肉落とし


 最近、歳のせいか服にやけに関心が出てきた。
 会社を辞めてから、私服で行動することが多くなった私は当初、せめてこざっぱりした格好をするようにしよう、と考えていた。それが徐々にエスカレートし、今では、気がつけば服の通販サイトを30分以上真剣に眺めていたりする。そして、「ほぁ!」とかけ声をかけて、注文ボタンをクリックしてしまうのだ。
 毎回、同じ配達員によって届けられる服。何をそんな頻繁に通販してやがんだ、という視線をあびつつ、私は受け取りにはんこを押す。
 びり、ばりばり。
 通販の袋には、これが入っていた。


▲クリーニング屋のハリガネハンガーにかけられた通販服
 今回注文したのは、ライダースジャケットと、ジーパン(Blunt Boots Pants)だ。例の代官山ブランドである。
 ああ、いいデザインしてやがるなぁ。さんざん眺めた後、ライダースジャケットを着る。何故か猫が部屋の隅に逃げた。違う人になったと思われているのかも知れない。それはともかく、なんとも言えない楽しい感じだ。気に入った服を着ると、いい気分になってくる。
 続いて、ジーパンを履く。いや、履こうとした。
 ジーパンのジッパーは途中で止まっていた。私の下腹部の肉が、ジーパンの着用を拒んでいるのだった。
 ひらたく言うと、私の腹と尻が、そのジーパンに入らなかったということだ。だが、ここまでは計画通り。あえてひとつ小さめのサイズを選んだのだ。
 今後の計画は、腹と尻の体積を縮小し、ジーパン内に私の下半身をビルトインさせるのだ。わかりやすくいうと痩せて履けるようになろうということである。
 次の日、あまり人の居ない早朝を狙って、こそこそとジョギングを開始する。距離は一キロ程度。恐ろしいことに社会人になってからそんな距離を走った覚えがない。とりあえず、朝から救急車で運ばれるのだけは避けようと、そろそろと走り出す。
 5分後、準備体操をやっていなかったことに気づく。急にアキレス腱が切れたりしませんように。ひゅうう、ふっふっ、ひゅうう、ふっふっ、という妙なリズムで呼吸をしつつ、いや、正確に言うと息を切らしつつ進む。環七まで行って、折り返し、なんとか家まで無事帰ってきた。完走だ。
 これは絶対続かない。今日は走ったから焼肉食べようとか言って、逆に太るパターンのような気がしてきた。しかし、このジーパン履きたいなあ。
 とりあえず明日走るのをいきなりさぼってしまったら、別の何かを考えようと思いつつ、今回の日記を終わる。