沖縄に行った。
▲沖縄と言えばシーサー
滅多に帰らない実家の両親に、罪滅ぼしのような意味合いもちょっと込めて、両親と私で二泊三日だ。私にとっては初沖縄である。
大阪の実家を出て、朝早くからリムジンバスに乗り込み、関西空港へ向かう。
リムジンバスは満員で、前日に念のため入れておいた予約がなければ乗れないところであった。私は内心めちゃめちゃあせったが、全くあせっていない、どっしりした息子を演じておいた。
寒い。こんな寒い時期に沖縄に行って、何しにきたんですかと現地の人に言われないだろうか。
そんなことを考えつつ、バスの中でサンドイッチとおにぎりをもそもそと食った。バスに乗り込む前にコンビニで買った朝食である。時刻は朝7時。
まあ、何事もなく空港についた。これから、ANAの飛行機に乗るのだ。
両親は滅多に旅行したりしないので、搭乗の手続きとかがよくわかってない。本当は私もよくわかってないが、今回は私が言い出した旅行なので、わかってなくてもなんとかするしかない。
空港はいつ来てもなんだか緊張する。昔テレビで見た、金属探知機にひっかかって別室に連れ込まれる怪しい男を思い出してしまう。
まず、父が車輪付きのトランクケースを持っていたので、手荷物検査場に持って行った。トランクケースは、近くに立っている怖い係ののオッサンにベルトコンベアに乗せられ、謎の装置を通過する。赤ランプが激しく点滅して私が別室に連れて行かれるようなことは特になく、奥の方に流れて行った。
カウンターに進み、私は家から印刷して持ってきた謎のQRコードをチェッカーにかざした。
しゃらららん
機械的な風鈴のような音がして、カウンターの受付係がにっこり微笑み、手荷物引換え券と、手荷物客用の新たなQRコードをくれた。
このQRコードは、
ANAのスキップサービスとかいうもので、以前に比べて飛行機に乗り込む手続きが簡単になるんだそうだ。本当に簡単になっているかどうかは、滅多に飛行機に乗らない私にはよくわからない。
続いて、恐怖の金属探知機である。
「バックルのでかいベルトは必ず金属探知器でひっかかる」という経験を数回した私は、事前にベルトを外した。む、こんな場所でいきなりベルトを外していいんだろうか。まあ、しょうがない。
ずり下がるズボンを上げながら、両親にもそれぞれのQRコードを渡し、カギなどをちっちゃいかごに入れて係の人に渡すよう伝えた。
お手本を示すかのように、まずは私からだ。探知機の前でも、例の謎のQRコードをかざす。
あれ。
「搭乗できません」って出てる。これはまずいのではないか。
あせっていると、係の人がこちらじゃないですかと、手荷物客用の新たなQRコードを指した。
しゃららんと音が鳴り、無事に通った。そ、そうかこっちを使うのか。
びびりながら、探知機を通る。
無音。
ああ、一発で探知器を通れたのは、もしかしたら初めてかも知れない。
ほっとしていると、係のどっしりした感じの女性に「かばんの中に飲み物が入っていませんか?」と言われた。
私がかばんからペットボトルのお茶を出すと、謎の機械でチェックされた。何のチェックなのか、どのようにチェックしているのかはわからない。そんなことに興味を持つと別室に連れて行かれそうなので、あまり追及しないことにしておいた。
空港と言うところは、私が来るたびに謎が増えていて、そのつど、私は進歩なくビクビクするのだった。
さて、両親も無事に探知器を抜けてきた。よし、後は飛行機に乗るだけだ。
飛行機に乗り込むときにも、謎のQRコードが必要なようだ。しゃららん。ここは問題なく通過できた。
三人席に両親と私が座る。
携帯電話の電源が切れていることをビクビクと確かめ、そうそうにシートベルトを締める。10年ほど前、大人になって一人で初めて飛行機に乗った時は、いきなりイスを倒して注意されたりした私だが、さすがにそのあたりは学習済みである。
飛行機は滑走路をうろうろと移動し、所定の位置についたらものすごい加速をして、しまいには離陸した。
うわあ、飛んでる。
周囲に悟られないよう、落ち着いたような顔をしながら、心の中でこっそりと興奮する私。
窓際は父にゆずり、私は落ち着いた大人ぶって通路側に座った。窓の外の景色が、広大な雲の上の世界と化していった。
約二時間後。
飛行機は着陸した。
「那覇空港」の文字が見える。
ああ、私は遂に沖縄まで来たのだった。
▲那覇空港を出たところ。目の前に「ゆいレール」というモノレールの駅が見える
(つづく)