もうすっかり涼しくなり、秋がそろそろきたと感じられる10月、私は遅い夏休みをゲットした。
土日あわせて4日間だ。本当は豪快に1週間くらいの休みがほしいところだが、まあぜいたくはいうまい。
今回は、なあんとなく星空が見たいなあと思った。とりあえず東北方面に行こうという漠然とした思いはあった。
なお、タイトルからわかるように、結果として東北にはたどりつけなかった。
一日目。まずは散髪しにいったり、こまごまとした用事を片付けた。これは心置きなく旅に出るために必要なのだ。
二日目。寝過ごした。起きたら昼で、二度寝したら夕方になっていた。
三日目。ようやく出発。朝7時に家を出た。
到着したのは茨城県日立。実際には常磐線勝田駅というところで降りた。このまま常磐線に乗ってれば東北に突入できたのだが、まあここいらで降りてあとは自転車で進んでみようというわけだ。朝9時。
駅を出て、自転車で走り出すと小雨が降っていた。私の最大の敵、雨。
ベストコンディションじゃないってことには慣れている。けど、雨だけは、雨だけは許してくれ。あああ。
と思いながらも自転車をこいでいると回転寿司屋があったので入ることにした。
ジャンボたまご、ねぎとろ、いか、えんがわ、えんがわ、えんがわ、と全体のバランスをあまり考慮せずに皿をとる。皿を取るというか人が居ないので板前さん?に注文して握ってもらうのだ。まあ、おいしかった。
外に出ると、空はどんより曇ったままだが、雨はやんでいた。これは幸先がいい。
回転寿司屋の裏手は薬屋、100円ショップ、食料品店、おもちゃ屋が共有駐車場を囲んでずらりと並んでいる。
一つの駐車場に店がたくさんてのはいい考えだなあ。考えた人はかしこいなあ。
かしこい、かしこい、と思いながらトイレを借りた。
薬屋でお尻が痛くなったときにぬる薬、早い話が痔の薬の類を探したが、見つからなかった。
痔の薬ありますかあ、と聞くのも恥ずかしかったのでやめた。代わりに汗かいたときに使うとさっぱりする、メントールのぬれティッシュみたいのを買った。これはシリがダメージを受けてるときに使うと稲妻が走る代わりに、多分消毒されるという有用なアイテムなのだ。きっと肌には良くない。
店員のおばちゃんはやけににこにこしていた。愛想がいいな。
さあ、出発だ。ふと下を見ると、チャックが全開だった。
さっきの薬屋のおばちゃんの笑顔の意味とかはあまり考えないことにした。
よし、今回も頼むぞ相棒。
行き先はいまだはっきりしていないが、とにかく海を見に行こう。
海を見てどうするか。
ああ、海だなあ、と思うのだ。
歩道の段差をがたん、と乗り越えたとき、後輪がずびょろろろろと鳴った。
まさか、またパンクなのか!
ついこないだ九十九里でパンクを直してもらったばかりのような気がするが、いや、あれはもうかれこれ半年前だ。
パンク修理セットは持ってきていない。なんて学習しない男なのだ私は。
まあ、そもそもパンク修理のやり方もよくわからない。
幸い、まださっきの100円ショップからさほど離れていない。30分くらい歩けば戻れるはずだ。そこにたしかパンク修理セットがあった。
あとなんだっけな、タイヤからチューブをひっぱりだすのに自転車屋のおっさんがマイナスドライバーを使ってた気がするから、それも買おう。
無事、さっきのとこにたどりつく。パンク修理セットと、ドライバー(先っちょを取り替えるとボルトも締められるやつ)、空気入れを買った。これが全部100円なのか。すばらしい時代だ。
店から少しはなれ、人気のないとこで作業にとりかかる。まずはタイヤをはずすのだ。
だが、どうにも外れない。マイナスドライバーは素人には無理なのか。手が真っ黒になった。
1時間ほどであきらめ、自転車を押して歩き出した。
パンク修理セットと空気入れは見せ場がなかった。
自転車を押して、海の方向にぺたぺたと歩いた。
まかり間違って自転車屋を発見したりしないかと気をつけていたが、特に発見できなかった。
相棒である自転車がパンクしてしまってどうしようという気持ちと、今回もまた試練がやってきやがったというわくわく感が入り混じった気持ちで、ひたちなんとか公園という海際の遊園地っぽいとこに来た。
遊園地の北側に巨大なホームセンターの看板が見えた。「ホンダ」というホームセンターらしい。聞いたことはないが。
30分くらい歩いてたどり着く。
相棒、ここでお前をなおしてやれるかも知れない。
待っててくれ。
本当に巨大なホームセンターで、資材コーナーやら、ペットコーナーやら、アウトドアコーナーやらがあった。その一角に自転車関連のコーナー。
パンクの友、という不吉な名前の商品が目に付いた。パンク修理セットなのだが、透明な箱の中になんという名前なのか知らないが、タイヤをぐりっとはずすためのプラスチックの道具が入っている。
それだ!求めていたのはそれだ!
値段は500円くらいだった。
さらにタイヤチューブが350円と意外に安かったので買う。チューブを取り替えるには車輪をがこっとはずさないといけないと思うのだが、ぱっと見、そう簡単には外れそうもない。
まあ、もしかしたら役に立つかもぐらいの気持ちで買った。
そろそろ夕方近くなってしまったようで、寒くなってきた。時間のたつのは早いなあ。
ホームセンターからちょい離れた場所で、私は再度作業を開始した。
パンクの友に入っていた「パンク修理の仕方」という紙を見ながらタイヤ外し、つまり、タイヤのゴムのとこを金属部分の外側にべろっと出すことに挑戦した。
タイヤの空気を抜き…、すでに抜けてるな、プラスチックの器具をさしこんで、ぐいっと…。あれ、うまくいかないな。ぐいっと。ええい、ぐいっと。
何回かの試行錯誤の末、ばぎょっというちょっと怖い音がして、タイヤは外れた。おお!さすがパンクの友だけのことはある!
次はタイヤの中からチューブを引っ張り出す…と、これも苦労しながらなんとか引っ張りだした。
そして、パンクの場所を見つける、と。ど、どうやって?
よく読むと、水につけて泡が出たところがパンク箇所です。サイクリング時にはツバをぬって確認しましょう、と書いてあった。
チューブ全体にツバをつけるわけじゃないだろな…。そもそもそんなにツバは出ない。のどが渇いてしまう。
そうだ、少し空気を入れて、だいたいのアタリをつけるのだ。空気入れで空気を入れ、チューブをぎゅっと握る。どこからか空気が抜けているのだが、近くをダンプカーがどっかんどっかん通っているせいで、空気の抜ける音は聞き取れない。
それでもなんとか探り当てた。穴は3箇所。これは重症だ。
チューブは良く見ると、ひび割れができたりしていた。そうか、もうチューブ自体がだめなのかも知れないな。でもやっぱり車輪は外せなさそうなのでチューブ交換は無理っぽい。とにかく穴をふさぐのだ。
サンドペーパーで穴の周囲を平らにしてから、ゴムのりというねばねばを塗り、最後にゴムのシールを貼ればいいらしい。
穴をふさぎ、空気を入れた。あたりはすっかり暗くなっていた。
相棒、なおってよかったな!
相棒は、ああ、心配かけたな、とは返事しなかったがとにかく良かった。
自転車に乗り、こぐ。うむ、大丈夫そうだ。
もう完全に夜だ。時刻は夕方6時だが、さて、どうするか。
しばらくして、再度、後輪からずびょろろろろという音。
相棒!なおってなかったのか!無理しやがって…
というか、私の修理がどうもずさんだったらしく、傷口が開いてしまったようだ。
月が出ていた。
不気味なおぼろ月夜だった。
去年、熱海で野宿したときもたしかおぼろ月夜だったな。今回は野宿したりすると凍死してしまいそうなのでビジネスホテルでも探すとしよう。
東海村というとこについた。なんだっけな、なんだか良くないイメージがあったようななかったような。
まあ、看板も歓迎してくれているので過去のことは忘れよう。
夜中にぺたぺたと自転車を押して歩く男。それは私だ。
ビジネスホテルがへんぴなとこにあったことを考え、道中みっけたコンビニで弁当やらパンやらを買った。
そのコンビニは近所のおっさんらの溜まり場になっていて、カウンター横でおっさんらがわいわい話をしていた。
私が店を出ると、おっさん集団から若いのが一人出てきて私の自転車の後輪を指差し、「コレ、ナクナッチャッタヨ!」と言った。日本人ではないらしい。
そう、パンクして空気がなくなっちゃったんだよ、と思いながら私は「ええ」とだけ言い、先を急いだ。
ああああっ、あんなところに人の顔が!!
暗闇を撮って、PCに取り込み後、明るさ補正をしたよくわからない写真だ。まぎゃあああ!想像力をいろいろ膨らませて怖がって楽しもう。
さて、その後、なんとかビジネスホテルを発見した。こんなとこに何のビジネスで来るんだと言いたいような場所に立っていたが、ここはありがたく利用させてもらおう。
実は、ビジネスホテルに折りたたみ自転車を持ち込んで、部屋の中でパンク修理をしようと思っていた。が。
朝になってしまった。ぐっすり寝すぎた。
チェックアウトまで時間がない。仕方ない、外でやろう。
窓を開けると、いい景色。偶然泊まったホテルの窓から、こんな景色が見れるなんて得したなあ。
350円で買ったチューブをなんとなく袋から出してみた。
そして、持ち込んだ自転車を見てふと思った。
後輪は二点で固定されてて、片側は変速機なんかがごちゃごちゃついてて外せそうにない。けど、もう片側はスタンドがついてるくらいで工具があれば外せそうだ。
そして、チューブ交換は、片側さえ外せばできるのではないかと。
そこに気づくとはさすが私だ。しかしもうちょっと早い目に気づいてもいいんじゃないか。
何はともあれ、それを試そう。まずは工具がいる。どこかで入手しなければ。
今日は昨日と違いいい天気だ。
昨日と同じく、ぺたぺたと自転車を押して歩く。晴れてる中を歩くのは気持ちがいい。
たとえ自転車がパンクしていたとしても。
原子力科学館というのを発見。そうか、そういえば東海村は原子力発電所がらみでなんかあったような気がするな。
入り口ではツンツン頭の御茶ノ水博士?がぐるぐる回っていた。
しばらく歩き、発見したのが100円ショップだった。もう100円ショップに助けられっぱなし。ありがとう100円ショップ。負けるな100円ショップ。100円ショップは私の心に永遠に生き続けるのだ。
とにかくそこで、スパナを買った。これは車輪の片側を外すのに必要な工具なのだ。サイズも測って幅を紙に書いてある。15mmのがぴったりくるようだ。
スパナだけ買うと、スパナで人を殺す気じゃないだろなみたいなふうに思われるといやなので、バターボール(飴)を一緒に買った。
バターボールを食いながらスパナで人を、と思われる可能性もあったが、そこは妥協した。
例によって人気のないところに行って作業開始だ。
まず、タイヤのゴムの部分を外して、チューブをひっぱりだす。この手順はだいぶ慣れてきた。
そしてさっきのスパナで車輪の片側を外す。チューブはあっけなく取れた。
新しいチューブにつけかえ、タイヤを元に戻して空気を入れる。
いけてる!
今度こそ本当になおったな、相棒!
ありがとよ!と相棒は言わなかったが、まあなおってよかった。
見ると、美しい花が道端に咲いていた。
ああ、こんな花を見る余裕もなかったんだなあ。
でもこれからは、こういう見過ごしがちなものを見まくってやるぞ。
非常にこぎれいな東海駅。
こぎれいはいいのだが、駅の周りにはジャスコ、眼鏡屋、眼鏡屋だ。なんで眼鏡屋が2軒もあるんだ。
私のために海の幸屋とか山の幸屋とか、なんというか、うまそうな食い物がありそうな店を用意しとけと思った。
そんなことを考えていてバチがあたったのか、再び後輪からずびょろろろと音がした。
なんだと!
人気のないとこまで行ってチューブを引っ張り出してみると、再びパンクしていた。
どうも、タイヤにチューブを押し込むときにねじれみたいなのができていて、まあ早い話が、私の修理が適当だったためにパンクしたらしい。
まだゴムのりと修理シールは残っている。こいつでパンク穴をふさいで、今度はチューブがねじれたりしないようにちゃんと気をつけた。
今度こそ、と思いながら出発した。相棒、何度もすまないな。
ごみ処理場だ。広い広いところにあるごみ処理場。その余熱とかを利用して健康ランドでも作ってほしいものだ。
余熱をどうやって利用するのかはよくわからない。
お城だ!今、検索してみたら「真崎城」というお城らしい。
お城を見に行きたいなあと思っていると、どうも後輪の空気が少なくなってきているような気がした。まさかな。ははは。
30分ぐらいして、川に水鳥がいて写真をとろうとしたときにはもう水鳥は逃げていて、単にフェンスごしの小さな川の写真をとってしまった私は、後輪の空気が確実に減っていることを確認していた。
くっ、パンク修理は奥が深い。素人には無理なのか!
空気が抜けても再度空気入れで空気を入れればまた30分くらいは走れるようだ。まずは最悪の事態を考えて、最寄の駅まで行こう。
最寄り駅まで約4km、道中で何度か空気を入れなおしたが、入れなおす間隔は徐々に短くなっていき、駅にたどりつくころには空気を入れたそばから空気が抜けるという、なんというか、パンクした状態になっていた。
到着したのは「佐和駅」。周りには何にもない。
ちかくの空き地で茶色いのと黒いのがもぞもぞしてるなと思ったら猫だった。気持ちよさそうに日向ぼっこをしていた。
心が和んだ。そして、ふと思った。
私はインスタントラーメンを作るとき、わざわざ「作り方」のとこを読んだりしないで、スープの元とか具とかを全部ぶち込んでお湯を入れて食う。
いつだったか、誰かにスープの元はお湯入れて3分たってから入れるんだよと注意されたことがあった。どっちでも味に違いはないんじゃないかと思って、今でもわざわざ作り方通りに作ったことはない。
それが悪いのではないか。
パンクの友の説明書きに書いてあることをざーっと見ててパンク修理をした。それはつまり、ちゃんと守っていないということだ。
読み直してみた。
すっ飛ばしている手順が3,4個ある。このせいか。
公園に入って、タイヤを外す。
空気がもれているのは、パンク修理をした部分だ。
パンク修理用のシールを外し、説明書きのとおりに修理をした。
途中、地面にぼこぼこあいている直径1cmくらいの穴に自転車のバルブの部品をおっことしそうになりながらも修理した。
この穴はあれかな、セミが地中からもぞもぞ出てきたときにあいた穴かな。結構深そうだ。
とにかく説明書きのとおりに修理した。これでだめだったら、私にはパンク修理はこの先一生無理だというくらい丁寧にやった。
そして、その後自転車は空気が抜けたりすることもなかった。
当たり前だけど大事なことをまた一つ学んだ気がした。
そして、チューブ交換とパンク修理という、今後の自転車旅行で必須の技術を身につけたのだ。多分。
身につけたのはいいのだが、もう時間があまりない。とりあえず今すぐ電車に乗るのはなんか悔しいので、少し走ろう。
道中、ファミレスにはいってハンバーグセットとビールを注文した。うむ、うまい。
厄介ごとが解決してビールを飲むのはいいもんだなぁ。
後ろの席ではおばちゃんが4,5人で仲間のおばちゃんの悪口を言い合っていた。
悪口おばちゃんらの語らいをBGMに、飯を食らう。もっとさわやかなものを聞きたい。
さて、おなかもいっぱいになったし、帰る気になってきた私は再出発した。
あっけなく、勝田駅に到着。
平日の帰宅ラッシュを避けるため、常磐線→千代田線と乗り継ぎ、代々木上原から自転車で帰ってきた。
二日間のうち、ほとんどはパンク修理をしていた。
が、何故か私は満足していた。
一つわかったことは、パンク修理をしたり、タイヤに空気を入れるだけで色んなところが筋肉痛になるんだなということだ。
単に運動不足だという気もするが、このへんで日記を終わる。