ブロンプトン旅行記 鳴門海峡

歩道を歩く馬とすれ違った私は、その興奮を抑えられずにいた。

 

落ち着け。こんなときは…「うま」を使ったダジャレを考えるんだ。うまがうまれた、うま…うーん、うま…だめだ一つしか出てこない。

 

私は軽く眉を寄せ、宇宙の神秘に想いをはせる哲学者のような面持ちで自転車をこいでいた。うま…うーん、案外出てこないものだなあ。

 

私が自分のダジャレ生成能力に嘆いていると、「さぬき市」という標識が目に付いた。

 

さぬきって、さぬきうどんのさぬきか!

 

さぬきとたぬきは一文字違いだからだろうか、私には生地からうどんを打つたぬきの姿が連想された。誤ったイメージ。いや、少なくともうどんの部分は合ってるはずだ。

 

半分合ってりゃ上出来じゃあないか。
それはともかく、さぬきうどんは是非食って行こう。

 

レモン・ハートだ!

 

何のことだと言う人も居るかもしれないが、酒に関するうんちくを語るマンガでレモン・ハートというのがあるのだ。ダメおやじを描いてた人のマンガだ。

 

ダメおやじを知らない人はお父さんに聞いてみよう。「誰がダメおやじだと!」と怒られないように注意しよう。

 

それにしても私は何故、まるで四国じゃないものにこんなに関心を持つのか。

 

著作権とかを気にしたりしながら、その場を去った。

 

都市部というか、ビルが割りといっぱいある地帯を抜け、山が見える見晴らしのいい場所まできた。

 

いい山だなあ。

 

といいつつ、別に悪い山というのがあるわけではない。なんとなくいい景色に過剰に反応する、「冒険モード」に切り替わった私の独り言だ。

 

なだらかな上り坂を、自転車を降りて押すほどでもないので乗ったまま登る。たちまち汗がだくだくと湧いてくる。道中飲んだお茶とかスポーツ飲料とかが汗と化しているのだ。さらば元飲み物たち。

 

上り坂の中ほど、ぽつんと「セルフうどん」の店があった。

 

どういうことだ、セルフとは。

 

セルフタイマーのセルフだろうか。席に座って一定時間経つと天井からできたてのうどんがばさっと落ちてくる、そんなうどん。

 

いや、無理やりおかしなことを考えるのはよそう。セルフサービスのうどん屋ということだろう。

 

問題はどこからセルフサービスなのかということだ。

 

ちなみに今は朝の10時前。朝飯の時間と言っていいだろう。そんな時間なのに駐車場はほぼ満車状態だ。

 

朝っぱらから車でうどんを食いに来る四国の人。四国の人のうどんに対する思いは、私のそれとはレベルが違うに違いない。

 

たぶん、うどんを打つところからセルフサービスなんだと思う。どうしよう、とりあえずどっか本屋に入って打ち方を勉強してからにしようか。

 

40%くらいは冗談だが、あとの60%は本気でそんなことを考えていた。「セルフうどん」という耳慣れない言葉に私はビビりまくっていたのだ。小心者だ。
店に入って「セルフうどん一つ」と注文したら笑われるだろうか。メニュー上の分類名「丼類」「麺類」をそのまま「じゃあ、ボク丼類ひとつ」「あたし麺類」みたいに注文するぐらい変なことかも知れない。

 

私にはそういう知識先行型な頭でっかちなとこがある。

 

セルフうどんの正面に木で出来たベンチと日よけがあったので休憩した。

 

セルフうどんから人が出てくるタイミングで中を覗き込んだが、特に手がかりは得られず、私は再び自転車をこぎだした。上り坂が終わって、下りに入る。

 

自転車にまたがったまま、下り坂の勢いに身を任せて、からころからころと坂を下った。私の愛車、どっか行っちゃえ号、と以前名づけた気がするこの自転車も結構ガタが来ているのだ。からころからころ。

 

海が見えた。このへんも瀬戸内海って言うんだろうか。海の潮くさいにおいがただよってきて、私のDNAに刻まれた「母なる地の記憶」を刺激する。というか、海水浴場を連想した。


 

たぶん、四国の人はうどん以外はやる気が出ないんだろう。かえるのへそなどという、どっちかと言えば食欲が減退しそうなキーワードを店名にしたラーメン屋があった。

 

「うしのせあぶら」とか「ぶたのあぶらみ」とかの方がまだましだ。


 

そして再び海。昼飯は海にまつわるものにしようかうどんにしようかめちゃめちゃ悩む。

 

そう、私の悩みなんてものはせいぜいその程度のものなのだ。
しかし、あちこちで見かけるセルフうどんに私は未だ踏み込めないでいた。


 

実はずっと探してて、やっと見つけたコインランドリー。

 

ガソリンスタンドの跡地と思われる場所がそのまんまコインランドリーになっていた。プリペイド方式で、二度と利用することはないと思ったのに、100円でICカードを買わされた。ちくしょう。

 

帽子だとか上着が汗だくで、しかも替えがなかったのでどうしても洗濯したかったのだ。

 

JRのSUICAカード(大阪ではイコカカードだ)みたいに、カードにお金をチャージして洗濯機に差し込む。ICカードから料金が差し引かれるという寸法だ。だが少なくとも今の私にとってはハイテクの無駄遣いという気がした。

 

このとき、何故か私は洗剤代120円をケチって買わなかった。なんでそんな中途半端なケチり方をしたのか。多分、ICカード代100円取られたのがよっぽど悔しかったんだろう。

 

がらんごろんとまわる洗濯機を眺めながら、お茶を飲んだり、ぼーっとしたり、ぼーっとしたり、あるいはぼーっとしたりした。

 

ICカードの機械のとこには「ドロボーさんへ。この機械は売上金を毎日回収しているので盗もうとしてもムダです。壊さないでね」という注意書きがしてあった。

 

20分ほどして洗濯機が止まる。次に乾燥機にモノを移し変えて、ぶん回す。もう飽きたので、というかそういう問題ではないが、200円分回さないと乾きませんと書いてあるところを100円分しか回さなかった。

 

数分後、やっぱり書いてあることは正確で、洗濯物のいくつかは乾いてなかった。

 

けど、もうめんどくさかったので乾いてないものは自転車のリアキャリア(後ろの荷台のことだ!)にくくりつけて走りながら乾かすことにした。前にもやったことがあるし、これで充分だ。

 

出発してしばらくすると、猪熊さん家が左手にあることを示す標識を見かけた。強そうな名前だ。


 

天気が悪いのはうすうすわかっていたが、ついに雨が降ってきた。洗濯した途端にこの仕打ちだ。右手に讃岐白鳥駅があることを示す標識があって、丁度いいからこのへんで電車に乗ろうかなと思った。

 

とりあえず電車の時間を見ようと思って駅の中に入る。


 

にゃーっ!

 

猫もあまやどり中だった。

 

私は猫語で「雨ですなあ」と言うと、この猫は「うん」としか答えなかったので会話はそれで終了した。嘘だが。


 

しばらく見ていると背中を向けられた。猫が見つめる先に何かがあるのかと思ったが、特に何もない。

 

あったとしても人間には見えない何かなんだろう。


 

中に入り込んで、ワンマン列車の利用方法をラーニングした。わかりやすく言うと説明を読んだということだ。

 

バスっぽいルールが採用されているらしい。

 

まだ雨も降っているし、こっから乗ることにした。ホームで電車を待つ。

 

私の乗るべき電車が来た。反対側のホームに。反対側のホームには陸橋を上らなければいけない。折りたたんだ自転車他、大荷物を抱えている私は間に合わないと思ってあきらめた。

 

しかし、電車はおよそ3分ほど停車しており、充分間に合ったはずなのだが、目の前で電車のドアをぷしゅーって閉められたら恥ずかしいと思って、出発まで見送った。

 

電車を降りてきた人に対しては、反対側の電車を待っているような顔をしておいた。そのうち反対側の電車も着てしまい、居場所を失った私は雨もゆるくなったことだし、自転車でもう少し進むことにした。

 

あいかわらずセルフうどんのかんばんがあちこちにある。そんな中、本格手打ちっぽいうどん屋を見つけた。


 

やっているそうだ。

 

やってますという表現には、単純に「うどん屋の営業をやってます」という意味以外の、何か魔力のようなものが感じられた。その魔力が「うどん屋の営業以外の何かおかしなことをやっています」と私に訴えかけた。

 

決して私の感じ方がおかしいということではない。

 

で、ナニをヤッているのかな。うへへ。

 

そんなことを想像しながら、またしても入店出来ずじまいでさらに道を進んだ。

 

今日のゴール、鳴門まで27km。徳島も射程距離だ。

 

尻は痛いが、足のパワーはまだまだ残っている。時速10km弱で行けばだいたい3時間で到着する計算だ。だが、道中上り坂だらけだったり、目的地が鳴門の奥の方だったりするとこの計算はあっというまに崩れる。

 

少なくとも暗くなるまでには着きたいものだ。


 

それはそうと、まだ昼飯を食っていない。昼飯一つ食うのに躊躇しすぎだ。

 

とんかつ・てんぷら定食などがある店に「やっじょります」という表現があった。それは本当に日常で使われている言葉なのだろうか。

 

ここも結構混んでてスルーした。

 

結局、しばらく進んだとこに「駅うどん」があって、そこで食うことにした。ちゃんとイスに座って喰える、普通のうどん屋だ。

 

このうどん屋は夫婦でやっているらしく、他に客は居なかった。高校生くらいの息子らしき若い男が席で宿題をしていた。

 

ちょうど高校野球のTV中継で地元の高校が試合をしているらしく、かなり熱の入った応援をしていた。

 

私はメニューに「セルフうどん」が無いのを確認すると「肉うどん」を注文した。

 

シンプルな肉うどん。しかし、うどんはさすがにさぬきというだけあって、モチモチした独特の食感だった。うまい。

 

普段そこいらで喰ってるうどんとは別物だ。

 

その土地の名物をわざわざ食うと、特にどうということはなくてなあんだみたいな感じになるものだが、このうどんは違っていた。

 

さぬきうどんチェーン店が全国展開するような話を聞いた覚えがあるが、あれはその後どうなったのだろう。

 

私は汁まで全部すすって腹いっぱいになるといい気分で勘定を支払った。よし、ゴールまで進むエネルギーと気合が補給できたぜ。待っていやがれ鳴門。

 

店を出ると、外はまたいつのまにか雨が激しく降っていた。

 

<続く>
<続き>
雨などに負けない。私の強く固い意志の前では雨など全く問題にならない!

 

とそんなことをかけらも思わない私は、さっさと電車に乗ることを決意した。駅前の駅うどんでよかった。

 

自転車を折りたたんで駅に入ると土砂流により線路は復旧工事に数日かかる見込みとのことだ。

 

高松から松山間が通れないということなんだろか。高松は今日自転車で出発した場所だが、松山ってどこだ?

 

電車は軽く1時間くらいは来なさそうなので地図を出して調べてみる。愛媛県の方らしい。全く逆方向か。とりあえず今回の旅は愛媛には行かないほうがいいかも知れないな。

 

ベンチに座り、雨が水溜りに波紋を作りながら降っているのを見ていたら眠くなってきた。あなたはだんだん眠くな〜る。これはあれだ、目の前で糸の先につけた5円玉をぶらぶらさせられると催眠術にかかるというような現象なのだ。

 

そんな漫画に出てくるような催眠術が…果たして…今…どき…あるの…か…。

 

約30分後、私は目を覚ました。寒かった。うむ、これじゃあ風邪を引いてしまう。私は体をぶんぶん振り回す「めちゃめちゃ体操」をやった。そんなん体操でもなんでもねーよと言われようがやった。

 

徐々に雨が弱くなり、ついにやんだような感じになった。つまりまだちょっとだけ降っているのだが、我慢すれば進めそうだ。

 

私は折りたたんだ自転車を再度乗車モードにして、今日の目的地、鳴門に向かって自転車をこぎ始めた。

 

空はどんより。そりゃあそうだ、雨が降ってるんだから。

 

さっきコインランドリーで洗濯して、半渇きのTシャツの末路が気になる。ぬれてはいけないと思って、かばんの中に詰め込んであるのだ。

 

半渇きの洗濯物の破滅的な悪臭を想像した。すっぱいようなツーンとしたような、使い古したぞうきんのような、不快以外なにもない、あの匂い。

 

それが今、私のかばんの中に在る。今はまだ洗濯直後だからおとなしいものの、いずれ悪臭の塊となって、かばんの中の善良な洗濯物たちを牙にかけるわけだ。

 

逃げ惑う善良な洗濯物。半渇きの悪臭ブレスにその身を焼かれ、自らも悪臭の塊となる着替えたち。やめてくれ、助けてくれ。

 

洗濯物の悲劇はさておき、広い川に差し掛かる。そして、その川は海に注ぎ込んでいた。

 

川は海につながるものと、子どもの頃から理解していた。ただ、頭で理解していた。

 

そして今、この景色を見て、私は体で理解するわけだ。川は海につながっているということを。今日はうどんがおいしいということも体で理解したし、めちゃ勉強になったよなあ。


 

四国屋という、でっかい名前の店を発見した。食い物屋だった。

 

そこに水車があり、ざぱぱんざぱぱんと音を立てながら回っている。動いているものになんとなく引き寄せられる私だった。夜の電灯に蛾が吸い寄せられるのに似ている。

 

回っているなあ。ぐるぐるぐるぐる。この回転のエネルギーは何に使ってるのかなあ。ぐるぐるぐるぐる。まさか電気仕掛けでまわしてるんじゃないだろうな。ぐるぐるぐる。

 

目が回ってきたので出発することにした。

 

やがて、「うずしおロマンティック街道」という場所にたどり着く。この語感、聞いた覚えがあるぞ。そうだ、日光の「日光ロマンティック街道」だ。あれは車にとってはロマンティックだったが、私にとってはまるでロマンティックじゃないひどい道だった。

 

しかも今回のこれは、進むべき道路をわざわざ左に曲がっていかなければならないのだ。雨も降っているし、ここは無視しよう。

 

ロマンティック街道の奥にある、タケコプターのオブジェが気になった。ぐるぐる回っている。だめだ。またいつ雨が降ってくるともわからない。いくらぐるぐる回っててもだめなのだ。

 

しばらく進むと、また例のタケコプターがあった。そして、「うずしおロマンティック街道」の標識も。

 

つまり、ロマンティック街道を進めば、いずれこの道に戻ってきたということなのだ。なんだちくしょう、損した。それならそうとなんで書いといてくれないんだ。ロマンティック街道通りたかったのに。


 

くやしかったが気をとりなおしてテトラポット付近をがさごそしているフナムシを写真にとってやろうと思った。

 

けど、案外あいつらは素早く、私がカメラつきケータイを構えると一瞬のうちにしゅしゅっと居なくなってしまうのだ。

 

海のゴキブリ、フナムシ。さらばだ。

 

私はフナムシにいやな感じの通り名をつけ、先を急いだ。


 

歩道の真ん中で寝ている犬が居た。四国は馬が歩道を歩いていたり、犬が道の真ん中で寝てたりという豪快なところだ。

 

犬もきっと、歩道通るやつなんざいやしねえよと思ってるんだろう。たしかにこのへんは歩いて来るようなとこじゃあないな。


 

鳴門だ!ついに鳴門に来たのだ!

 

本当はしばらく前に鳴門に入ってたのだが、それを示す写真がなかなか撮れなくて競艇の写真になったというわけだ。

 

鳴門といえば、えー、なんだろう。うずしお? ラーメンに入ってるぐるぐるとは何か関係があるんだろうか。


 

鳴門に心を奪われていると、激しい雨が降ってきた。

 

粒が大きい。いててて。

 

タイミングの悪いことに、ここいらは雨宿りできる場所もない。風邪を引く前に、私のテンションが下がる前に、なんとか雨宿りスペースを見つけなければ。

 

5分ほどして、屋根つきのバス停を見つけ、そこに逃げ込んだ。
雨は斜めに降っていて、ぬれない為に私は微妙に位置調整をしたりした。雨という大自然にほんろうされる私。

 

雨が降って出かけられないのはイヤだ。旅先で雨が降るのもイヤだが、大自然にはかなわねえなあ、ははは、みたいな素直に負けを認められる感じがする。

 

一発でノックアウトされたけど、やるなあ、おまえ、強いなあと相手の力を認められるようなそんな感じ。そんなことを思うのも私が「旅モード」に入ってるからなのか。

 

負けを認めた私に、美しい太陽の光が照りつける。ぴかぁ!

 

「如何に無力を感じようとも、人は決して意味無き存在ではない」と、どっかで聞いた言葉が思い出された。

 

今、調べてみたら「幻想水滸伝」というゲームの言葉だった。もっとこう、有名な人の言葉とかを思い出したらどうなんだ。私の心のコアな部分はマンガとかゲームに影響されすぎだ。

 

まずは雨がやんだことを喜んだ。

 

自転車よ、ゴールはもうすぐだからがんばってくれ。

 

「なんでえ、まだまだ走れるのによ!」

 

自転車はぎしぎしと音を立てながら言った。自転車の声を担当しているのは私だ。

 

「無理しやがって…」

 

私は自転車のチェーンに油を差し、ペダルをこぎ始めた。自転車は大丈夫でも私の体力がそろそろ怪しい。

 

さっきまで海沿いを走っていたと思ったら、今度は山の中だ。景色はいい。

 

ここで念のため、鳴門の健康ランドに営業時間と場所を聞いてみた。今日は休みですとか言われたら洒落にならないからな。

 

24時間営業していて、場所は徳島空港のすぐ近くだということだ。徳島空港ってどこだろう。

 

地図を開いて調べる。持っているのは関西版の地図だが、ぎりぎり徳島の上の方は載っている。「上」ってのは地図を見たときの上、つまり北ってことだ。
場所はわかった。

 

私の今のスピード…時速8キロくらいだろうか。このペースでもおよそ1時間くらいあれば到着できそうな感じだ。がんばってくれ、私の足よ。

 

大きな橋に到達する。川の名前は忘れた。今、調べたら「旧吉野川」だということだ。

 

もう少しだ。

 

ここで、ペットボトルのお茶を買って飲んだ。おしっこがしたくなった。しまった飲むんじゃなかった。


 

そして、今回の目的地、遊湯館に到着したのだった。

 

まだまだ明るい時間帯に到着できて良かった。うんうん。

 

チェックイン。

 

フロントでチェックインしようとすると、フロントの40代くらいのおっさんが常連客となにやら世間話をしていた。いらっしゃいませも言わず、「現金払いでよろしいか?」と言う。

 

その言い方がめちゃめちゃ憎たらしくて、私は腹を立てた。「いらっしゃいませ、現金払いでよろしいでしょうかお客様」だ、この老け顔が!

 

なんなんだろう。常連客との世間話を中断された形になり、こんなタイミングで来てんじゃねーよクソ客が!という感じだ。

 

しかもその人が支配人っぽい。なんだと!

 

あまりに腹が立ったのでここに悪口を書いておく。

 

徳島の遊湯館の支配人らしきおっさんのばーか!ばーか!

 

強調文字にして、しかも赤くしたことでちょっとすっきりした。チェックインした瞬間から、テンションが下がった私は、この健康ランドには二度と来ないと心に誓った。
<続く>
<続き>

 

更衣室のロッカーで服を脱ぎ、まずは風呂だ。結構汗もかいている。

 

ふむ、風呂の種類はまあ普通だ。バイブラ、寝湯、ひのき湯、サウナなどなど。チェックインのときに腹を立てた関係で、若干偉そうな態度になる私。

 

まずは湯をかぶり、バイブラ風呂につかる。

 

ふふ。

 

ふふふふ。

 

風呂につかることにより、私のテンションは急激にあがっていった。HPとMPが回復だ。MPはもともとないが。

 

サウナや寝湯など、一通り楽しむ。その間、タオルで股間を隠すような無粋なことはせず、完全開放状態だ。

 

ぱおーんぱおーん。私は小さな象さんをぶらぶらさせて、あちこちを練り歩いた。しばらくしてから、体と頭を洗って風呂を出た。いい気分。

 

風呂を出たらすることは決まっている。宴会場に向かうのだ。別に宴会をするわけではなく、そこが飯を食える場所になっている大広間だというわけだ。

 

刺身定食とビールを注文する。健康ランドで風呂上りにビール。なんて楽しいんだ。しばらくして、金髪の女性がビールを持ってきてくれた。和服で金髪で日本人の女性だ。若干違和感があるが、にっこりしながら持ってきてくれたので問題ない。

 

ビールを飲む。

 

乾いた砂漠に突如として現れる小さな水溜り。それは徐々に大きさを増し、やがてオアシスとなった。いつのまにか美しい草木も生えているではないか。動物達が水を飲みに来る。象もいる。ぱおーんぱおーん。

 

そんなビジュアルが私の心に浮かぶ。さっきの風呂場でのぱおーんがかぶさってしまっているが、全てのものに感謝したい。さっきの人の金髪にも感謝したい。壇上でカラオケを歌っているオヤジはやかましかったが、ついでに感謝したい。

 

感謝しまくっていると刺身定食が来た。四国・鳴門の海の幸、味あわせてもらおう。

 

あー。うめーなー。冷静に言ってしまうと、よその地方の海の幸との違いはよくわからない。けど、なんというかこの鳴門という場所が精神的なスパイスとなって、格別の味わいをもたらすわけだ。

 

まぐろ、はまち、甘エビ。なんかの煮物にごはん、みそ汁。おいしくいただいて宴会場を後にした。

 

仮眠室に向かう。ここは仮眠室も喫煙OKだそうで、猛烈なヤニ臭さだった。横になれるソファーはヤニで黄色くなっている。元喫煙者の私は、ヤニの匂いに敏感なのだ。百害あるけど一利もあるタバコだが、飯の時だけは近くで吸って欲しくないなあ。

 

いや、中途半端に物分りのいい人のような言い方は良そう。私の近くでタバコを吸うなと。どっかちっこい箱の中に入って吸ってろと。

 

自分が吸っていたときのことはすっかり棚にあげてしまった私だった。

 

寝た。

 

夜中に起きて風呂に入ってまた寝た。明け方に起きてまた風呂に行く。

 

ものすごい雷の音が聞こえた。更衣室で知らないおっちゃんが「めちゃめちゃ雨が降っている」という意味のことを私に言った。多分。

 

私が「うわあ、それは大変だあ」と言ったら、うむうむとうなづいていたので多分合ってるはずだ。雷が鳴り響くほどの雨か。

 

しょうがない。

 

私が旅で覚えた考え方、「しょうがない」。なんと力強い言葉か。前向きな言葉でもある。心は後ろ向きで体は前向きと言ったほうがいいだろうか、とにかくイヤイヤでも進むという良い言葉だ。

 

準備を整え、着替えてチェックアウトだ。フロントには昨日のオヤジは居なかった。居なくていい。フロントの若い男性が対応してくれて、なんとなく領収書を貰った。

 

チェックアウト後、私の背後でフロントの若い男性が常連客のおっさんに、うちの娘の婿にならんか、いや、僕結婚してるんで、みたいな話をしていた。おっさんの横には娘本人も居て、なんか不思議な感じだった。

 

外に出ると雷はおさまっていて、雨もやんでいた。ついている。

 

私は荷物を自転車にセットし、帽子をかぶって自転車にまたがった。

 

今日の目的地は、高知だ。もう天気悪いし、これで帰ろうかとも思ったのだが、高知で坂本竜馬と会ってみようと思ったのだった。

 

まずは北の方向に戻り、電車に乗って高知に行くとしよう。


 

おっきい川だ。例の旧吉野川だ。

 

山に雲がかかってなんだか珍しい感じ。ちょいと自転車をとめ、私は川を見ながら、昨日飲み残したペットボトルのお茶を飲み干した。
鳴門駅に到着。こっから北に行けばうずしおだったかな、海のぐるぐるが見れるはずなのだが、今回はパスだ。今度はいつ来れるのかわからないが、まあよしとしよう。

 

高知に行くにはどうしたらいいのか調べ始める。いったん徳島まで行けば高知行きの電車があるみたいだ。うん、それでいこう。

 

雨の降る地域に突入したのか、単に雨が降ってきたのか。とにかく雨だった。電車のガラス越しに写真をとっても、何も写らなかった。


 

徳島から高知方面に向かう。3両編成の電車で、なぜか私の居る車両はほぼ全員が学生だ。他の一般の人たちは別車両にいる。

 

なんだ、なんかしきたりでもあるのか。特に注意とかもされなかったので、なんとなくそうなったということなんだろう。線路にそって流れている吉野川は泥水の色になっていてものすごい勢いで流れていた。


 

そして山にかかる雲。高知も雨が降っているんだろうか。


 

だんだん退屈になってきた。徳島付近ではいっぱい乗ってた人も、ほとんど居なくなってしまった。

 

で、電車のドアを写してみた。

 

なんかバスっぽくて新鮮な感じだ。


 

飽きてきて落ち着きがなくなる私。電車の中を手当たり次第に写してみる。私の車両には、人が2,3人いるだけだ。


 

そして、私の退屈を若干吹きとばす駅名「小歩危」こぼけと読む。

 

ちょっと嬉しくなってきた。


 

こぼけ!こぼけ!

 

興奮して写真をとる私。ふふふ、楽しいなあ。

 

なんとその次に大歩危、読み方は「おおぼけ」という駅に着いた。

 

こぼけ!おおぼけ!わー。


 

そんな風に盛り上がったのはいいのだが、ますます川の氾濫はひどくなった。もう川が波立って真っ白だ。

 

とにかく無事に高知に着きますように。


 

着いた! およそ3時間くらいはかかっただろうか。ついに高知。語尾が「ぜよ」の高知だ。


 

で、高知駅前は普通に都会だった。つまらない。

 

住んでる人には便利でいいんだと思うが、つまらない。
とりあえず今日泊まる場所を確保しよう。駅前の地図にビジネスホテルマップが書いてあり、駅から近そうなとこに電話した。泊まれるという。
とりあえずホテルに行こう。


 

くるりと振り返って高知駅を写す。

 

ホテルへは近いので、自転車はかついだまま行った。けど、軽く100m以上はあったので、乗っていけばいいじゃないかと思ったのだが後の祭りだった。


 

道中、チンチン電車が走っていた。路面電車などという無粋な言い方は嫌いだ。チンチン電車!チンチン電車!

 

私のボルテージが上昇していく。


 

そしてようやく、今日の宿にたどりついた。

 

雨は容赦なく降っていた。

 

冒険しようぜ(四国編)3へ続く


徳島県 鳴門周辺の宿情報

 

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