あまりの暑さに、猫もこんな格好になっていた8月。体温、いや、ちょっと熱があるくらいの体温と同じぐらいの気温である。
どっかに出かけたい。
実家にでも帰って、どっか行った気になってみようかと思ったが、ふと、大それた事を思いついた。
北海道にスープカレーを食いに行こう。
最近、ほとんど交流の無かったMえだ氏に連絡を取る。久しぶりすぎて、私が名乗っても誰だかわからなかったということだ。
で、わりとすんなり北海道に行こうということになった。北海道というところは、思いつきで行くところではない。何ヶ月か前からちゃんと計画していくところだ。でないと、飛行機代とか宿代がめちゃめちゃ高くつくのだ。
今回、我々がしたように、1週間前に行くことを決めて適当に切符を手配して出発するなどというのは、金が有り余っている金持ちか、大ばか者のすることである。当然、我々は後者だ。
早起きして、羽田空港へ。
飛行機に乗るのは、これが生まれて5回目くらいだ。多分、そんなもんだ。
機体にムシキングが書かれている飛行機を見て、もっとこう、リアルに飛行機に虫がたかって汁を吸ってるような絵にすればいいのにと思った。
飛行機は、新幹線なんかに乗るのと違ってものものしい。
切符購入後、チェックインとかいうよくわかんないことをしなければならないし、乗り込む前にレントゲンみたいなやつで荷物を透視してチェックされる。金属の類を全部ポケットから出して小さなかごに入れ、ベルトコンベアの上に乗せるのだ。
今回も、別室に連れて行かれたりはしないだろうか。いや、私は別にやばいものを持ち込んでいる訳ではない。
警察官の「お前らはみんな泥棒だ」みたいな視線で見られると、悪いことをしてなくても緊張するだろう?それと同じなのだ。
何かドラマのようなことが起こったり、麻薬犬とかが出てきたりすることもなく、すんなり通れた。ほっとした。
乗り込んでしばらくすると飛行機は出発する。ごごごご、とエンジンがかかり滑走路を記憶できないくらいの複雑さでぐねぐね曲がって走り回り、ジェットエンジンの音が聞こえたかと思うと急加速。
シートに押し付けられる感じをしばらく味わっていると、飛行機が飛ぶ。今飛んでんだなあ。すげえなあ。
東京は曇りだったが、飛行機が雲の上に出るとかんかん照りだ。雲の上はいつもかんかん照りなのかと思うと不思議な感じ。
雲の上は、もう一つの世界のようで、ふんわりした草原っぽい。向こうのほうに富士山の頭だけが突き出ていた。やっぱ富士山は高いんだな。
で、あっという間に北海道だ。さすが飛行機である。広大な田んぼが見えたなあと思ったら着陸だ。
地面が近づいてきて、ずずうんと軽いショック。逆噴射による急減速。
着いた。
しかし、まだ実感がわかない。
空港に出て、道路標識に札幌という文字を見つけ、札幌って書いてあるくらいだから、北海道なんだと思ったりした。
単なる文字でしか北海道を感じられないというのは悲しいことだ。
何はともあれ、北海道にやってきたのだ。
何か北海道の地名が書いてあるものを撮りたくて、全く乗る予定のないバスの時刻表を写す。
苫小牧に室蘭に登別温泉か。うん、北海道北海道。
Mえだ氏と合流して、札幌駅へ。駅周辺でまずは飯を食うのだ。
札幌駅周辺は、結構な都会だ。
ほとんどの信号機が縦に3つ並ぶ方式なのが少しだけ気になった。積雪対策なんだろうか。
適当に歩いていると、どんどん人通りが少なくなってきてしまった。飯を食うような店もなさそうだったので、結局駅に戻った。駅ビルで昼食。
札幌JR駅ビルのカレー研究所にわざわざ並んでまで入店。念願のスープカレーを食べる。本場の、北海道のスープカレーだ。しかし、写真を撮り忘れた。
味のしみてない玉ねぎがごろりと入っているのが気になったが、まあまあおいしかった。私も若くないせいか、あまりのおいしさに感激して泣いてしまうようなこともない。普通にご馳走様である。
スープカレーを食うことも今回の旅の目的だったはずだが、結局最終日までスープカレーのことは忘れっぱなしだった。これが、北海道での最後のスープカレーになってしまったのである。
さて、食事のあと、札幌周辺を見て回ることにした。タワーだとかなんとかが色々あるらしいので登ってみることにしよう。
「おのぼりさん」という言葉は高いところに登るからおのぼりさんなのか、上り電車で東京に行くからおのぼりさんなのか、どうなのだという話をMえだ氏とした。Mえだ氏から何か画期的な説が出たような気がするのだが、内容を忘れた。
という訳で、札幌JR駅ビルにおのぼりさんしてみた。
都会だなあ。
ちなみにのぼるのに900円かかった。これから登る人に教えよう。普通に買うと900円だが、3枚つづりの回数券を買うと3枚で1600円。つまり、二人以上ならば回数券を買ったほうが安いのである!
ただ、二人がかりで使っちゃだめというカラクリがあるかも知れないので気をつけてほしい。私たちはそれぞれフツーに900円払った。
展望台は360度ガラス張りで、札幌が見渡せた。どうやら札幌は碁盤の目のようになっているみたいで、Mえだ氏の故郷の京都に似ているから嬉しいだろうと聞いたが、特に面白い反応はなかった。
おのぼりさんらしく、写真を取りまくる。うーん、都会はつまらない。早く大自然のあふれるところに行きたいが、今日のところは無理なのである。
窓の真下を見下ろすと、テレビ塔や赤レンガの方向を示す情報が駐車場の屋根に書かれていた。さすが北海道、やることが豪快だ。
記念メダル販売機もあった。メダルを購入して、メダルにがっこんがっこんと名前を彫るという、昔ときどきみかけたやつである。
子供の頃はこれをやるのがめちゃめちゃ楽しみで、けど、もってかえったメダルはいつのまにか失くしてしまって、大掃除のときにさびだらけのメダルが見つかって、結局捨てたりした記憶がある。
そして、このJRタワーで一番楽しかったのがこの丸見え便所。横との仕切りはあるが、前が全部ガラス張りなのだ。
こ、こんな高い場所で私はちんちん丸出しになってしまっている!などと思うと、ちょっと大物になったような気がするというものだ。
JRタワーを降りて移動。札幌の名所っぽいところを回る計画である。
というか、現地で決めたので単なる思い付きである。
カニ料理の店ではカニがわさわさと動いていた。
あー、あれ時計台じゃないの?時計ついてるし。なーんて、あんなしょぼい時計台ないよなー。
と笑いながら言ってたら、本当の時計台だった。
熱心に写真を撮ってる人には悪いことを言ってしまった。修学旅行か何かで来て、楽しく写真を撮ってる学生にも悪いことを言った。ごめんなさい。
せめてもの償いに、巨大に見えるようにアオリで時計台を撮っておいた。
次は、テレビ塔だ。
天気が悪くなって、暗黒の塔のように写っているが、テレビ電波を周囲に届けるという大事な塔なのである。塔のふもとにはきれいな公園があって、人々が大勢のんびりしていた。
都会の中にあるオアシスに人々が集中しているような、東京でもよく見かける光景である。
私の中の想像上の北海道がそのまま実在しているようなところに行きたい。広大な草原に牛や馬が放し飼いにされていて、ハイジやペーターが牛の乳を直飲みしているような場所。
あるいは、見渡す限りの草原で、地平線が丸く見えるようなだだっ広くて何もないけど、「この木何の木気になる木」が生えてて、空気がおいしい場所。
そんな場所に行きたい。しかし、これは外人が、「着物を着てちょんまげをしている人々が暮らすところに行きたい」と行っているのと同じで、そんな場所は実在しないのかも知れない。
テレビ塔のふもとでは、スープカレーソフトという、スープカレー人気に便乗した観光客しか食わないような悪乗りアイスが売っていた。
テレビ塔も有料で、1Fで金を払ってエレベータで登っていく。エレベータの中では案内役のお姉さんが案内をしてくれる。鼻の高いお姉さんで、私は解説される景色は一切見ず、お姉さんの鼻ばかりをしげしげと見ていた。失礼な話である。
テレビ塔からの景色はまあまあ良かったが、さっきJRタワーに登ったばかりなので感激も半減だ。同じような景色だった。
あそこが雪祭り予定地じゃないか!という場所も見た。雪祭りの季節にはこの塔もにぎわうんだろう。
テレビ塔は結構古くて、大阪の通天閣にノリが似ている。通天閣にはビリケンさんという子供の神様がいるが、北海道のテレビ塔にはこんなのがいた。
最初は、唐辛子をモチーフにしたこじつけ名物キャラだと思っていた。しかし、解説などをよく読むと、テレビ塔を擬人化したこじつけ名物キャラだったのである。
名前は「テレビ父さん」という、「テレビ塔」とかけたんだなということがわかるオヤジギャグ的ネーミングである。なんと、歌まであってCDが1000円で発売されてた。
塔を降りて、次は赤レンガ。
うん、赤いレンガだなあ…。
感動は薄かった。ここに向かう途中、お母さんと小さな子供の二人連れが居て、子供がレトルトスープカレーを袋にぎっしり詰めて持っていたことの方に感激したくらいだ。
名所よりも、誰も見向きもしないような、単なる北海道の日常に興味が湧く気がする。
ちょっと近寄ってみた。中にも入れるみたいだが、写真だけ撮ってパスした。
そんな赤レンガの前では、白衣を着た人が変な劇というか、パフォーマンスをしてた。
変な宗教だったのかもしれない。
私は遠巻きに写真を撮り、逃げた。
だいたい名所を見終わって一息ついていると、Mえだ氏が「今年は3回合コンに行った」という話をしだした。私は感心しながら聞いてた。
そのうちの一回が、行ってみたら、違う種族の人が出てきて凄くつらい飲み会になってしまったらしい。こちらは草食動物なのに、相手は肉食動物だったような感じで、頭からバリボリと食われてしまったそうだ。
へー。
もう札幌はだいたい見たような気になったので小樽に移動。小樽では、天狗山ロープウェイに乗っておのぼりさんした後、いよいよ小樽の海の幸を食い荒らすのである。