ちょっとしょんぼりぎみの三色丼を食べ、網走方面へと車で戻る。
途中、滝があって人だかりがしていたのでトイレ休憩をかねて寄ってみる。オシンコシンの滝。多分、上流のほうでオシンとコシンが物凄い勢いで口から水を吐いて人々を困らせたとかそういう伝説の滝じゃないだろうか。知らないが。
皆、写真を撮るスポットに飢えていて、そこらじゅうで記念撮影大会が始まっていた。
何故だろう、これだけ人が居ると特に滝を見ても嬉しくないのだ。
あまのじゃくなのかも知れない。ただ、周囲に誰も居ない滝を見たときに物凄く嬉しいかと聞かれると、そうでもないような気もする。要するに滝に対してあまり興味がないのか。
滝だー。
私は歩いて数分でたどり着ける頂上まで上り、滝を撮って早々に駐車場まで戻ってきた。Mえだ氏は、何を血迷ったのか、みやげ物屋でこんぶをひと束買っていた。
冷静に考えると特におかしくないのだが、むき出しの昆布を片手にみやげ物屋から出てきたMえだ氏はちょっと変な感じがしていた。
出発。
しばらく走ると放牧地で、馬が放し飼いにされていた。
馬が放し飼いにされている放牧地だと! それはまさに私の心の中にある北海道である。一本道で車の数も少ない道路で、私は車を脇に止めた。馬だ!馬だ!
競馬界で有名な馬が骨休めに来ているのかも知れないとMえだ氏に言ったら、有名な馬はこんなところで放し飼いにされてないとのことだった。Mえだ氏は競馬のこととなるとかなり詳しいギャンブラーなのだった。
私はというと、ボックス買いがどういう買い方なのかいまいちわかっていない男である。ボックス席という偉い人用の席で馬券を買うことなんじゃないの?と勝手に思っている。
はるか向こうに馬の群れがいる!行ってみよう。
馬だらけ。
馬は皆、尻尾をくいっくいっと振り回していて体にたかるハエを追い払っていた。
こんだけ馬がいるのに、管理している人間が近くに居ない。真の放牧なのである。馬もこんだけ広ければ気持ちよかろう。
いいものを見た。
もう宿に帰ってもいいと思ったが、まだ2時ごろだったので近くの「能取岬」へ行くことにした。読み方はたしか、ノットロミサキ。北海道独特の変な読み方をする地名だ。
ここもまた、広い広い草原で、私の心の中にある北海道を具現化したような場所だった。
広いなあ。
頻尿ぎみのMえだ氏は、ここでもトイレに行く。Mえだ氏は鳥のような男で、食ったり飲んだりすると即効で排出するのだ。そして、ここのトイレは風が強いからという理由でシャッターがついてた。使うときはシャッターを降ろさないと、突風がトイレの中で舞って竜巻が発生するらしい。
トイレの中は、しばらくトイレ掃除していなさそうなきついアンモニアの臭いがしていて、近寄っただけで目が痛くなった。
ここでも、写真のイスに座りながらMえだ氏と何か話をした気がするのだが、内容が思い出せない。どうせまたシモネタだろう。私たちはあたりに人が居ないと、すぐにシモネタを始めるバカ大人なのであった。
午後4時ごろ、早々に網走に戻り、レンタカーを返す。
今日の宿に向かうのだ。宿は北海ホテルという、北海道を代表したかのような大きな名前のホテルである。せめて名前ぐらいは大きくいってみようぜという意気込みが感じられる。
チェックインして、部屋に入る。部屋はもろにビジネスホテルであった。水はけが悪い「大浴場」で汗を流し、晩飯へのスタンバイオーケーだ。
浴衣装着!ごー!
かにがどーん!
食事は1Fの食堂で指定のテーブルについて食う。テーブルの一つには、人間の顔ほどの大きさのカニが置いてあって笑った。ミュータントじゃないのかというほどの大きさである。
そして、そのテーブルは我々の席だった。しかもこの日、カニコースは我々だけだったようで、もっさりした男二人のテーブルは、他のどのテーブルよりも豪華な食事が並んでいたのである。
や、やつらがカニの男たちらしいぞ…そんなひそひそ話が周囲から聞こえてきたような気がした。
これが基本膳で、他にカニの活き作りなんかがあった。活き作りのカニは暴れまわったため、ホテルのおばちゃんに取り押さえられ、早々に鉄砲汁にされた。
鉄砲汁にはたっぷりとカニミソが入っていたとMえだ氏は言っていたが、私にはおいしいということしかわからなかった。
これは、カニのしゃぶしゃぶである。べろんと大きく垂れ下がるかに肉を湯の中につけて半生状態で食う。
口の中がかに肉で満たされる幸せ。
他にも、カニの天ぷらがあって、カニのいろんな面を見ることが出来た。
我々は至福のひと時を過ごした。カニはやっぱりおいしい。
いや、おいしいなどという月並みな言葉では表現してはいけない。我々のテンションを大幅にあげる何かが、カニにはあった。見た目の、笑ってしまうほどのインパクトや、顔が緩んでしまうほどの量。
北海道のしょぼいホテルの食堂で、確かに我々は幸せがそこに存在しているのを感じていたのである。
そしてデザートはメロンだ。
赤肉メロンだか、夕張メロンだか知らないが、とにかく色のついた甘いメロン。惜しみない拍手を送りたい。
ごちそうさま。
我々は、今回の旅最大の楽しみだった宿での食事に大いに満足し、自室に戻ったのであった。
部屋に戻ってからは、酒盛りが始まる。Mえだ氏は500ml入りのビールを2本飲んでもけろっとしていたが、私は350mlのチューハイ一缶でグロッキーだった。いつの間にか、酒の耐性に差がついてしまったようである。
だが、よっぱらい具合はお互いそんなに変わらない。飲みながら、この歳で男二人の旅行をするとホモ疑惑が持ち上がるので気をつけなければならないという話題になった。そうか、Mえだ氏は色々考えているのだな。
いつまでも私だけが子供なのかも知れなかった。
そのうち眠くなっていつのまにか眠り、朝になる。
旅先の朝というのは、少しでも時間を有効に使いたくて早起きしたりするものだろう。だが、我々は違っていた。飛行機の予約の都合で、今日は3時ごろにはもう飛行機に乗らなければならない。結構混んでたのだ。使える時間は昼過ぎぐらいまでなので、そこいらで時間をつぶす程度しか出来ないのだ。
とりあえず朝風呂に入って、朝飯を食う。朝飯はバイキング形式で、どれもこれも特に北海道を思わせるものではなかった。私は無理をして一通りの料理を食ってみたので間違いない。まあ、旅館の朝飯というのは、どこも質素なものと相場は決まっているのである。
チェックアウトして、北海ホテルを出た。部屋はしょぼいけど晩飯はかなりの大満足だったよ。ありがとう。
とりあえず網走駅まで戻ってきた。
電車の時間やらバスの時間を調べて、今日の予定を立てる。で、今日の予定は網走刑務所を見に行くということに決まった。まあ、無難なところだ。
網走刑務所へは、バスで行くことに決まったが待ち時間が20分ほど発生したので周囲をうろうろする。
北海道限定、キリンガラナを発見。物凄い味だったときのため、用心してお茶も一緒に買う。
飲んでみるとチェリーコークっぽい味だった。
そのうち、バスが来たので乗り込む。
道中、「番外地ラーメン」を発見。
網走の番外地ってどこのことなのかMえだ氏に聞いたが知らんとのことだった。
高倉健とかがよく居たところなんじゃないの?とおぼろげに思う。
そのうち、学校のような建物を赤いレンガでぐるりと覆ったような施設が見える。
きっとあれが網走刑務所だと思っていると、バスは刑務所を通り過ぎて別の場所へ。どうやら、ホンモノの刑務所じゃなく、刑務所資料館みたいなところが目的地らしい。
到着し、敷地内に入るとお休み処「番外地」がどーんと現れる。い、いいのか、番外地で休憩しちゃっても。
高倉健に怒られないか。
囚人の像なんかもあって、重労働させられてたんだなという感じが伝わってくる。入場料1100円を払って入る。
何故かカブトムシが居た。このカブトムシは罪を犯して服役中です、などといったとんちの効いた解説も特に無い。
カブトムシおいときゃ誰か見るだろという安直な考えが感じられた。
ニポポ人形である。大小あってガラスの中に入ってた。
私は嬉しくなって、Mえだ氏にニポポ人形があるぞ!と興奮気味に言ったが、ふうん何それと言われてしまった。何故知らないのだ!私は驚愕した。
昔、北海道連続殺人事件 オホーツクに消ゆ、という面白い推理ゲームがあって、そこにこのニポポ人形が出てくるのだ。おかげで私は子供の頃からニポポ人形という単語を知っていた。
そして、思えばそんなマイナーなゲームをMえだ氏が知っている確率の方が低いなと思った。なぜ私は、こいつなら絶対知ってると思い込んでいたのだろう。しばらくしてわかった。
オホーツクに消ゆ以前に同じゲームメーカーが出していたゲーム「ポートピア連続殺人事件」の犯人の名前が、Mえだ氏の名前と同じだったからだ。つまり、前作の犯人のくせになんで知らないんだよ!という不条理な考えが私の中で当然のように成立していたというわけだ。
まあいいか。
私たちは意外に巨大な博物館をまわり始めた。
宿泊情報
北海ホテル(クリックすると楽天トラベルのページにジャンプします) 網走駅周辺
網走駅から歩いて5分でアクセスはいい。今回泊まった洋室はもろにビジネスホテルという感じで、風呂もあまり広くなかった。しかし、食事(かに尽くし)が最高だった。かに以外にもいくつかコースがあるようだ。