銚子でさんまを喰う


 友人のMえだ氏から「銚子に行くけど、行く?」とメールが来たのが夜の9時だった。
 メールに気づいたのが次の日の朝の7時半。「何時頃いくの?」と返事を出したら、30分後に「朝の9時に東京駅を出ようと思っている」という電話がMえだ氏からかかってきた。
 数字がいっぱいでわかりづらいと思うが、あたふたしながら準備をして、銚子旅行に出かけたということだ。
 東京駅から、高速バスに乗って銚子へ向かう。
 高速バスの中は、飲んで騒げるような雰囲気ではなく、みんなおとなしく乗って居眠りしながらいきましょうという暗黙のルールができあがっていた。私は徐々にぬるくなりゆくかばんの中のビールを気にしながら、結局居眠りしつつ、目的にたどり着いた。
 銚子。
 前回、私は犬吠埼を調査するために、というか、犬がいっぱいいるか確かめるために銚子に行った、千葉の端っこである。確かに犬はいっぱいいた。そしてサンマがうまかった。犬吠埼の灯台には各年齢層のカップルが大勢いて、なんだか切なくなったのを覚えている。
 さて、今回のプランはMえだ氏にまかせきりである。今回の予定を聞いてみると、「漁港に行ってサンマを食べ、そして帰る。日帰りで。」とぽつりとつぶやくMえだ氏。日帰りなんてしんどいしんどいと私が駄々をこねたので、ビジネスホテルに一泊することになった。
 銚子駅から、銚子電鉄というちっこい電車に乗り換えて、本銚子駅という駅まで移動する。ほんちょうしか、いい名前だな。なんかこう、真の力を発揮するみたいな感じだなあ、と思っていたら「もとちょうし」と読むらしくてがっかりした。途中通った観音駅は、駅に「CANNON」と書かれていた。これは、キャノン、つまり大砲という意味だ。なんだか一発ぶっぱなしそうな景気のいい名前で、さっきのもとちょうしと合わせてプラスマイナスゼロの気分でおとなしく電車に乗っていた。
 本銚子駅は無人駅で、すぐ前は小学校と幼稚園だった。そして、まっすぐいけばとりあえず海に出られそうだった。本銚子駅は少し高台になっていて、あたりを見渡せるのだ。
 我々はこんな道通っていいの?というせまい道をすり抜けながら、海に向かう。周辺には楽しそうなお店などは一切なく、魚の腐敗臭がただよっていた。海のにおいとも言える。
 なんとか海に出た我々が見たのは、海から波がぶわっしゃーっと陸地にあがってくる光景だった。海は結構荒れている。とりあえず、漁港らしき方向に向かう。我々は、何一つ動くもののない、平たく言うと誰もいない漁港にたどり着いた。Mえだ氏は、完全に沈黙していた。バスの中で、「漁港休みだったらどうする?はははは」と冗談を言ったのが悔やまれる。だって、彼は稼働していない休みの漁港に私を連れてきたという変なプレッシャーに責められているのだ。
 あっ、でもほら、近くに店もあるし、な、なんか食べようや、とそわそわしながらフォローする私。とりあえず魚料理の店に入る。
 2,500円のサンマ定食を注文した。サンマの刺身、サンマのガーリックバター焼き、サンマの天ぷらがおかずだ。サービスであじの天ぷらをつけてもらった。なんというかこう、あぶらの乗ったサンマを脂っこく料理した感じで、うまかったのだが後半はちょっとつらかった。サンマはシンプルに焼いて、大根おろしと醤油で喰いたい。
 店を出て、銚子駅まで歩いて帰る。実は、本銚子から銚子駅までは歩いて行けるほどの距離だったのだ。1キロ少々だろうか。
 とりあえず、本日の宿を予約する。駅前の少し大きめの宿、銚子プラザホテルだ。フロントの男のスタッフが小馬鹿にしたような態度だったのが少々気にくわないが、ビジネスホテルとしてはまあまあだった。我々はロビーの喫茶コーナーで時間をつぶして、チェックインの3時まで待ち、それぞれシングルの部屋に入った。2時間後に会おうということで、各自休憩タイム。
 旅先で、一時別れることの心地よさ。これが、楽な距離感ということなのだろう。一人暮らしになれた人間には、一緒に旅行中といえどもパーソナルな時間が必要なのかも知れない。
 夕方までシャワーを浴びたり、部屋の中でうろうろしたり、お茶を飲んだりしてうだうだして過ごし、夕方に街に出かける。街、と行っても銚子駅周辺だ。適当な魚料理の店に入って、念願の焼きサンマを一匹づつ注文して食べた。
 私はサンマのはらわたを食べられない。いや、無理すれば飲み込むことくらいは出来るが、別に食べたくない。焼きサンマはうまかった。はらわた以外は。はらわたがうまかったかどうかは、喰ってないのでわからない。他にもアラ煮やイカの一夜干しなどを食べた。特にアラ煮はねっとりとした感じで白身魚が甘辛く煮込まれており、ごはんが欲しくなった。実際、ごはんも食べた。
 大変満足したが、食べ終わった皿を下げに来たおばちゃんが、私の残したサンマのはらわたをさして「たべないのぉ?ま、にがいの苦手な人もいるからね」とつぶやいて去っていった。そう、にがい。にがいし、形状がなんだか怖い。けれども、おばちゃんの言動は、ここに来る人のほとんどがサンマのはらわたを喰うってことを示していて、それを楽しめない自分をなんだかもったいなく思った。
 ごちそうさま、さようなら。宿に戻って、Mえだ氏の部屋で飲む。何を話したか覚えてないが、どうせまた下ネタだろう。私たちはスキがあれば下ネタを話す、だめな大人なのだった。
 12時前に眠くなった私は、じゃあそろそろ寝ると行って自分の部屋に戻り、寝た。次の日は、朝飯にマクドでソーセージエッグマフィンセットを喰い、おみやげにぬれせんやいわしサブレ、栗どらやきなどを自分のために買って、行きと同じくバスで帰ってきたのだった。
 そんなわけで だらだら旅行のだらだら記録をこの辺で終わる。