肉落とし 浮き輪編突入


 なんとか続けられる程度の努力の結果、例のサイズの小さいズボンに尻を入れることに成功した。
 ただ、尻が入っているだけで履けているとは言い難い。ズボンの中に入れるべき腹のかたまりを、無理矢理、外に追いだしている感じなのだ。ズボンの上に出来た肉の浮き輪。悪夢のような状況であった。


▲イメージ図
 まさかこんな形で、「寄せて上げる」ということを体感することになろうとは。肉もつもれば山となる。肉浮き輪を均等に引き延ばして、胸や背中に均一に再配置出来ないかと思ったが、そんなびっくり人間のような芸当は無理だった。
 さらに、数日前に入らなかったズボンに今、尻が収まっているのは、無茶したからズボンの生地が伸びただけ、という疑惑もある。調子に乗ってこのまま外出したりすると、無理な力がズボンにかかり、不意に空中分解してしまうのではないか。私はプチ露出狂として近所を恐怖のどん底に突き落としてしまうのではないか。恐ろしいことである。
 だが、曲がりなりにも履けていたので、調子に乗って外出することにした。大きめの上着で肉浮き輪を隠し、外出する。私の上着の中には、決して人に見せられない恐ろしいものが潜んでいるのだ。ベルトで完璧に固定し、力んだ拍子にズボンが爆発しないようにした。
 苦しい。
 細心の注意を払って階段を下る。マンションの玄関を出て、ゆっくり、ゆっくりと歩き始める。
 裾があまりすぎ、すそ上げ失敗したかなあと思われたズボンは、靴を履くとけっこう良い位置に落ち着いていた。そして、何よりもかつて履いたことのないほどかっこいいデザイン。ベルト位置もめちゃめちゃ低い。これだけの苦しみを支払っても、充分おつりの来る状況であった。
 そのまま、私は歩き続け、買い物をして帰ってきた。
 ジーパンも無事だった。
 私はジーパンを丁重に折りたたみ、ちゃんと履ける日を夢見て、今後も少しずつ尻を縮める作業を続けるのだった。