな相談を福山雅治が高三の女の子から受けていた。
最高に不気味なテトラポッド。うなむじ…いや、ふなむしが時々走り回っていた。
3時までうとうとしたりラジオを聴いたりして過ごす。
海水浴の為に夜中に到着した人たちが辺りを探検しだして落ち着かないので移動。まあ、向こうからしてみれば、こんな夜中に暗がりに誰かが居るってだけで恐怖なんだろなあ。退治されなくてよかった。
でも怖いのはこっちも同じ。夜無防備なのは本当に怖いものだ。
3時半、駅に着く。さすがにタムロってる人々も居ない。
自販機で暖かいカップスープを飲む。
始発は4:40だ。しばしベンチで横になる。
そういえば今まで駅のベンチで横になることもなかった。
眠気は割とすぐやってくる。
夜中の駅の自動改札は、誰もいないのに一定時間ごとに「ぴぽ!」と音を出している。何か意味があるのか。
切符の自販機は、裏で小銭をざらざらとかき回しているような音がずっと聞こえていた。パチンコ屋で玉ががらがら鳴っているのに似ている。
もうそろそろ4時なので自転車を折り畳んでおく。乗車準備は完了だ。
駅の敷地内の像を写真に撮ったが、暗くて何がなんだかわからない。
駅の人が来て、改札をあけ、切符販売機を始動させる。
本日の一番乗り、それは私だ。
駅を貨物列車が走り抜けていく。貨物列車見るのも久しぶりかなあ。
4:30ごろ、人が来始める。みんな早起きだ。
そしてあとは、小田原に到着し、小田急に乗り換え。もちろん席はドア横をゲット。
小田急ではあまりの眠さに、こっくりこっくりしては、ドア横のパイプ手すりに額を何度もぶつけ、車内にかきん、という心地よい音を響かせていた。
その後、よだれをたらしたりしながら新宿へ。
新宿に着く頃には、あなたがたはこんな早朝になにしにいくですか?といいたくなるほど人が居た。私もその仲間だ。
新宿から自転車で自宅まで帰る。途中でマクドのソーセージエッグマフィンセットを食った。
今回もまあ、だいたい目的を果たした。そして一つ重要なことがわかった。
野宿は疲れるということだ。
やってからわかるのと、やらずにわかるのとではその理解の仕方は全く違う。
だが、少なくとも野宿が疲れるってことはやらずに理解してもいいんじゃないかな…と思った。