唐突に思いついて函館に行った話 その2

唐突に思いついて函館に行った話 その2


 五稜郭タワーの1Fで若干温まった私は、すぐ近くの函館美術館で、こんな展示が行われていることを知った。

 ドラえもんの展示である。
 子ども時代に、私をとりこにしたドラえもん。これは、北海道とか函館は全く関係ないけども、とりあえず見ておかないといけないだろう。幸い、本日は平日なり。きっと、ちびっこたちでごった返したりはしていないはずだ。
 ドラえもんの展示がやってたから見たくなったんです、という雰囲気を出さないよう、学術的探究心にあふれたような顔を心がけながらチケットを買う。いやいや、大人がドラえもん見たって構わないとは思うのだが、あまり子供が集まるようなところにいい年こいた男が一人で行くと、子供におかしなことをする変態みたいな目で見られてしまうのだ。気のせいかも知れないが。
 とにかく、私は中に入った。「みんなでドラえもんを描こう!」という、コーナーがあり、クレヨンと画用紙が用意してあった。子供たちにドラえもんを描いてもらって、空いたスペースを埋め、いや、素晴らしい配慮のコーナーだったが、そこには大人が描いたような不自然なうまさのドラえもんが二枚、画鋲で壁に止められていた。きっといたたまれなくなって、仕方なく職員が、いやいやいや、上手なドラえもんだなあと思いつつその場を通過した。
 まず、ドラえもんの単行本がずらりと並んでいた。読み始めると半日くらいは軽くつぶれてしまいそうな量だったが、読むと怒られそうな展示のされ方だったので見るだけにしておいた。大人だから。
 続いて、巨大などこでもドア。特にドラえもん愛を感じない、やっつけ仕事うげほごほ、立派なドアであった。
 そしていよいよ、原稿の展示コーナーに突入だ。修正液で修正が入っていたり、セリフの文字の部分が紙で張り付けられている。初期のずんぐりしたドラえもんの原稿から、だんだん描きこなれてきたドラえもんまでさまざま。ただし、1枚単位で展示されていたので、ああちくしょう、この前後が読みたいなあと思いながら先に進む。とても懐かしい。
 次のコーナーに移動しようとしたところ、誰かがお行儀よく椅子に座っていることに気がついた。これは、乱暴者が展示物に狼藉を働いたりしないように展示物のふりをして周囲に溶け込んでいる係の人である。特に悪いことはしていない私であったが、なんとなく見張りの人の近くは早足で通過した。
 ふうむふむ、懐かしい、これ知ってる、ああ、これは知らないなあなどと、にやにやしながら進む。幸い、私の他の客もみな、いい年した大人だったので、完全にその空間を楽しめた。
 油断していると、最後のほうに「のび太が生まれた日の話」「のび太がおばあちゃんと会う話」「のび太がドラえもんに休日をプレゼントする話」「ドラえもんが未来に帰ってしまう話」などのグッと来る話が集められており、さらにちゃんとまとまったストーリーが読めるようになっていて困った。
 それまでぷるぷるしながらも、なんとかこらえていた私も「そして、ドラえもんが戻ってくる話」でとどめを刺されて、もう、泣いた。泣いたが、人が後ろから来たので、足早にその場を立ち去った。
 それ以降は、子供の写真とドラえもんの合成写真だとか、ドラえもんアートとかいうよくわからない誰かが描いた落書きなどが展示されており、私の盛り上がった感情をクールダウンしていく。
 最後に、ドラえもん愛を感じない「リアルのび太の部屋」が再現されており、私は完全に平静さを取り戻して展示室を出たのだ。


▲美術館前の銅像
 美術館を後にした私は、五稜郭公園に向かうことにした。五稜郭は、今や特に建物なんかはなくて、堀に囲まれた公園と化しているようだ。


▲五稜郭公園
 五稜郭公園は、地上で見ると特になんということもない、だだっぴろい公園だった。そして、寒かった。とりあえず、真ん中の方まで行けば何かしらあるようだったので、なかに入る。


▲公園内から見た五稜郭タワー
 若干、小高いところにのぼり、ちょっと階段を上っただけで息が切れる自分に驚きながら、五稜郭タワーと、その下で暇そうにしている貸しボート屋の人を見た。こんだけ寒いと、ボートに乗る人もいないのだろう。どれくらい寒いかというと、たぶん、コートを着込んでちょうどいいくらいの寒さだ。
 私はスプリングコートとかいう、ぺらぺらのコートしか着ていなかったのでとっても寒かった。


▲こうじちゅう
 さらに進むと、何やら工事中だった。なるほど。
 いくつか観光し残している場所があるような気がしたが、もうだいたい満足したので帰ることにした。正直言うと、寒いのであまり楽しくなかったのだった。
 とりあえず、五稜郭はこんな感じだ。

 そのままバスで函館駅に戻る。


▲歯科医と甘味処がおとなり
 道中、歯医者と甘いものが食べられる店が隣り合っているのを発見。甘いものを食べすぎて歯が痛くなってもすぐに治療が受けられる、というそういう連携なんだろうか。
 駅に戻って、駅ビルのとんかつを食う。地元のなんとか豚を使ったとんかつなんだそうだ。顔から油が吹き出しそうなくらい脂っこかったが、うまかった。
 予約したスマイルホテルはチェックインが2時からと、とっても早くから部屋に入れてくれるので、さっそくチェックイン。


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 ちょっとだけ寝ようと思って、起きたらもう夜だった。


▲もう暗い
 夜の街が私を呼んでいるので、あわてて外出する。
 ホテルを出る前は、海鮮系炉端焼きに行こうと思っていたのだが、途中目についた居酒屋に入る。


▲レバ刺し
 とりあえず、牛レバ刺しを注文。あとはサラダやら豚キムチやら。そこへ、「当店自慢の料理が3つございます」と、店員が語り始める。ジンギスカン鍋、お好み焼き、アイスクリームであった。
 なんというか、鍋もお好み焼きも、注文したらそれだけで腹いっぱいになってしまいそうな感じである。かといって、アイスクリームを一発目から食うわけにもいくまい。なんとなく、いえ、要りませんといいづらかったので、とりあえずお好み焼きを注文した。
 お好み焼きは山芋がいっぱい入ってておいしかったのだが、1.5人前くらいの量があり、いろんなものを少しずつ食べたい私の計画はもろくも崩れ去った。


▲チーズ刺し
 頼んでおいた、サラダと豚キムチも、たいそうな量があり、私の席の前には3人がかりで食うような料理が並ぶ。さらに、チーズ刺しが来た。
 チーズ刺しだなんて、たかがチーズをおかしな食い方しやがってと思いながら食ったら、めちゃめちゃうまくてびっくりした。チーズにワサビ醤油というのは結構合うらしい。
 ああ、食った食った。一日の消費カロリーの倍くらいは食ったかなあ。帰り際に、店のパンフレットをもらったのだが、なくしてしまった。まあいいか。
 宿に帰り、私の身に何かあったときに誰も気づいてくれないと悲しいので、知り合いなどにメールして寝た。<つづく>

 

唐突に思いついて函館に行った話 その3