納豆を買いに水戸まで行こうぜ その2


 高速バスを降り、あんこう料理屋「山翠」に到着する。
 私はずっと、やまみどりやまみどりとゴロが悪いなと思いつつ店の名前をそう読んでいたが、サンスイと読むってことがこれを書いている今、はじめてわかった。なお、これを読んでいる人は実際に行ってみたりしなくていい。私が次回行くとき、混んでいたらイヤだからだ。
 席につき、メニューをながめる。実は、注文するものはすでに決まっている。
 どぶ汁。なんだか汚そうな名前だが、これが今回の旅の目的なのだ。
 ノーマルあんこうなべとの違いは、なべの汁が、アンキモを溶いたもので出来ていること。もうちょっとこう、食欲をそそるネーミングにすればいいのにと思ったが、そういうふうに決まっているのでしょうがないのであった。
 とりあえずやってきたビールで、「お疲れさん、疲れてないけど」という掛け声で乾杯。やがて、やわらかそうな何かがぎっしり乗っかった大皿が運ばれてくる。運んできたおばちゃんが、これはあんこうのどこそこの部分ですなどと説明を始める。
 肝はでかかった。怖いくらいでかかった。あんこうは、腹の半分ぐらいが肝なのかも知れなかった。
 説明を終えると、「どぶ汁は、厨房の方で調理してから持ってきますので」とのことで、いったん下げられた。肝を汁にするところは正視に堪えないくらい、なにかこう、残酷な感じなのかも知れない。ぐうりぐりぐり、ぶちゅ、ぐちゃ、あぎゃあああ、という感じなのかも知れなかった。そもそも、私もMえだ氏も鍋の作り方がドへたなので、それはそれでありがたかった。
 「あんこうの吊るしぎりを見そびれた」などと話しながら待つ。いや、吊るしぎりはどこか別のとこでやってて、この店には解体済みのあんこうが届けられるだけなのでは、と夢のない話をしながら待った。ビールを飲みまくっていたので、別に待っている気はあまりしなかったが、まあ、待った。
 鍋がやってくる。

 あんきもをすりつぶしたらこんな色になるだろうな、という色の汁にあんこうの身と野菜が入っている。量的に少ないなと思ったが、実は具の半分は鍋の中、半分は大皿の上だった。汁は大きな円柱型の急須みたいなのに入ってた。鍋の中をとりあえず食べ終えたら汁を足して、皿の上の具を入れて第二ラウンドファイト、ということらしい。
 火をつけ、鍋がぐつぐつしだす。食べごろだ。私は野菜と、あんこうの無難そうなパーツを小皿にとった。あんこうのパーツは、ものによっては魔界の生き物の一部のような、怖い形状をしていたのだ。
 ぷりんぷりんだった。魚の臭みは一切ない。この店の料理法が見事なのか、あんこう自体にそもそも臭みがないのかはわからない。ものすごく弾力のある白身の魚だ。タラなどのように、鍋の中でぼろぼろ崩れるという雰囲気もなかった。さすが深海魚である。
 一安心した私は、別の、ちょっと怖い形状をしたあんこうの一部を小皿に取った。それは、骨の周りに肉と、なんだか得体の知れないもじゃもじゃした根っこみたいなのがついたヤツだった。これはもしかして上級者用ではないのか。いきなりそんなのに手を出して大丈夫なのか。
 とりあえず、骨周りのぷりぷりした身を食べる。うまい。そして、どうやらもじゃもじゃの部分も食べられそうだということがわかって、こわごわ食べてみる。これもうまかった。
 もじゃもじゃを制覇した私にはもはや、怖いものなどなかった。釘バットのように身から骨がにょきにょき出ているなぞの部位も、弾力のあるゴムひものような部位もおいしくいただいた。ガラ入れに、あんこうの骨が積み上げられる。
 あんこうの骨はやわらかい。小骨は、なんだかもやしのようにねじ曲がっていた。やはり深海にすむ魚としては、硬い骨だと逆にしんどいんだろう。地震のとき、ビルはやわらかいほうが倒れたりしないということに似ているんじゃないかという意見をMえだ氏に伝えたが、彼はあんこうがおいしくてそれどころではなかった。
 あんこうあんこうときどき野菜。
 やがて鍋を食べ終え、最後のおじやに突入だ。


▲食うのに夢中でこの状態になって初めて、写真を撮ろうと思いついた
 こってりしたどぶ汁の汁。具を全部引き上げたあとの汁ということだ。そこにご飯をぶち込んで火をつけ、出来上がったらお茶碗によそい、アサツキとポン酢をかけて食べる。こってりしているように見えて、いや、決してあっさりしているわけではないが、想像よりはあっさりしていて、おなかいっぱいでもそこそこ食べられるのだ。
 うむ、うまい。食べ終わった後、おばちゃんがお茶を持ってきてくれて、「どうでしたか?」と聞くので、「すごくおいしかったです!」と勢いよく答えておいた。

 私たちは大満足で店を出た。とりあえず、第一の目的制覇。これを書いている時点では、例の番組の納豆情報ねつ造が問題になってしまっていてちょっとやりにくいがまあ、宿を探して歩き出したというところでいったん続く。