重い荷物をわざわざかついで、ビジネスホテルにたどりつく。チェックインした。
部屋に入って、ほっと一息。シングルの狭い部屋だ。
ちょっと横になってみる。ふう。
テレビもつけてみよう。ふむ。
完全に脱力して、天井を見上げる。視界がぼんやりしてきて、やがて暗くなる。
約30分後、目を覚ます。一瞬、朝になってしまったんじゃないだろうかと思ってあたふたする。
だめだ、この部屋にずっと居たら寝てしまう。雨が降っているようだが、とにかく外に出よう。外に出てどうするか?わからない。とにかく外に出ないと何も始まらないのだ。
外に出る。
傘のない私は、安い傘を買おうと思ってコンビニを探した。
はりまや橋だ!
坊さん、かんざし買うを見た、という歌に出てくるはりまや橋。よさこい節だ。標識はいいから橋を写すんだ。
車の向こうにちろっと見えている赤いのがはりまや橋だということだ。
なんてしょぼいんだ。だまされてるんじゃないだろうか。
うーむ、ちゃんと「はりまやばし」と書いてある。間違いない。
まわりを見ると、雨が降ってるせいもあるが、橋をわざわざ撮っているのは私くらいだった。
橋のすぐとなりにかんざし屋だ。まさに歌詞の通り。
橋よりもかんざし屋が目立っている。
しばらく進むとローソンがあって、無事に安い傘(400円)をゲットした。既にパンツにしみこんでくるほどぬれていたが。
商店街があったので入る。屋根がついててありがたい。
そうだな、どっかで晩飯を食べて帰ろうかな。
商店街に超巨大な垂れ幕が下がる!どっかで見たような絵柄だ。
フクちゃんと描いてある。知ってるような知らないような微妙な感じ。今調べてみると、横山隆一という人が描いているマンガだそうだ。
他の代表作には「おんぶおばけ」がある。おお!おんぶおばけなら知ってる!じいちゃんの背中にしがみつくおばけのアニメだ。記憶はかなり薄いが。
そしてこちらは小山ゆうの「お〜い竜馬」だ。うん、やっぱ高知と言えば坂本竜馬だ。うんうん。
商店街を抜けると、「ひろめ市場」というのがあった。結構混んでいる。
中に入ると、「屋台村」形式の飲食店だった。
店内にある色んな屋台で好きな料理をちょっとづつ買って、テーブルで食べるという形式。
酒もある。
あちらこちらで赤い顔をしたおっさんが、
がーはーはーはー!
と怒鳴り声のような笑いを響かせている。時刻は夜7時。何時から飲んでるんだいったい。
それはともかく、にぎやかなとこだ。ここで喰っていこうか。
だが、もっといいとこもあるかも知れないと思い、私はさらに雨の中を進んで行ったのだった。
もっといいとこを探しているうちに何もなくなって、結局カップラーメン食う、みたいな事態に陥らないことを祈りながら。
<続く>
<続き>
ふと、スーパーがあったので入ってみる。食品売り場をうろつくと、かつおのたたきだとか、いもの天ぷらだとかがあった。いもの天ぷらがあんまりうまそうだったのでそれを買った。それだけ買うのもなんなので、かつおのたたきとかまぐろの照り焼きとかも買ってみた。じゃこめしもうまそうだったので買っておいた。おや、カップ入りの日本酒も。
あ。
これって、既に一食分の量だ。もっと冷静に言うと、1.8食分くらいはある。
じゃあ、今日のところはホテルに戻ってこいつらを食うことにしよう。
私はスーパーの袋を両手にぶら下げてホテルの方へと向かった。向かったつもりだったが、複雑に交差している商店街の中で方向感覚が狂い、変な噴水のとこに来てしまった。正直に言うと、迷子になったということだ。
外は相変わらず激しい雨で、傘をさしていても下半身はずぶぬれだ。
後ろを振り向くと、名言っぽい石碑もあった。自由は土佐の山間より出づ。板垣退助だろうか。自由と言えば板垣退助くらいしか出てこない、発想の貧困な私であった。
今調べたら、植木枝盛という人の言葉だそうだ。
川が広い。ざんざかざんざか雨が降っていて、川面は波紋だらけだ。
どうやら、無事に駅の方向に近づいているようだ。
駅前までやってきた。
道路案内に「南国」と書いてあるのが気になる。南国土佐を後にしてどうたらこうたらという歌があったと思うが、あの「南国」ってのは地名のことだったんだろうか。
私はずっと「南の国」という意味だと思っていたのだ。
そんでもって、「土電乗り場」の表示。土佐の私鉄だろうか、略して土電。ひらがなで書くとどでん。良い語感だ。
いや、トサだからトデンかも知れないぞ。私はどでんの方が好きだ。
今調べてみたら、土佐電鉄、略してトデンが正しいらしい。土佐電鉄が自ら言っているのでそうなんだろう。で、間違えてドデンと読んでいるサイトも何件かあった。
仲間だ。
ホテルにたどりつき、買って来た食い物を並べてみる。
左から、かつおのたたき、まぐろの照り焼き、いもの天ぷらだ。
かつおのたたきは、あきらかに一人前を軽くオーバーしている量だ。3人前くらいはある。
何はともあれ、食べよう。腹は減っているのだ。
いもの天ぷらからいってみよう。甘い。衣もなんだかもちもちしている感じだ。いものぱさぱさ感も無い。普段私が食べてるものとはいも自体が違うんだろう。揚げ方や衣も違う気がする。
かつおのたたき。私はかつおの血の匂いが苦手なので、薬味を多めに乗せて食べた。臭みが消えて、それ以外の旨みと薬味の味が残る。鼻から息を吸い、出してみる。口の中の味が広がる。これがかつおのたたきってやつなんだなあ。
そして、まぐろの照り焼きに手をつける。魚くささはみじんもない照り焼き。いい感じに味がしみていて、身もぷりぷりだ。
写真には写ってないが、じゃこめしを食べつつ、これらをおかずにしている。
私は冷静に計算していた。
これらを全て今日中に食い尽くすのは無理だ。そうすると残す他無い。しかし、捨てるのはいやだ。痛みやすそうなやつは今日食って、残りは明日食おう。
私は、痛みやすそうなかつおのたたきを重点的に攻めた。最初はおいしかったかつおのたたきも、その量が私を苦しめた。しまいにタレが底をつきそうになり、タレを節約しながらなんとか最後まで食べ終えた。
うむ、喰いすぎだ。じゃこめしやらまぐろの照り焼き、いも天1個は明日の朝飯用と称して備え付けの冷蔵庫の中に仕舞われた。
ベッドに横になる。
食べてすぐ寝ると牛になるという言葉が頭をよぎったが、今まで一度も牛になったことはないので今回も大丈夫だろう。
テレビをつけてみる。天気予報がやっていた。
自分が居る地方を中心に天気予報が放送されると、遠いとこに来たんだなあと思う。明日の高知は曇りらしい。
駅でもらった、ミニ地図を開いてみる。坂本さんはどこに居るんだろうか。
さかもっさん!さかもっ!りょっ!リョーッ! ギャーッ! ウワーッ!
坂本竜馬実家の跡地が高知駅付近に、銅像が桂浜にあるらしい。桂浜か。よく聞く地名だ。2,3時間あれば自転車で行ける距離だ。
さかもっさんに会いに行くとするともう一泊することになるか。それもいいだろう。私はフロントに連泊の電話を入れた。
連泊OKの返事を聞いて電話を切ると、私はリモコンを操作し、30秒間無料で見れるアダルトな放送をじっくり見てから眠りについたのだった。
<続く>
<続き>
朝になり、私は昨日の残りのじゃこめしとまぐろの照り焼き、それにいも天(いもの天ぷらのことだ!)を朝飯に食べた。朝っぱらから食うにはちょっとしつこいものばかりだ。とりあえず腹がふくれたが、気持ち悪くなった。
体を動かして早いとこ消化してしまおうと考えた私は、準備を整え、折りたたみ自転車を持ってホテルの外へ出た。連泊予定なので、余計な荷物は部屋の中だ。
晴れている。曇りの予報のはずが晴れている。
そうか、わかったぞ。
ここに来るまで、さんざん雨に降られて悲しい想いをしたのは、今日のこの晴れを楽しむためだったのだ。ふふ…ふふふふ…うわーっはっはっは!
見た目は淡々と自転車を組み立て、心の中で高笑いをする私。天気がいいとテンションが高くなるのは私だけはあるまい。
晴れの日のチンチン電車。すがすがしい。
同じチンチン電車でも天気が違うと違って見える気がする。
まずは高知城に来てみた。板垣退助の銅像があった。
板垣退助は子どものころに坂本竜馬をいじめたらしいので私はあまり好きではない。まんがに書いてあったことなので本当かどうかはわからないが。
それにしても遠くて顔がよくわからないな。
拡大!
おお、あの独特のひげが見える。
顔をひっくり返しても別の顔に見えそうな、そんな顔。
銅像のすぐ横に有名な言葉。
「板垣死すともッ!自由はッ!死せずッーーー!」
私なら、「他人死すとも私は死せず!」と言ってしぶとく生き残りたい。
ちなみに城の上のほうに登ると日本酒「酔鯨」と関連が深いという山内容堂の何かがあったみたいだが、この殿様も坂本竜馬をいじめたらしいのでパスした。なんだそれは。
さて、次はメインの桂浜を目指すことにしよう。
城を後にする。これは城のまわりをぐるっと囲んでいるお堀だ。巨大な鯉が居て、おっちゃんがえさをやっていた。
鯉はまるでピラニアのようにばしゃばしゃと激しくえさを食べていた。飢えている。
誤って人間が落ちたら骨だけになってしまいそうな光景だった。
高松駅の近くにもあったがここにも丸の内ビルが!
丸の内と言えば、丸の内OL。丸の内弁当。鬼は外丸の内。
くだらないダジャレはさておき、先に進む。
日本の銀行は第一(今はみずほ銀行だ)から順番に数字が振られて名前がつけられたという。その114番目の銀行だ。ふーん、そうか。
ところが、その114番目の銀行の前をチンチン電車改が通りがかる!
一気に私のボルテージは上昇だ。チンチンチンチンチンチンチン!
形が子どものおもちゃっぽい。1両編成じゃないってところも珍しい。いや、珍しいというほどたくさんのチンチン電車を見てきたわけではない。
しばらく進むと大層立派な橋にたどり着く。これが「真・はりまや橋」なのではないだろうか。
しかし、橋には無情にも「天神大橋」というどこにでもありそうな名前が付けられていたのだった。
とは言え、大き目の橋があると私のボルテージは上がる。橋だ橋だ!
別に疲れては居なかったが、橋のまんなからへんで休憩を取ってみる。
いやー、川が広い。
空も広い。
そしてある程度都会だ。
これって、住むにはベストなんじゃないだろうか。
そして、実際に住んでいる人はそんなことをいちいち思わないということもわかっている。
川には謎のUFOが不時着しており、助けてくれと叫んでいたが、私は無視して先に進んだ。
小さい公園の前を通りがかる。
猫の石像が、めちゃめちゃ邪魔な位置に立っていた。多くの子どもが座ろうとしてその顔面に尻を押し付けたのだろうか、顔の部分のペンキははげかかっていた。
そして、公園のテーマソングが!
「みんなのゆめをらくだにのせて」だそうだ。
改めて見ると、公園のテーマソングですとはどこにも書いてない気がするし、仮にテーマソングだったとしても誰も歌わないような気もする。
交差点にさしかかる。ここにもチンチン電車が走っていた。どこにでもいるチンチン電車。オールオーバーザチンチン電車。なんか文法がおかしいような気がするが、私はチンチン電車の通過を待ち、先に進んだ。
なにやら立派な建物が目についた。記念館か何かだろうか。
自由民権記念館だということだ。
特に何か面白いものがあるような予感は全くしなかったので、写真だけとって先に進んだ。
そろそろ海が近くなってきたところへこんな看板。
高知信用金庫はドットコムバンク!
名前が違うだけで雰囲気が全く違う。たぶん、インターネット上ではドットコムバンクというガッツンガッツン行きそうな名前を、地元の皆さんには高知信用金庫、略して高信金ですよーみたいなアピールをするんだろう。
はらみマリーナ。
私にとって、はらみと言えば焼肉用語だ。
海ではらみを食いまくるというのはちょっとおかしいから、多分、地名なんだろう。しかし、おかしくたって、海ではらみを食いまくりたい。
海じゃなくたっていつでもはらみを口にほおばってもぐもぐしていたい。
はらみのことを考えていたのでのどが渇いた。自動販売機でお茶を買う。
なんか高知独特の面白ジュースはねえかと思ったが、普通の品揃えだった。
正面を見ると、「24時間眠らないKUISHINBO」という看板。
24時間営業の食材屋らしいのだ。
需要はどれくらいあるんだろう。海が近いから、朝早くとか夜遅くに釣り客とかキャンプ客が来るんだろうか。
入ってみればよかったなと後悔。
そして海には船が浮かぶ!
私のボルテージを刺激するものはたくさんあるが、その一つが船だ。どんなふうに刺激するのか?「船だ!浮いてる!すげえ!」という感じだ。単純だ。
チンチン電車改や船を見ることで順調にテンションの上がった私。
この先、果たして桂浜までテンションあげっぱなしで行けるのか!?
特にテンションがあがっていなくてもそんなに問題じゃあない気はするが。
冒険しようぜ(四国編)4へ続く