肉落とし再び


 私の太ももにとりついた悪霊、つまり筋肉痛がだいぶマシになったのは3日後だった。
 ここ数日、筋肉痛を理由に走るのを中止していたが、理由がなくなったのでしぶしぶ再開することにした。何かを決めて、それを実行し続けようとすると、何故かとてつもなくさぼりたくなる、困った私であった。

 早朝五時。
 人目につかないよう、まだ暗いうちに走り始める。ウインドブレーカー系の風を通さない上下を着て、首にタオルを巻く。格好だけはそれっぽい。今回は、ちゃんと準備運動もしておいた。屈伸数回だけだが。
 距離は、前回と変わらない1km程度。ひたすらまっすぐ走り、大きな道路にぶつかったら折り返して戻ってくるという面白みのないコースである。数百メートル走ったところで、早くも息が切れる。これは前回と同じだ。 足がだるい、体が重い。全身に手かせ足かせをつけて走っているような気分であった。ぜい肉という名の手かせ足かせ。
 走る際の上下動により、私の余った肉が震える。ああ、こことここにぜい肉があるんだな、と認識しつつ走る。何かの拍子にすぽーんと抜け落ちてしまえばいいのに。こぶとりじいさんに出てくる鬼が物陰から襲いかかってきて、私のこぶを強奪していてくれないものだろうか。
 折り返し地点。前回よりは若干楽なような気がする。だが、立ち止まれば再び走り出す気力はないだろう。ひゅぅう、ふっふっ、ひゅぅう、ふっふ、一回吸って二回吐く。気がつくと、二回吸って一回吐いている。息の中に、何か血のような匂いが混じる。私は子供のころから、激しい運動をして息が切れると、なんだか血のような匂いが息の中に混じるのだが他の人はどうなんだろう。
 あと1/4。
 もう、立ち止まって一休みしたい。だめだ、何か楽しいことを考えよう。
 楽しいこと。
 尻が入りきらなかったズボンを見事履けるようになるビジョン。それだ。そのために走っているんだった。そんな苦労せずに、ちょいとサイズ大きめのやつを履けばいいんじゃないの。私の中で怠け心を担当している悪魔がささやく。
 あと数百メートル。
 もう、ここまで来たら歩いてもいいんじゃないの。さらにささやく悪魔。
 私の住むマンションが見えた。
 あと10秒だけがまん。あれ、まだだな。じゃあ、もう10秒だけがまん。あれ。
 しばらくして、ようやく、無事にマンションの玄関までたどり着いた。

 これで二日走ったことになる。これを毎日やるのは、やはり大変だ。週に二回くらいにしておくか。
 などと言いつつ、これ以降さぼってしまって、三日坊主以下で終わってしまう可能性も結構あるよなあ、と思いつつ、今回の日記を終わる。