3月になった。
カレンダー上では一応春なのだがまだまだ寒い。
この寒さを逆手に取った何かはないだろうかと考えた挙句、キャンプを張って寒いとこで寝ることを思いついた。後は外で肉を焼いて食うのもやろう。よし。
果たしてそれが楽しいのかどうかはやったことがないのでわからない。
いちおう寝袋を用意しないとさすがに凍えるだろうということで、買いに行く。赤い派手な寝袋でかなり小さくたためるのだ。
適温-1度、限界-9度と注意書きに書いてあった。-9度がどんな寒さかはよくわからないがきっと充分だろう。
さて、行き先は奥多摩だ。駅を降りてすぐんとこにキャンプ場があることはわかっている。今回は徒歩で行くことにした。
電車乗って2時間ちょい、途中青梅駅でおりて食料を買い込む。肉とかサバとかパックご飯とか野菜とかを買った。そんなに食えるのかと言うくらい買った。
いいのだ。買う量が少なすぎた場合は取り返しがつかないが、多すぎた場合はなんとでもなるのだ。うん。
青梅駅周辺は昔の映画の看板があちこちに飾ってあった。石原裕次郎とかが出てたころのものらしい。あんまり昔過ぎてぴんとこなかった。で、あんがいあっさり奥多摩駅についた。まあ電車乗ってるだけだし。
なんだか和風の奥多摩駅。空模様が怪しいのが気になる。
駅周辺地図を見るとキャンプ場までの道のりが書いてあった。歩いて5分ほど、キャンプ場に到着だ。氷川キャンプ場というところだ。
受付でキャンプ料?を払った。炭も買った。受付のおっちゃんは目の下にクマのある恐ろしげな顔のおっちゃんだった。クマといってものそのそ動き回るほうのクマではないので気をつけてほしい。というか顔にそんなものがついているおっさんがいたら私も楽しい。
一応フォローしておくと、人相はまああれだが、口調は丁寧な人だった。
ここは河原にテントを張ることができるらしい。わりと傾斜のきつい坂を下りて河原に出る。
誰もいない。いい感じだ。
さっそくテントを張り始める。風がきつい。
びゅごろおああああああ!と風が吹いている。大丈夫か、テント飛ばされちゃうんじゃないか。
苦労しながらもなんとかテントを張った。いつものことだが、最低限の箇所のみ固定してある。風対策に杭の上に重そうな石をおいといた。
テント完成!
さて次にやることは飯を食うことだ。まわりの景色をみて楽しむとかはそのあとだ。私は飢えているのだ。
肉や魚や絶対そんなに食えないと思うほどの食料がある。まずは火をおこさなければ。
今回は驚くべきことに一発で炭に火がついたのでやり方を記録しておこう。
まず穴を掘る。
んで、穴の周りに大き目の岩を並べる。並べるというか埋め込む。
新聞をまるめて球状にしたものをいれる。
炭を縦にならべる。次にその上に炭を横に並べる。
新聞に火をつけて待つ
こうしてみると特にコツのようなものも見当たらない。さては一発で火がついたのはまぐれだったか。
火にあたってみる。あったかい。寒い中やる焚き火はあったかいなぁ。まああったかいのはいいのだが腹が減っている。網を上に乗せ、肉とか魚とかを並べた。
あっという間にやける肉や魚。煙がもくもくもく!したたりおちる油に引火して炎はMAX強度に達していた。まってくれ。まだパック入りのご飯が茹で上がっていないのだ。
肉や魚はこげ始めていた。これはもう食うしかあるまい。ビールものみはじめたりしてみた。
寒い中、河原で肉や魚を焼きながら酒を飲む。
肉も魚もビールさえもいつもと味が違う。おいおいなんで今日はこんなにうまいんだ。それはきっといつもとは違う場所で食っているからだ。そんな言い方は見もフタもないが。
誰にも気を使わず、自分のしたいまま過ごす。ああ、これだ。私がいつも求めているもの。とりあえず今回は、河原でなんか焼いて食う、そして酒も飲む、それが求めていたものということにしよう。
酔っ払った。腹もふくれた。
片付けてテントの中に入る。ちょっと横になりたかった。本能最優先。
とんびが空を飛んでいた。テントの中身を確認するかのように低空で飛んできて、なんだ中に人間はいってるのか、みたいな感じで去っていった。留守にしていたら住みつかれてしまったかも知れない。それは言いすぎか。
寝袋を出して下半身だけ入ってみた。あったかい。寝そべりながらインスタントコーヒーを作った。まあお湯入れただけだ。
コーヒーを飲みながらピーナツをぽりぽり食う。怠惰な生活。幸せだ。
だんだん眠くなってきた。テントのフタというか、入り口んとこを閉めて横になる。風も強くなってきた。うとうとして気づくともう夕方だった。
暗くなってきている。まだあまり腹は減ってないが、他にすることもないので晩飯の準備を始めた。
水を汲みにいこうと水場に行くと、近くににいくつくらいだろう、ハタチくらいの男女の集団と引率らしい数人が居た。キャンプファイヤーをやるらしく、なにやら準備をしていた。
修学旅行だろうか。それにしては年齢層がいまいち高すぎる。まあ、なんでもいいか。
テントに戻って飯の支度をしていると家族4人連れがリュックを背負って河原を歩いていた。お母さんらしき人が駅はどっちですかねぇ〜と聞いてきたので、坂のぼってあっちの方向ですようと答える。
お父さんお母さん息子に娘という構成だ。子供たちはもう高校生くらいのようだ。なかなかの仲良し家族らしい。特に会話もなく、仲良し家族は去っていった。
少しして、トレパン姿のめがねをかけたおっさんが通りがかった。この河原、テントの杭ささりますかねぇ〜と聞いてきた。私は素直にささりませんねぇ〜と答えた。
おっさんは私のテントの後方10mくらいのとこにテントを張り始めた。しばらくしてまたこちらに来て、初心者なんで教えてくださいーとかテント触ってみていいですかぁとか言い始めたのでちょっと危険を感じ、冷たい態度を通すことに決めた。
おっさんはあっちに行った。これでいい。私は一人になりたくて来ているのだ。多分。まあ、これが若くてきれいなおねーちゃんだったらまた違うだろうが、そんな話はきっとない。
昼に食べた残りを焼いて晩飯を食った。食材が大量に残った。そういえば最近、おなかが腫れがちだ。もっとストレートに言うと太りがちだ。にもかかわらず食う量はかなり減っている。これはあれか、真のおっさんになりつつあるということか。
水場周辺の集団はキャンプファイアー中だった。先生っぽいひとがギターを弾き、それにあわせて他の人が歌う。なんだか歌わされている感じだった。舌打ちが聞こえてきそうだった。なんか悪いことでもして罰を受けてるんだろうか。
先生のうち一人はギターばかりか太鼓まで叩きはじめた。
うるさかった。たちの悪い集団だ。
私は暗がりの中、燃える炭を近くで見つけた手ごろな鉄の棒でつっついて遊び始めた。
外は寒い。でも目の前の炭はあったかい。離れるとさっきの集団のギターの音は聞こえなくなるのだが、太鼓の音が変にあたりに反響してごぉぉぉわぁぁぁんぐぅぉおおんと不気味な音に聞こえた。何かおかしなものが召喚されませんように。
徐々に暗がりで火に当たっている自分がなんだか楽しく思えてきた。今回は携帯電話を持ってきていない。時計の機能を持っている何かが全くない。時間がわからない。
当時の私の体内時計ではおそらく9時ごろだったはずだ。なんの根拠もないけど。
とりあえず火の回りを片付けてテントにはいった。寝袋に入り、ちっこいろうそくランタンに火をつける。
あいかわらず太鼓はうるさかった。その分、夜の怖さみたいなのも半減していてよかったのかもしれない。
星が見えるかどうか見てみた。見えた。でも、どれが何の星なのかはよくわからない。オリオン座だけはわかった。
寝た。
夜中何度か目を覚ました。おしっこがしたかった。でもトイレまでの道のりは遠いし、なんか怖かったので近くの岩の陰でした。ごめん。
テントの外が明るくなり、朝になったのがわかったが私はそのまま寝ていた。いい加減にしろというくらい寝た。
体内時計では朝の9時。というか、太陽の角度でなんとなくそんな時間じゃないかなぁという頃、私は起きた。
顔を洗う。水が冷たい。歯を磨く。水が冷たい。冷たいのだが、まだなんとなく半分寝てるような感じだ。
テントをたたみ、残った食材をできる限り料理して朝飯を食った。朝飯のついでに残ったビールを飲んだ。
どうにか食い終えたが、ビールが効いていてふらふらだ。これで河原を歩くと石につまづいてしまう。
まあ、単にちょっとゆっくりしたかったわけだ。30分くらいぽーっとした後、私はしぶしぶキャンプ場出口に向かった。河原と出口にある急な坂で息切れを起こしたりしながら私はキャンプ場を後にしたのだ。
私はその後もしぶしぶ奥多摩駅に向かい、電車に乗ったら即寝て帰ってきた。今回はもう、だらだらしてきたとしかいいようのない話だが、まあその、この辺で日記を終わる。