とにかく何かをやってみるということ 前編

健康ランドに出かけ、思ったより盛り上がらずにその日の夜に帰ってきた。

 

このまま帰ってはだめだ。何故だめなのかはわからないが、なんか盛り上がるイベントを自らで発生させてみたいと思った。

 

私は自宅からおよそ10キロ離れた駅で降り、歩いて帰ることにした。バスは既に走っていない時間だが、なあに電車はまだ走っている。もうだめだとなれば、電車に乗ればいい。なんならタクシーに乗ったっていい。

 

東武練馬駅という、練馬という名がついているくせに板橋区の駅で降りる。

 

南の方に進めば私の自宅に着くということはだいたいわかっている。今回、ハンディGPSは持ってきてないが、携帯電話にGPSの機能がついてて、なんとかなるだろう。

 

ではいってみよう。

 

怪しげな店が並ぶ商店街を抜けると、真っ暗な道に出る。既に自分がどの方向を向いているか、自信がない。大きな道を行こう。多少効率が悪くとも、反対方向に進むよりはマシだと思った。

 

国道254号、川越街道を東の方へ進む。環八との交差点があった。進めばいずれ環七の交差点があるだろう。環七を南に下れば、私の自宅周辺にたどり着けることは間違いない。

 

何度か、携帯電話のGPS機能を使って自分の位置を確認した。3回くらい確認したあたりで、電池の目盛りが残り1個となっていた。ものすごい電池の減り方。そう、この電池の減り具合が不安で、私はハンディGPSを買ったのだ。そして今回、そのハンディGPSは手元にない。

 

汗をタオルで拭きながら、とぼとぼと歩いていく。「元気よく」という表現とはあまりにもかけ離れた感じである。一応、娯楽はある。トークマスターで録り溜めておいた深夜ラジオ番組である。爆笑問題を聞きながら進んでいく。

 

少し楽しくなってきた。近くの陸橋などにある住所表示は依然として板橋区で、板橋区から中野区まで歩くって、大変なことだよなあと思った。

 

自販機でお茶を買って、飲む。あっという間にペットボトルのお茶はなくなった。そして、今飲んだお茶が汗になって吹き出てくるのがわかる。

 

ラジオでは、というか、録音だが、爆笑問題の太田が芸能人のシモネタをやっていた。ぶふぉっ。シモネタには、ストレートなものとカーブ気味なものがある。10代の頃はストレートなものでも笑えたが、今ではカーブ気味、いや、魔球気味にひねったものでないと笑えない。爆笑問題は、シモネタで私を笑わせる、数少ない芸人なのだった。

 

環七との交差点に差し掛かり、右に曲がる。方向で言えば南に向かうことになっているはずだ。よくわからない。交差点手前で、猫を10匹ほど飼っている家があり、中の臭いを扇風機で外に出そうとしているおばさんがいた。

 

猫のおしっこが充満したにおいである。さすが10匹だけあって、ものすごい臭いだった。こんな交通量の多い場所では、外に出すわけにもいかないんだろう。近所からも苦情が出るんじゃないか。

 

とにかく、無事に環七だ。

 

そろそろ足の裏が痛くなってきた。今回はサンダルばきである。サンダルは、足の裏とサンダルが直接ふれあい、摩擦パワーも大きいので、多分長距離を歩くのには向かないはずだ。はず、というか、今実際に経験して、向かないなあと思った。けど、はじめから長距離を歩く予定ではなかったし、しょうがないではないか。

 

汗は一定のペースで出続けていた。サウナに入っているときのように、初期はべっとりした汚い汗だったが、今や蒸留水のようなキレイな汗が出てきていた。とは言え、これが乾くとどっちにしても汗臭くなる。不思議な現象である。

 

おなかが冷えないように、おなか付近の汗はこまめに拭いておいた。おなかが冷えるとダイのやつがでてくるのである。ダイはまずい。ショウならまだなんとかなるのだが。

 

自販機で、レモン味のコーラを買う。炭酸が飲みたかった。シュワーとしたかった。

 

シュワーとしながら、一気に飲み干す。数分間、汗がどっと吹き出し、収まった。収まったというのは、常に一定量汗をかくモードに戻ったということである。

 

そして、練馬区突入。練馬。馬を練る。昔は馬の練習でもしてたんだろうか。今調べたら、馬の訓練場があったから、という説が本当にあった。また、東京23区で最も新しい区らしいということもわかった。だから、どうというわけではないが。

 

しばらく進むと、西部有楽町線の駅があった。地下鉄らしいが、そんな線があったとは初耳である。少し休憩しようかと中に入ったら、休憩できるような場所は一切ない、乗客以外には厳しい駅だった。しょうがないので地上に出て、反対方向に進み始め、しばらくしてから気づいて正しい方向に歩き出した。

 

<続く>

 

とにかく何かをやってみるということ 後編