平日にストレスをためておいて、週末にどばーっと発散する。これがやりたくて平日仕事をしてるんだと言っても過言ではないだろう。
日曜の朝、朝7時ごろに目を覚ます。めちゃくちゃいい天気だ。
とりあえず自転車と、パッド入りパンツと、地図とGPSとデジカメと、その他必要じゃないかなあと思われるブツをちっこいカバンにつめる。このカバンは自転車の前につけるフロントバッグだ。
外に出た。日差しが強かった。24時間営業のジーンズメイトで麦藁帽子っぽいのを買う。よし、なんか夏って感じがしてきやがったぜ。
さて、この時点でどこに行くのかは全く決まっていない。例によってマクドナルドに行って朝飯を食う。
地図を開いて行き先を物色する。そうだな、こんな暑い日はやっぱ海に行ってみたいなあ。湘南は汚そうだからやだなあ。じゃあ、千葉の方にいってみようか。
そんなおおざっぱな方針を決め、電車に乗る。東京駅まで出たら、そっから外房線だか内房線だか忘れたが、千葉の海沿いを走る電車に乗るのだ。
電車の外の風景が、じょじょにのどかになっていく。錆びた鎖でがちがちに縛られた私の魂が徐々に開放されていく感じ。錆びた鎖というのは、ここ1週間の疲れとかだ。
今乗っている電車の行き先は「もばら」だった。
あた!あたたたたぁ!うっ!もばらあ〜っ!とかそういうのを誰かに言いたかったが、
周りには知らないおっさんとかしか居なかったのでやめておいた。
地図で確認するとどうも、九十九里の近くらしい。こないだ行ったとこじゃあないか。まあ今回は海がメインってことでいいか。
もばら駅は茂原駅と書き、駅前はおっきな百貨店とかがあって拓けたとこだった。海に行くのに水着を忘れた私は、ここで水着を買った。ついでに醤油ラーメンBセットとかいうのを食べた。
前回は船橋から九十九里まで自転車で行ったが、今回は海辺まで7,8キロだ。腕と顔に日焼け止めを塗って出発。ごー!
茂原周辺の拓けた場所から徐々にのどかな風景に。いい天気だなあ。
車は結構通るのだが、歩道がちゃんとあって、それなりに広めで走りやすい。歩いている人も自転車に乗ってる人もほとんどいなかった。
あっという間に海辺に着く。中里海岸というところらしい。それなりに人がいた。
トイレの近くに自転車をとめ、フロントバッグを持って砂浜の方に歩いていく。
ここでひとつ、大きな誤算が発覚した。海の家がまだやっていない。いや、すでに時刻は昼をまわっているのだが、どうもまだ海開きしてません、というような感じだ。なんということだ。
それはすなわち、貴重品を預ける先がないということ。財布とかをおきざりにして泳ぎにいくのはちょっと怖い。
あと、ついでにリクライニングチェアーというか、そういう寝られるイスを借りようと思って、レジャーシートとかを持ってきていなかった。砂まみれになったあと、砂を洗い流すシャワーとかも使えない。
ないものはしょうがない。手元にあるのは、小さな折り畳みイス、折りたたみイスを入れる袋、水着を買ったときにもらったビニールの袋、だ。これで勝負だ。
海なんだし、とりあえずTシャツを脱ごう。そしてそのTシャツは砂まみれになるとまずいので、折りたたみイスの上に置いた。Tシャツの替えは持ってくるのを忘れた。
そして、あまり深く考えるのはやめて、尻と頭の位置に袋を置いて横になった。砂が熱い。
空を見上げた。
海辺は結構強い風が吹いていて、日差しは強いのに涼しかった。雲が結構なスピードで流れていく。
ああ、これだ。今回の私は、多分これが見たかったんだなあ。
雲の流れをしばらく見守っていると眠くなってきた。帽子を顔の上に乗せ、昼寝を開始だ。
風の音と、波の音と、人の声がだんだん遠くなっていく。
気がつくともう4時前だった。寝すぎだ。
いつのまにか太陽は隠れ、人も減っている。ちょっと寒い。
折りたたみイスとかをカバンにつめ、上半身はだかのまま自転車のとこに戻った。
砂まみれだった。背中には古くなった貝殻の破片とかがへばりついていて、なかなかはがれなかった。
Tシャツを着て、出発の準備は完了だ。ありがとう中里海岸。また会おう。
さて、少し北に行くと白子健康センターだったか、そんな名前の健康ランドっぽいのがあるらしいのでそちらに向かった。
すぐに白いしょぼそ…いや、小さい建物が見えて、どうもそれが目的地だと知った私は、南に戻った。
南には前回泊まった健康ランド「太陽の里」がある。こんな早いタイミングでまた来ることになるとは思わなかったがまあいいだろう。
夕方5時前くらいに到着だ。チェックインして中に入る。風呂だあ。
大して焼けてないつもりだったのだが、お湯がしみて痛かった。鏡で見ると、真っ赤になっている。レッドだ。そう、これからしばらく、私はレッドキングとして生きていこう。レッドキングを知らない人は、ウルトラマンに詳しい人に聞こう。
打たせ湯やジェットバスは禁物だった。しびれるような痛さ。痛さのあまり踊り狂ってしまいそうになった。肩周辺を打たせ湯で打つのが好きな私は、少しもったいない気がした。
風呂からあがり、大広間でビールとおつまみを注文する。銀むつの竜田揚げというのを頼んだ。思ったよりおいしくなかった。もっというと、まずかった。せっかくの銀むつなのに、なんてもったいない料理の仕方をするんだ、と勝手なことを思った。
やっぱ銀むつは照り焼きというのだろうか、あれがいいな。
とりあえず腹も膨れたので、ムービールームという、映画が放映されている休憩室に行った。忍者ものの邦画がやっていた。
そこで寝た。昼間さんざん海辺で寝ておいてまだ寝るか、と言われようが寝た。そのうち、忍者が敵のアジトを爆破する場面だったと思うのだが、その爆音で起きて再度風呂に行った。
風呂からあがると、今度はリラックスルームという、静かな休憩室があったのでそっちに行った。ここでは荷物を席において、「ここおれの席!」ということを示すマーキング技が横行しているらしく、店内放送でそういうことをしないで下さいと放送が流れていた。
とはいえ、別に席が空いてないこともない。複数で来ている人たちが隣どおしの席に座りたくて文句を言っているらしかった。どんだけ注意してもどうせやるやつはやるんだろう。まあ私には関係ない。
再度寝た。よくもそんなに寝られるもんだと思うくらい寝た。起きたら朝の4時半で、目覚めの風呂に入りに行った。
外はもう明るい。朝5時前で既に明るいなんてなあ。夏なんだなあ。
まあ明るいのはいいのだが、窓から外を見るとなんだか地面がぬれていた。雨が降っているらしい。
私の冒険の宿敵、雨。他の宿敵にはのぼり坂と向い風などがあるが、雨はその中でも強力だ。テンションも下がる。
私の直感が、この雨はきっとやまない、と告げていたのでチェックアウトして旅立つことにした。
この直感が当たるかどうかは重要ではない。雨という、人間一人の力ではどうしようもない巨大な敵に対して、自分で考え、進む道を決めることが重要なのだ。
幸い、自転車は屋根のついたとこにとめてあったので濡れてなかった。フロントバッグをセットし、降りつづける雨の中に突っ込んだ。思ったほど降ってないようだ。
そう、雨が降るぐらいのアクシデントなら、のぞむところだ。周りに誰も居なかったので景気づけに「こんな雨、のぞむところだぜ!」と叫んだ。
しばらくしてバチが当たったのか、雨は強くなり、ついに土砂降りになった。
なんとか最寄り駅「八積(やつみ)駅」に到着した。小さな駅だ。自転車が濡れないように、屋根の下まで持ってきた。ひと息つく…はずだった。
果たして雨でお腹が冷えたか、サドルで刺激されたのか、私は猛烈に便意をもよおしていた。
トイレが見つからない。
駅のくせにトイレがないなんてことは考えにくいのだが、このときの私は冷静な判断力を失っていた。
とにかく出さなければ、大惨事になってしまう。目の前に林っぽい場所がある。ティッシュペーパーも持った。
翌日とかにそれを発見した人のことを思うと心が痛む。申し訳ない。だが私も限界なのだ。このときの心情を言葉にするならば「うっさい、出させろこらあ!」だ。せっぱつまっているのだ。
私は雨の中に踏み出した。人が来ませんように。雨が全てを洗い流してくれますように。そもそもあの林までもらしませんように。
が、ふと見ると駅のすぐ横にトイレがあった。
神様ありがとう!
私は感謝しながらトイレを使わせてもらった。
身も心も軽くなった私は自転車を折りたたんで、電車を待った。10分後くらいに電車はきた。
その後、電車で1時間半くらいかけて戻ってきた。雨はやんでいた。
雨がやむまで待てばよかった気もするが、まあいいか。家に帰り着くと腹をすかせた飼い猫のトトが狭い部屋を走り回っていた。
夏の海はやっぱいいな、ということで今回の日記を終わる。