ある週末。
部屋を掃除していると白い、堅い毛が落ちていることがある。人間はどうがんばっても生やせないような堅い毛。これは猫のひげなのだ。
猫のひげは口の周りのほか、眉毛のあたりからも生えている。軽くひっぱると嫌そうな顔をする。そう簡単には抜けそうにない。
それが床にぽつんと落ちている。
私は考える。
このひげを集めて、何かの役に立てられないだろうか?
堅さから言って、歯ブラシはどうだろう。だが、猫のひげで歯を磨くのは抵抗がある。そもそも必要な本数が多すぎる。猫もひげなしになってしまうというものだ。
とりあえず束ねておいて、猫が年老いてひげが少なくなってきたときに植毛するというのはどうだろう。備えあれば憂いなし。どうやって植毛するかはそのときに考えればいいのだ。
私は床に落ちている猫のひげをつまみあげ、その弾力を確かめる。
うむ。
ふと横を見ると、猫が気持ちよさそうに寝ている。
私は手に持っているひげと猫の顔を交互に見つめ、ひげを猫の鼻の穴にこっそりと突っ込んでみる。
くしっ!
ねこがくしゃみをする。
再度突っ込んでみる。
くしっ!
調子に乗ってさらに突っ込んでみる。
くしっ!
猫は別の場所に逃げる。
私は満足げな表情でひげを机の上に置く。そのときは確かにひげを集めてやろうと思っているのだが、不思議なことに次回、猫のひげが発見されるころには、前回のものがなくなっているのだ。
これはせまい部屋の中で、靴下のかたっぽがすぐに無くなってしまうという、ブラックホール現象の一種だろうか。
いや、そんな非科学的なことはあるまい。恐らく私が目を放した隙に猫が抜けたひげを食い、そのひげがまた生えてくるというリサイクル機構によるものだ。
これは私の推理に過ぎないが、会社や学校で自分が考えたことのように話してもらって構わない。
最後に一言だけ言っておきたい。
ここまで読んでもらって申し訳ないが、本当にどうでもいい話だなこれ。