くろごまの恐怖


 ある週末、私は掃除機で部屋を掃除していた。

 もう、かれこれ十年は使っている掃除機。紙のパックを内部に装着すると、ごみがパックに溜まっていくという、ありふれたタイプである。
 ずびょろるっ
 脱ぎ散らかした靴下の近くを掃除していたら、誤って靴下を吸いこんでしまった。そう、最初に靴下を片づけておいてから掃除機をかければいいのに、そうに決まっているのに、なかなか学習しない私であった。
 急いで掃除機のスイッチを切ったが、すでに靴下はホース部分を通過して、ごみパックに納まっているようだ。
 靴下を救出すべく、掃除機本体を開ける。ああ、ごみパックが満タンのようだ。2か月くらい前だったかなあ、パックを替えたのは。
 私は、掃除の度にパックを替えたりせず、満タンになって吸引力が悪くなって来てからしぶしぶパックを取り換えるという男なのだった。
 ふと。
 紙パックのわきに、黒ごまをぶちまけたようなごみがこびりついている。
 ああ、いつの間にかパックが満タンになってて、ゴミがはみ出しちゃったのかなと思っていると、ごまが動いた。
 ごまでは、なかった。
 それは、大量の小さな虫の死骸だった。その中でかろうじて何匹か生きていて、うごめいているのだ。
 うわあ、あああ、ああーっ!
 私の悲鳴に驚き、猫が逃げた。玄関のあたりまで逃げた。
 徐々に落ち着きを取り戻した私は、とりあえずゴミの入ったパックと、黒ごまどもをゴミ袋に捨てた。未だこびりついている、黒ごまの残りはティッシュを何重にも重ねてふき取り、なんとか内部をきれいにできた。
 この怪現象の原因は、散らばった猫の餌を掃除機で吸いこんで、ほったらかしにしておいたせいだろう。
 なんかの拍子で吸いこまれた虫が、パック内部の栄養、つまり猫の餌で育ち、こんな恐ろしい結果を招いたのだ。だから、いくら掃除機内部を掃除したって、いつかは第二第三の黒ごま現象が再発するはずなのだ。
 サイクロン掃除機を買おう。吸引力が落ちないとか、そういうのはどうでもいい。内部が見えてて、掃除のたびにパックなしで内部のゴミを捨てられるタイプにしないとだめだ。
 もう、黒ごまは食べられないかも知れない、と思ったが、その夜食べたワカメスープには、ごまが入っていてフツーにおいしく食べられた。大人とは図太いものなのだ。今後も、ワカメスープをおいしく食べられることに感謝しつつ、今回の日記を終わる。