沖縄で色々食おうぜ その5


 沖縄旅行で首里城見物をした私と両親は、ホテルに戻ってきた。
 時刻は午後3時。しばし、ホテル内でだらだらすることにした。
 父はベッドにうつぶして寝始め、母はテレビを見始める。
 テレビの音が大きい。
 母が少々耳が遠くなっているのは知っているが、それにしても音が大きすぎやしないか。
 母に聞くと、騒音でうるさいからテレビの音を大きくしているという。
 テレビの音にまじって、がーというノイズが混ざっているのに気がついた。工事のような音。どこか近くで工事やってるんだろうか。
 だが、その音はどうも、ホテル内から壁を伝わって響いてきているようだった。
 フロントに電話をして聞くと、トイレの工事をやっているとのこと。
 それはいいのだが、ホテルの部屋に響くほど大きな音を出すのに一言もない、というのはどうなんだ。
 私は文句をちょっと強めに言った。最初は「あれー、部屋まで響いてましたかー?」とのんきな口調だったフロントの女性は、「で、ではっ、工事がいつごろ終わるか確認して折り返し電話しますっ」と言って、いったん電話を切った。
 大したもんで、数分後、工事の音は途絶えた。
 さらに数分後、工事が終わりました、ご迷惑をおかけしました、という連絡がフロントから入った。
 うむ、めでたし。うるさい客がいるから今日は工事中止、みたいな理由だったとしてもまあ、めでたしだ。
 しばらくうだうだしていると、やがて夕方になった。
 午後6時を回ってもまだ、周囲が暗くならない南の都市、沖縄。我々はホテルを出て、晩飯を食いに出かけた。
 相変わらず入店する店を決めていなかった我々は、ふらふらと国際通りをさまよう。通りで呼び込んでいる兄ちゃんに誘われ、一時は地下の店に入店しかけたが、床にざぶとんを敷いて座る感じの店だったので、入りかけてやめた。
 あのスタイルは腰が痛くなる。母は、ふだんから腰が痛い痛いと言っているのだった。
 呼び込みの兄ちゃんは戻ってきた我々を見て「あれっ、ど、どうしましたか?」と聞いたが、私は「いやー、靴脱ぐのがイヤだったんで。すみません」とだけ伝えて地上に戻った。
 結局、もうめんどくさくなって昨日入店した居酒屋、海援隊に入店。
 店に入ると、案内のおっさん店員が「あちらのお席にどうぞ。昨日と同じ場所ですが」と言ってニヤリ。我々は「この居酒屋のことを相当気に入った観光客」というような扱いで、とりあえず席に着いた。
 わざわざそういう余計なひと言を言われるのは、嫌いではない。一週間くらい連続で来たらどんなことを言われるのか実験したくなったが、残念ながらもう明日の昼には沖縄を去るのだ。
 さて、今日は、沖縄に来てから食べられなかった沖縄料理を食べまくろう。

 まずは、海ぶどう。私は東京の居酒屋で食べたことがあり、ふつうにスーパーなどでも売っている。食べてみると、まあ、海ぶどうだった。特に感動はない。
 母は、海ぶどうを毛嫌いしていた。どっか別の機会に海ぶどうを食べたら、めちゃめちゃまずかったらしい。
 が、「本場の海ぶどうを試す」と言って、おそるおそる食べてみたところ、「ああ、これならいける」と言っていた。
 私にも覚えがあるが、初めてのものを食べるときは、ちゃんとそこそこおいしいやつを食べないと、一生キライになってしまう。恐ろしいことである。
 その他、ゴーヤチャンプルーにジーマーミ豆腐など、昨日食べたけどもう一度食べたいやつらを注文。他には、刺身と魚のてんぷらと、島らっきょうを注文。さらに「紙すきやき」というのを注文した。
 紙すきやきというのは、一人用の七輪の上に紙の鍋が乗っていて、紙を熱してすき焼きをつくる、という不思議料理である。水を入れた紙コップの下をライターの火であぶると、コップが燃えずに水が湯になる、という不思議現象を料理に応用したものなのだ。
 店員の手で紙すき焼きの七輪が点火される。
 そして、注文した料理もつぎつぎやってくる。

 これは、「うちなー風 魚のてんぷら」ということだった。なぞの白身魚がてんぷらになっていて、どこいら辺が「うちなー風」なのかはわからないが、おいしかった。うちなー、というのは「沖縄」という意味らしい。
 それにしても、沖縄料理の魚は生臭さをまったく感じない。海が近くて魚が新鮮だからなんだろうか。

 島らっきょうは、細いねぎの根っこのような形状で、食べてみるとやっぱりねぎっぽくて、まあ、ふつうだった。
 ここで、先ほど点火した紙すき焼きが突如炎上した。
 もくもくと黒煙をあげる紙すき焼き。火事だ。
 あわてて店員を呼ぶと、その店員はあわてて別の店員を呼んだ。
 何か、取り返しのつかないことが進行しているのではないか。
 およそ一分後、女性店員が長いトングのようなものを持って現れた。作業のため、いったん隣の空いたテーブルに移される紙すき焼き。
 店員は燃え盛るそれを、冷静に消火し、配置をなおした。
 紙は黒こげであったが、紙すき焼きは食べられる状態で、再び我々の目の前に姿を現したのだ。
 見事。
 女性店員が「こちら、もう、火は消しておきましょうね」と言う。
 うむ、異存はない。けど、消しておきましょうね、というフレーズが気になった。なんだそのやさしい言い方は。
 実は、その素敵な言い回しは、どうやら沖縄特有の表現らしかった。土産物屋に行っても「こちら、同じ袋に入れておきましょうね」みたいな言い方を、男女問わず使ってくるのだ。ううむ、いいではないか。
 ちなみに私が違和感を感じない言い回しは「もう火は消しておきますね」「同じ袋に入れておきますね」だ。語尾がちょっと違うだけで、これほどやさしく聞こえるなんて不思議だ。
 とりあえず、食べたい物を全部制覇した我々は店を出た。
 土産物を買って、宿に戻る。

 宿には良く効く消臭剤、清水香というのがあって、帰ったら個人で買えるかどうか調べてみようと思っていたのだが、今まで忘れていた。そして、清水香は一応個人でも買えるけども、一本だけ買う、というのは無理なようだということがわかった。
 ああ、とりあえずやりたいことはやった。
 本当は夏に来て、とてつもなくきれいな海で泳いでみたかったが、それは次回の楽しみにしておこう。
 我々は眠りにつき、朝目覚め、前日と同じ朝のバイキング料理を食べた。
 ホテルを去る時、フロントから「工事の件でご迷惑をかけたので…」と、お土産にちんすこうをひと箱くれた。ありがたく受けとり、だからといってもう一度是非来たいとは特に思わないな、と冷静に考えつつチェックアウト。


▲沖縄県庁前駅の風景
 あとは、飛行機に乗ってパーッと帰ってきたのだった。
 今回学んだことは、沖縄と言えばシーサー、ソーキそば、ちんすこう、ゴーヤチャンプルーだった私が、新たにジーマーミ豆腐というキーワードを得たくらいだろうか。だが、沖縄に行ってうまいもん食っただけでも、何かしら私の経験にプラスされているような気はする。
 また行ってみたい。