ある日、キーボードのすきまにホコリがたまっていることに気がついた。
綿棒で軽く掃除を始める。綿棒のアタマが大きすぎて、うまくすきまの掃除ができない。待てよ、キーボードのキーの部分を一つずつ外して掃除すれば、とてもキレイになるのはないか。
極細のマイナスドライバーを用意し、「;」(セミコロン)キーの下に差し込む。ぐいっと、こじった。
ぷきん。
小気味いい音を響かせつつ、突如消失するセミコロンキー。約2秒、世界は静けさにつつまれ、かつん、とキーがどこかに落下した音が聞こえた。私はあなどっていたのだ。キーの弾力というものを。
音がした方向を頼りに周囲を探すが、キーは見つからない。
そして私は気づく。一つでもキーの欠けたキーボードの価値は1/10以下に暴落するということを。幸いにも無くしたキーが「;」だったので、ブログなんかを書くのはなんとかできる。いざとなったら「セミコロン」と入力してから変換すればいいのだ。
とは言っても、セミコロンキーには比較的よく使う「+」も同居しているので、「+」を出そうとして、私の指は何もないキーを空振りするのだった。
10日が過ぎた。私は、セミコロンキーがいた頃を忘れつつあった。
かり…かり…
猫の「こと」が前足で弾いて遊んでいるものは、ああ、もはや再会をあきらめていたはずのセミコロンキーではないか。
「おかえり」「どこいってたの」「心配したんだよ」
元の位置に戻ったセミコロンキーを、近所の「:」や「@」の記号仲間や「P」や「L」などのアルファベットが出迎える。
もちろん、私も再会を喜んだ。あるべきものが普通にそこにある幸せ。
私は、猫の「こと」にお礼のかつぶしを振る舞い、別にセミコロンキー探しには関わってないけど、欲しそうな顔をしていた猫の「ぱく」にもかつぶしを振る舞った。
もしゃもしゃと猫がかつぶしを食う音を聞きながら軽快にキーボードを叩く。無くした物を探すコツは、探すのをやめることだと
LOSTのロックが言っていた。その通りになったと思いつつ、今回の日記を終わる。