窓の外の風景が、次々と後方にすっとんでいく。
連休の週末、私は名古屋に向かう新幹線の中にいた。テンションのあがったこどもが、「ぽーにょぽーにょぽにょ、さかなのこーっ!」と絶叫する。ああ、流行っているんだな。
大阪に住むMえだ氏と落ち合って飲もう、ということに急きょ決まった私は、早朝から東京-名古屋間を高速移動しているのだった。
駅で買うと高いからと、コンビニで買ってきたサンドイッチとおにぎりを食う。
そんでもって、
菊地秀行のエロス&バイオレンス色のきつい小説を読みふける。ブックオフで安く売っていたやつだ。毎回、わき毛ボーボーの女が出てきて、「奥さん、他人に見せるために剃っていないのかい」みたいなことを言われて辱められるシーンが出てくるのだが、今回もやっぱりそういうシーンが出てきていた。
作者は、わき毛にものすごい関心を持っているようだ。私はそれほどでもないが。
そんなわき毛小説を読みつつ、朝の9時40分ごろ名古屋駅到着。人が多い。
しばらくして、Mえだ氏と合流し、名古屋城を見に行くことになった。本当は別にものすごく行きたいわけじゃないけど、こんな朝から飲むのはさすがにちょっとなあ、と思って時間つぶしのつもりで行ったのだ。
名古屋駅から20分弱くらい歩いて、城に到着。城の前には、加藤清正像があった。Mえだ氏は、ちょっとおしっこ、と言ってトイレに行った。一緒に歩いていると、唐突にいなくなって、どこ行ったのかと思ったらおしっこしてたというMえだ氏は、ちゃんと人に告げてから行くようになったようだ。大人になったということだな。
▲加藤清正像 カゴメ株式会社が作りました、と書いてあった
500円払って中に入ると、まあ、城だった。強烈に城に興味があるわけではないので、ふんわりと上っ面だけを見学して回る。
▲しゃちほこ(のレプリカ)発見
このしゃちほこは、金の部分がはげてぼろぼろだったのだが、写真ではそこそこきれいに映っている。
▲本丸
さらに歩くと、本丸がでん、と立っていた。いや、建っていた。お堀の水は抜いてあり、鹿が離されていた。これはたぶん、城なんてつまらないもう帰ると叫ぶ子供の関心を引くための仕掛けなのだろう。
見ていると、「あっ、鹿が動いたー!」と、子供ばかりかいい年をした大人までもがまんまと関心を引かれていた。正直に言うと、私もなんかしらないけど嬉しい気分になってしまっていた。
▲場内に入る直前の通路
鹿により、テンションがあがった私は、これといって特徴のない通路の板を「いい板だなあ」と知ったような顔をして写真に収めた。あとで、冷静に見てみると、なんでこんな写真を撮ったのかがわからない。
場内に入ると、基本は撮影禁止っぽかった。ほんとは、フラッシュをたかなければOKだったのかも知れないが、まあ、大人しく見るだけにしておいた。
城は地上7階まで階段で上がって、階段で下りるという方式で、普段から酒浸りのMえだ氏は息を切らしていた。私は、7階まで上ってから、けっこう階段を上ったような気がするなとは思っていたが、7階も上ったと知ってびっくりしていた。
場内の展示物は、城の模型だとか、当時のことを描いた絵や書物、刀なんかだった。城下町を再現したコーナーもあって、階を上るごとに休憩しながら進めば、結構楽しめるかも知れない。
屋上は展望台とお土産屋になっていて、金ぴかの置物が多数売られていた。金ぴかのコインに名前を彫る機械も置いてあった。
地上に戻り、軽い気持ちで土産物屋に入ると、中では名古屋ローカルの顔を見たこともないタレントが、しゃちほことお土産のお菓子の名前を叫びながら撮影をしていた。
城をそこそこ堪能した我々は、名古屋の南、内海というところに向かう。
名鉄なんとか線を乗りついで、現地に向かう。名古屋駅では、電車によって乗車口が微妙に違うのだが、「次に来る電車の乗車口はここだよ」ということをランプで教えてくれていて、とても効率的だった。
風景が徐々に、のどかな感じになっていき、やがて内海に到着する。
8月ならば海水浴客もたくさんいたのだろうが、9月となっては何の用があって来るの、というくらい人が居ない。
私とMえだ氏は、人がいなさそうなとこに目をつけ、昼間から浜辺でビール飲もうぜ、と考えて来たのだ。
宿泊場所は、
料理旅館はしもとというとこで、チェックインまでまだ間があった。とりあえず、浜辺の近くのスーパーでビールとつまみを買って、浜で飲むことになった。いい天気だ。
かんぱーい、はい、おつかれさんですおつかれさんです。ぷはーっ、うめーっ、いーっひっひっひ。そんな感じで、浜辺のビールを楽しみ、ちょっと海に足だけ入ってみることになった。
穏やかな波が、寄せては返し、返しては寄せ。ざん、ざざーん、と心地よい波の音を響かせている。
Mえだ氏が思いつめた顔をして、「あーっ、つかりたくなってきた」とつぶやく。Mえだ氏は自分だけ水着を持ってきていて、もう泳ぐ気まんまんなのだった。
ラッキーなことに、こんな季節外れにやってくる奴らのために、一部の海の家は営業中だった。ここに来るまでに、その海の家で水着を売っていることは確認済みである。海につかる、ということに特に異論のない私は、とりあえず宿にチェックインだけ済ませて、Mえだ氏を残して水着を買いに戻った。20分くらい歩いて、海の家にたどりついた。
紺色の、地味な半ズボンみたいなやつをガラスのショーケースから取り出し、海の家のおばちゃんに、コレ下さいと伝える。2,500円と書いてある。
おばちゃんは「値段書いてないけど、2,500円でいいよ。たぶん、ほんとは2,900円くらいするんだけど」と言い出した。いや、はっきり2,500円って書いてありますよと訂正するのもなんなので、そうですかどうもありがとうと伝えて、おばちゃんに恩を着せられておいた。
また20分ほどかけて、宿まで戻る。
宿のすぐ前は、砂浜だった。水着に着替えた我々は、海に繰り出す。日差しが強いとは言え、今は9月半ばだ。
だが、入ってみると水温はちょうどよかった。そして、クラゲにも全く遭遇しなかったのだ。ああ、海はいいなあ。
特にかっこよく泳いだりすることはなく、深いとこまで行って仰向けに浮かびながら浅いとこまで流されてきて、また深いとこに行って、疲れたら浜にあがるということをずっと繰り返した。
夕方までさんざん遊んで、宿に戻る。
▲宿
夕食は、宴会部屋みたいなとこで、われわれの他に2組の客がいたようだ。一組は合コンのようなノリの集団で、薄い壁が一枚置かれて隔離されてはいたが、とてもうるさかった。もう一組は二人の子供づれの夫婦で、子供はそうでもなかったのだが、アレしちゃいけません、コレしちゃいけませんとヒステリックに怒る親がうるさかった。
出てきた料理も、料理旅館と名乗っているにしては、うげほごほ、まあ、そこそこ楽しんで部屋に戻った。
Mえだ氏は500mlのビールを飲みまくっていた。Mえだ氏は徐々によっぱらい、最終的には会話が成り立たなくなるほど泥酔したのでそろそろ寝ることにした。おやすみ。
朝、浜に出て散歩したり、朝飯を食ったりして出発。
私は、帰る段になると、もうちょっとだけ遊ぼうぜえという気分になるのだが、今回は特にそういうこともなく、名古屋まで電車で戻って「じゃあまた」とあっさり別れた。
そして、特に何事もなく帰って来たのだった。